第42話 クリスタルシールドに決定!
「おい、コーヅ。いつまで寝てるんだ。」
……誰かの声が聞こえる。でも眠いし、まだ起きない。起きたくない。
「おい、コーヅ!おい、起きろよ。」
薄く目を開けると……ヴェイが俺を揺すりながら起こしていた。俺は諦めて目を開けて、のっそりと起き上がったがまだ少し頭と瞼が重たい。
「おはよう、ヴェイ。まだ眠いよぉ。」
「ははは。そんなの筋トレすれば一発で目が覚めるぞ。足を抑えていてやるから腹筋やるか?」
俺はその言葉で目が覚めたよ。ありがとうヴェイ。
俺は起き上がってベッドに腰かけた。
「ヴェイって身体強化するときにどんな事に気を付けてるの?」
「俺は感覚を大事にしてるな。敵が居る、敵より先に後ろに回り込め。そして切り裂けってな。」
感覚の人か。天才肌の人に聞いちゃ駄目だな。
「ありがとう、ヴェイ。その域に達するにはまだまだ時間が必要そうだよ。」
「こういう事は体で覚えるのが一番だからな。俺が衛兵に戻ったら手合わせしてやろう。」とやる気満々な表情を見せてくれる。
えっと……。タイガーやショーンみたいに寸止めしてくれるんだろうか?ヒールで治るとか言って体に覚えこませられそうな気もするぞ。
「ヴェイのアドバイス通りの動きができるようになったらお願いするよ。まだ俺には早すぎると思うし。」とやんわりと断った。
俺はヴェイとリビングに戻った。リビングには朝食が置いてあるが朝から唐揚げが盛り付けられている。朝の俺はこういう重たいものは受け付けられない。どうしようと思っているとヴェイが「それすげー良い匂いするんだよな。」と唐揚げを見ている。
「これは唐揚げって言うんだ。俺は昨日も食べたから良かったらどうぞ。」俺はパンを手に取って残りの唐揚げをヴェイの方に押しやった。
「良いのか?」と一つ取り上げそのまま口に放り込んだ。「お、こりゃうめぇや!これだな、みんなが言っていた役得ってのは。」と2個目、3個目と口の中に放り込んでいく。
「それにしてもこんな美味いものが出るなんて、今日はお祝い事がある日だったっけか?」とヴェイを少し思い出そうというそぶりを見せたが、すぐに諦め食べる方に戻った。ヴェイは5個の唐揚げを軽く食べ終えて「ごっそさん。」と大きな笑顔を残して洗濯物と共に部屋を出ていった。俺はそんなヴェイの後ろ姿を見つめながらパンをモソモソと食べていた。
食事を終えてからティアが来るまでの時間を今日から魔獣狩りまでは、身体強化のトレーニングに充てようと思う。
俺はリビングの中で行ったり来たりしながらトレーニングを進めていった。まだスムーズに歩くというところまではいかないが、体の動きに魔力を合わせる感覚は身についてきた。
コンコン
ガチャ
ティアが入って来た。ティアは歩き回ってる俺を見て「どうしたの?何か悩みごと?」と聞いてきた。他の人からはそんな風に見えるのか。
「身体強化しながら歩く練習をしてたんだよ。」
「へぇ、昨日に比べたらだいぶ進歩したんじゃない?」と褒めてくれた。
「で、今日はどうする?身体強化の続きをしたい?私は実践的な攻撃と防御魔術を少し教えようかなって思ってたんだけど。」
どちらも俺には必要で魅力的な提案だ。俺は少し考えて魔術を教えて貰う事にした。俺の身体強化のトレーニングはまだ自主練でできるレベルの事だからね。
俺とティアは訓練場を目指して部屋を出た。ヴェイには親指を立てられてニカッと笑顔を見せられたので、俺も親指を立ててニカッと笑顔で返した。そんな俺たちをティアは不思議そうな顔をして見ていた。
