第12話『二代目と三代目の墓所』

「なんで、黄金の魔法書を探しているだけのアーテが狙われたんだ?」


 ここが大事な点だ。


 探すこと自体は、見つけ出す手間を考えられればある程度はいた方がいい。ところが当の本人はまだ知らないというのに暗殺までされた。どういうことだと、気にならないのは嘘になる。それにこの女は、本当のことをまだ話していない。


「私もわかりませんのよ? 私が知りたいぐらいですわ」


「さすが国を動かしていただけあるな……。俺に嘘や隠し事が通じると思った時点で終わりだ」


「おっ、お待ちを!」


「消えろ! 解放!」


 影化した者を消滅した場合は、恐らく二度と戻らない。何か企む心の声までこちらに聞こえるとは、思っても見なかったのだろう。抜け目なくライゼン復活を誘導させて、何かをしようとしていたのは間違いない。


 そうした輩は後々面倒を起こす可能性が高い。リスクをあえて抱えるほどまだこちらは磐石ではない。ただ黄金の魔法書のことは本当であることがわかるし、青い薔薇の組織も気になる。確か俺の知り合いにもそういえばその刺青をしていた者がいた……。


 ――黄金の魔法書


 俺はもう一つの可能性を見出した気がした。このまま継続して影化した死者から、魔法スキルを引き継ぐこと。他には、黄金の魔法書も合わせて探していく。両方から探していけば可能性も広がる。


 この墓所には英雄の時とは異なり、初代国王の裏で操っていた人物のみ埋葬されていた。国王として表向き姿を見せていたホムンクルスは、儀式用の墓所に埋葬されたのかもしれない。操り人形ついてはとくに必要もないため、あえて聞かずにアーテを消滅させた。


「六花、リリー。ここには事情から恐らく何もない。このまま次の場所に向かうぞ」


「はーい」


「承知しました」


 俺は二人の反応を確認して、このまま次の墓所がある北に向けてまっすぐに進む。不思議なことに、なんでこのように墓所を分けているのか未知数だ。並び順番も理由がわからなかった。


 とは言え、俺のいた元の世界でも王ごとに異なる墓所があったことを考えると案外普通のことかもしれない。時の権力者ごとに主張したい内容も異なるからなと個人的には納得して自己完結してしまう。


 この悪路が続く中、みなよく頑張って進んでいると思う。リリーの様子を見る限り、そろそろ次で休憩にした方が良さそうだ。


 今夜はそのまま次の墓所で野宿することを二人に伝えると幾分安心したのか、リリーが安堵したように見えた。


「リリーすまない。悪路なのにロクに休憩も取れずで。次の墓所で一晩を過ごすからもう少し耐えてくれ」


「あっ! ジン様お気遣いいただきありがとうございます」


「素直に礼がもらえてよかった。そこで私なんてと言われたらどうしようかと思ったよ」


「はい。以前ジン様が素直な気持ちをと仰っておりましたので……。よかったですか?」


「もちろんさ。これからも頼む」


「はい。ありがとうございます」


 はにかむような笑みを見せたのち、幾分元気を取り戻した様子だ。


 今夜はテントを使おう。簡易的なテントは、町外れで得た魔法袋に詰めてある。


 今までと同じ城壁に囲まれた作りなら、出入り口さえしっかりと閉鎖しておけば何も問題にならない。今回は、一人目の英雄で確保した十人を試して見ようかと考えていた。統率は取れているので、戦闘部隊として機能しそうで期待が持てる。おかげでこちらはゆっくりと眠れそうだ。


 ――数刻後


 ようやく木々の隙間から、城壁が見えてきた。色も質感も前回同様の物だった。城壁は共通の規格でもあるのかと思うぐらいだ。


 同じく格子の門も同様に太い鎖で閉じられていて、英雄ブレイドに鎖だけを切ってもらい中に突入した。


「ふたつあるのか……。二代目と三代目? どういうことだ?」


 ここだけは何故か理解が出来ない。墓石は同じく御影石のような材質で王の名前と功績がつづられている。やはりこちらも訪れる者がいないのか、苔むした状態で荒れ放題だ。


 俺は二代目と三代目についての事前情報はまったくない。そのため何が襲いかかるのか検討もつかない。もちろん一般市民の墓石も同じことはいえる。ただし、王族や英雄となると最後は凄まじいことが多い。前回の初代の時もそうだった。