……
「今から魔獣狩りまでに攻撃魔術と防御魔術を実戦レベルに引き上げる事は難しいと思うの。でも良い機会だから基礎だけ教える感じね。」
ティアは俺から少し離れて手のひらを上に向けた。そして炎のを作り出した。その炎も徐々に色が赤から黄色に変わっていった。近くには寄れないような熱を感じる。大体火の色が赤じゃないって温度が高いってことだもんね。
素直に凄い力だと思った。こんなのが自分に向かってきたら骨も残らなさそうだな。ティアを怒らせる事だけはしてはいけないと俺の心に深く刻まれた。
「基本はこういう火魔術を形を変えたり動きや数を変えたりして使うのよ。私はこれを22個同時に出して打ち出すことができるの。大抵の魔獣はそれで倒せるわ。」
魔獣でもさすがにこの威力では生き残れないのか。ティアの力は圧倒的だな。これがSランクの力ってことか。
「ドラゴンとかも?」と興味本位で聞いてみた。
「男って本当にドラゴンが好きねぇ。ドラゴンは伝説の魔獣よ。会ったことあるわけ無いでしょ。」と呆れた目で見られた。
「それよりも今のコーヅには守りの魔術の方が大事ね。まずは生き残ること。生き残れたら次もあるから。」
ティアは手を俺の方にかざした。そしてティアが手に魔力を込めるとティアの前に体よりも大きな火の壁ができた。
「こんな盾を作るのよ。実戦ではどこから攻撃が来るか分からないから全方位に壁を作ることもあるし、他の人も含めた大きさで作る事もあるのよ。」
目の前に居るだけで火の熱で顔が焼けそうだ。こんなの盾を超えて武器だと思った。押し付けられたらそれだけで俺は焼け死ぬと思う。魔獣狩りってみんなからはちょっとしたイベントの雰囲気に感じられるが、こんなレベルで戦うんだよね。一歩間違えれば命を落とすこともあるわけだ。俺もできる限りの準備をして無事に戻れるようにしないといけない。俺はまず逃げる事と守る事が大事だと思う。
「コーヅは石の壁を作ると物理攻撃の盾にはなるわね。厚くすれば強度も増すし。今回の範囲では物理攻撃の魔獣ばかりだから石の壁で練習しよっか。」
確かに俺でも石で盾を作ることならできるな。俺はいつもの様に目の前に手をかざし大理石で壁のような盾を作った。自分よりもひと回り大きな壁を作った。
「さすが、土魔術ならお手のものね。」
そしてティアはその大理石の盾をコンコンと叩いた後に俺の方に押した。石の壁は当然こちらに倒れてくる。
バン!
「うわっ!ティア、危ないよ。」
俺は倒れて足元に倒れて砕けている壁を見ながら文句を言った。
「作るのはこんな板じゃなくて、盾よ。私が押しただけで倒れてたら盾じゃなくて板よ。」
そんな危険なことをして教えなくても良いのにと思うが、やっぱりこの世界ではこのくらいは危険とは言わないのかもしれない。俺も慣れていかないといけないな。俺は倒れた壁を消した。
今度は足をつける事で倒れないようにして大理石盾を作った。ティアは自分の方に引くようにして大理石盾を倒した。
「まだまだね。」
なんか知恵比べみたいだけど、理屈を考えながら作っているからすごく意味合いが理解できる。次の大理石盾は前後に足を延ばした。それだけではなく重心を下に持ってきてより倒れにくくした。
「今度の形は少しいいんじゃないかしら。少なくとも私の腕力では倒せないわね。」
ふふふ、と俺はドヤ顔を見せた。土魔術の操作だと結構うまく立ち回れそうな気がする。その瞬間ティアが大理石盾をパンチした。
ドン!
と鈍い音がして大理石盾は瓦礫と化した。
「今の衝撃でも倒れなかったからね形は良くなったと思うわ。でも次は強度ね。私の身体強化レベルで壊れてたらオークくらい力がある魔獣の攻撃になると防ぎきれないかもね。」
強度も魔力を込めれば良いものでは無くて、石の種類や密度や厚みの組み合わせ、そして魔力だそうだ。そういえば大理石の硬度なんて考えたことも無かったな。ダイヤモンドが10で一番硬い事は知ってるけど。元が炭素だもんね。ティアの火魔術をみていると燃やされちゃいそう。というか宝石にはあまり馴染みが無いからダイヤモンドで盾は作れないだろうな。
割れにくい石の種類を見つけるところからか。でも俺、石の事なんて知らないぞ。道端に落ちてる石とか、レンガとか、コンクリートやアスファルトとか、軽石とか水晶くらいかなぁ。
思いつくもので盾を作って並べていく。
大理石、レンガ、軽石、水晶。
コンクリートやアスファルトは出せなかった。混ぜ物はダメなのかな。
自分の中でも曖昧な道端の石みたいなのは出てこなかった。そしてティアに今作れるのはこのくらいの石なのでどれが硬いか試してもらえる?と聞いた。
「良いわよ。」と身体強化をして次々に殴っていく。
水晶だけが壊れなかった。おぉ、さすがクリスタルシールド。これは水晶一択だね。でも石の壁を軽々と壊すなんてティアも凄いな。でもティアでこれだと衛兵たちってどれけ凄いんだろう。
「ティア、ありがとう。それにしてもティアは身体強化も凄いね。」
「私の身体強化なんてCランクだから衛兵の中じゃ真ん中以下くらいよ。でもあんたが素質を開花させたらこんなの一発で跡形もなくなるわよ。」
そうなのかなぁ?自分自身そんなすごい素質の気配は微塵も感じられないんだけど。
この後はクリスタルシールドを作る練習を繰り返した。小さく作り小さく守る方法や大きく作り大きく守る方法。ただいつもの慣れた大理石と違うので強度にばらつきがあるように感じる。品質を安定させるためにも練習を繰り返さないといけないと感じる。ちなみに水晶玉のような透明なものではなく、白濁している水晶だ。
しばらく繰り返していると土魔術という事もあり思ったような盾を出せるようになった。ティアからも今の反応速度や強度なら実践でもそこそこ役に立つと合格を貰えた。
「やったー!」と俺は素直に喜んで、そのままゴロンと寝転がりして休憩に入った。
「土魔術の扱いは相変わらず上手いね。」とティアに褒めてもらえた。そして「で、この後どうする?まだ続ける?」と顔を覗き込まれて聞かれた。髪の毛がフワッと顔に触れる。くすぐったい。俺はティアを見上げながらどうするか考える。ティアも見下ろしながら髪の毛で顔をくすぐってくる。ワザとか。
考えがまとまらないので俺は起き上がった。盾の理屈も分かったし、練習も繰り返せた。身体強化も自主練を続ければ大丈夫だと思う。それならば、と今日も庭園のリフォームにも行きたいとティアに言って一緒についてきてもらった。
「コーヅは律儀ねぇ。でもそういうところがあんたの良いところなのかもしれないけど。」と呆れられているような口調なのだが、これは褒められたのかな?