 幾多の他人の死を疑似的に追随体験をしても、その瞬間は自分に起きたこととなんら変わりない。ゆえに、負担がかなり強く精神的にもキツイ。恐らくこのまま続けたら、近い将来廃人になるかもしれない精神状態でもある。周りから見たら俺の様子は、結構平気そうにしていても実は、崖っぷちに立たされている。


 この厳しい状態になっても、リラを蘇生するための魔法は何が何でも手に入れたいと考えていた。


 今は初代の話しから本当に、英雄ライゼンが黄金の魔法書について知るのか、二代目に確かめたい。俺は内心覚悟を決めて二代目の墓へ力を行使した。


「――影化」


 一瞬にして掘り起こされた棺は、濡羽色をしたつや消しの黒だった。この違いが何かはわからず、続いて影化を行う。


 ――視界が暗転した。


 どうやら戦場なのか……。死臭が漂い辺りは陣地内にもかかわらず生臭さもある。武装した兵たちが守る中でどんよりとした曇り空は、今後を占うようでもある。まだ真昼間だというのに、酒をかっくらい勢いづける兵士もいた。周りには将校たちと参謀なども入れて十人はいるだろう。


 何か深刻な話しをぶち壊すかのように、突如乱入する者が現れた。


「グラム王! お覚悟!」


 背後から騒がしく何かが迫る。


「ライゼン! 貴様!」


 このライゼンと名乗る者は、年の功二十後半といえるだろう。まさに日本人といえる和装で黒い長髪を後ろに束ねて迫る速度のせいか髪が後ろではねる。手には刀を握り差し迫る。まさかここで日本人と思わしき人物が登場とは驚く。


 一方で王族に対しては、このライゼン裏切り者のようだ。やはりあの処分した初代は、処遇としては正解だった。


 疑問なのは、何故初代の息の掛かった者が貴重と思われる手駒を使い、本陣に攻め込ませたのかがわからない。味方だから入り込み安いのは理解ができる。ただ理由がまったく想像つかない。


 周りを取り囲む将校たちや参謀を一瞬にして斬りふせて王に迫る。銀色の閃光と剣筋を目撃したのち、視界が閉じられると同時に意識は暗転した。恐らくは即死のためか、一瞬の痛みだけで終わった。


 すぐに俺自身に意識が戻ると、影化した二代目が現れる。


 支配する側とわかるのか、跪き頭を垂れる。そのまま声を待っているかのようだ。


「顔を上げてくれ、単刀直入に聞こう。黄金の魔法書について知っていることをすべて話して欲しい」


 ゆっくりと顔をあげると、まだ若く二十代半ばぐらいに見える。青黒い虹彩に焦げ茶に近い髪色は、表向きにいた初代に似ている。


「尊きお方にお会いでき、大変光栄に存じます……」


「世辞はいい。質問に答えてくれ」


「はっ! 主殿。私は名前だけしか存じておりません。詳しくは研究をしていた三代目に伺っていただけたらと存じます」


「わかった」


「お役に立てず誠に申し訳ございません。何なりと罰をお与えください」


 どうにもクソ真面目で硬いやつのようだ。


「次回の働きに期待する。――そういえば、死の直前に現れたライゼンは二代目に対して、何か思うところでもあったのか?」


「私には接点がありませんので何とも判断しがたいです。タイミングからするなら近々三代目から、ある内密な話をする予定でした」


 話が断片的すぎて、確認するのは今ではない気がしたので切りあげる。


「なるほどな、何か関係はあるかもしれないな。今は、影として蘇生したばかりだ休むとよい。後で何が得意か聞かせて欲しい」


「承知! 機会を頂けましたこと有難く存じます」


「下がってよい」


「はっ!」


 今回は裏づけだけがとれたので成果としてはよしとしよう。今回は”幻影”を得た。国王ならではの活用方法があり応用が効く。


 三代目が研究をしていたという情報は貴重だ。恐らくはなんらかしらつかんでいたのかもしれない。俺はさっそく、三代目の棺を掘り起こした。


 やはりこの二人は初代と違うのかまた、特徴がある。ぶどう色をした棺が現れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る