庭園ではゲートを彫っているグリフィンが居る。真面目にコツコツと彫り進めている。生き生きとした葉っぱの形が浮き出ている。上手だな。建築部の職人たちに比べても遜色無いように見える。俺の目からは、だけどね。
「グリフィンさん!」
声をかけてもいつものごとく反応が無い。彫る手を止めた時に肩を叩いた。
「こんにちは、グリフィンさん。今日もお昼までですが手伝いに伺いました。」
グリフィンは嬉しそうに頷いた。そして昨日作った東屋の隣辺りを指を差した。今日の作業場所だろうか?グリフィンを先頭に3人でその場所に移動した。そして地面に図面を広げて今日の作るものを指差した。今日はベンチの様だ。特に屋根も無いベンチなので簡単だ。特徴的なのがベンチの大きさに比べると大きめな花壇に囲われるような作りになっている。すごく花に囲まれた気持ちになれるベンチになりそうだな。
俺は早速花壇のサイズをグリフィンに確認しながら図面通りに作っていった。途中途中でグリフィンに確認をしながらサイズを細かく調整していく。
昼の鐘が鳴った後もそのまま少し作業を続け作り上げる事ができた。
「ん!」とグリフィンもご満悦の表情だ。
グリフィンに「また来ます。」と言ってティアと庭園を離れた。昼の鐘を過ぎて待たせてしまったのでティアは少し不機嫌だ。
「お腹空いた。」
「ごめん。今日は唐揚げが出てるかもしれないから急がないといけないよね。」
「そうよ、急がないと。」とティアは走り出した。俺もティアに遅れないように走った。
俺たちが食堂に着いた時には既にショーンが入り口で立って待っていた。そして不思議そうに食堂の中の人だかりを見ている。
「あ、来た来た。」とショーンが待ってましたとばかりに声をかけてきた。
「すごい人だかりね。」とティアが食堂を覗き込んだ。
「そうなんだよ。今日は特別メニュらしいよ。」
俺たちも食堂に入って列に並んだが、なかなか料理までたどり着かない。少しずつ進んでいくが列が長いのだ。
「もう!コーヅが早く切り上げないからよ。」とイライラしているティアに怒られた。
「ごめん。中途半端で切り上げられなくて。」
そこから朝の盾の練習の話や庭園の話をしながら待っていた。ショーンは盾を作っているのは見ていたが、庭園に向かったのには気付かなかったそうだ。
そんな話をしていると俺の肩に手が置かれた。
「よう、コーヅ。唐揚げって言ったか?お前さん、又すげーもんを作り出したな。衛兵用の食堂じゃあっという間に無くなったぞ。俺は匂いを嗅いだだけで食べられなかったんでこっちに来たんだが。」と列を見てここでも食べられないんじゃないかと不安そうだ。
そして俺たちの番になった。
「唐揚げは1人1つです。」と皿に1つ入れてくれようとしたところで奥から声がした。「おい、ちょっと待て!」
この声は料理長だな。
「お、タイガー隊長。丁度良かった。コーヅに昨日教わって作ったんだが、作るそばから食べられていくもんだからコーヅには1皿別で用意しておいたんだ。」と皿に小さく山になった唐揚げを渡してくれた。俺たちはお礼を言って受け取った。
「いいって事よ。こっちが礼を言いたいくらいだからな。」
俺たちはその唐揚げといつもの食事を持っていつもの席に着いた。タイガーはいつも通りで山盛りマッシュポテトだ。
「俺は昨日も食べてるからみんなで食べてください。」
俺はタイガーやショーンに譲った。でも手が一番最初に伸びたのはティアだった。「いただきまーす。」とフォークで刺して口に運んだ。そして「美味しい。」と頬っぺたに手を当てた。
そんなティアの様子を見ていたタイガーも早速唐揚げにフォークを刺して手元に持ってきた。そしてマジマジと見た後に一口で食べた。
「お!こりゃ美味いな。」とすぐに次の唐揚げに手を付けた。
ショーンも遅れまいと一口食べた。「これは……。確かに美味しいな。」
みんな自分が持ってきた食事には手を付けず、唐揚げを次々に食べていく。みんなが美味しそうに食べるので俺も1つだけ食べた。やっぱり唐揚げは美味しいな。そしてあっという間に唐揚げは無くなった。
「こりゃ間違いなくビールと合うな。」とタイガーはジョッキを持つ仕草をした。
「これを俺の行きつけの店にも教えてやってくれないか?」
「いいですよ。」
「そうか!そしたら魔獣狩りの後で声をかけるな。これは仕事の後の楽しみが増えるなぁ。」とタイガーはにんまりとした。
そして俺はタイガーから魔獣狩りについて教わった。想定している魔獣は角ウサギ、ゴブリン、コボルド、オーク、ウェアウルフ。そして魔術を使う高等魔獣は居ないと想定しているそうだ。ただし戦場の油断は命取りだから、あらゆる魔物を想定して準備はするそうだが。
タイガーは食事を終えると「ごっそさん」と俺の肩に手を置いてから食堂を出ていった。俺たちも食事を終えて食堂を出た。ティアは自分の研究室へ、俺とショーンは訓練場に向かった。
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