第39話 食堂のおっさんの頼み事
朝日に照らされ目を覚ました。今朝は鐘よりも早い目覚めだった。
ベッドから降りて窓を開けた。そしてベッドに戻り、寝転んでストレッチを始めた。しばらく続けていると朝の鐘が鳴った。
俺はベッドから起き上がって朝の支度を始めた。
ガチャ
ヴェイが朝食や水差しを持って入って来た。
そうだ、夜勤はヴェイがやってくれているんだ。
「よう、コーヅ。おはようさん。」とニカッと笑う顔は屈託がない。
「おはよう、ヴェイ。」と俺はヴェイから朝食を受け取った。
俺は食事をしながら昨夜作った石筒を見ていた。水が蒸発するほどの熱だったんだろうな。気化すると体積が増えるから爆発したってことだろう。火魔石は素直にティアに協力をお願いした方が良いな。
食事を終えた俺は朝の準備を始めた。顔を洗い着替えてからストレッチ。そして魔力増幅トレーニングだ。最近は一日中土魔術を使っているけど倒れる程じゃない。かなり魔力も増えてきていると実感する。
コンコン
ガチャ
「おはよう、コーヅ。」とまずはいつもの席に座る。そしてテーブルに布を何枚か置いてくれた。雑巾用の布だそうだ。俺が想像していた厚みのある布では無かったが物が足りて無い世界だもんね。
「ありがとう、ティア。」と俺は魔力増幅トレーニングを止めてお礼を伝えた。
「お礼は良いから私の部屋も掃除してもらいたいわ。」
「うん、部屋のリフォームと一緒にやっても良いけど、俺が部屋に入って良いの?」前も部屋に入れられないって理由で断られたような気がしたけど。
ティアは少し悩んで「やっぱり駄目。」と答えた。俺は想定していたので「そっか。」と流した。
ティアは誤魔化すように話題を変えた。「で、今日はどうしたいの?」
「携帯温水シャワーを完成させたいんだ。」と石筒を見せた。
「あー、この前言ってたやつね。コーヅも懲りないわね。いいわよ。それなら外に行きましょうか。」と席を立った。
俺は昨夜作った3つの石筒を持ち、ティアは魔石を片手でごそっと持ってポケットに入れて部屋を出た。
「おう、気を付けてな。部屋の守りは任せとけ。ガハハハ」
俺たちは苦笑しながら「いってきます。」とヴェイに挨拶して訓練場に向かった。
訓練場ではグループに分かれ打ち込みや格闘、魔術などの訓練をしている。フレンチトーストの予約の話をしたくてリーサを探していると、ショーンが俺たちを見つけて訓練を抜けて来た。
「どうしたの?」
「えっと、リーサさんに用事があるんだ。」
「リーサか、えっと、あっちかな。」と指を差すと打ち込みをしているグループの中にリーサを見つけた。
ショーン、ティアと一緒にリーサの方に向かう。途中で俺たちに気付いたリーサは手を止めてこちらを見ながら待っている。
「……どうしたの?」と少し戸惑い気味に聞いてきた。
「日本のスイーツが食べられる店を予約したんだ。明々後日の夜なんだけど時間作れる?」
その瞬間、リーサの表情が明るくなった。「本当に?」という声のトーンやテンションも高くなっていた。「あ……、でもサラ様に聞いてみないと私だけでは決められないから。」と保留になった。
「予約はしてあるし、行けるか行けないかを教えてくれれば良いよ。」
「いいな、僕も行ってみたいな。」とショーンも会話に入って来た。
「え?ショーンも……。」とリーサが呟いた。
「あ、ごめんね。僕は又の機会にするよ。」
「違うのよ、ショーン。ごめんなさい。私が行けるか分からないから。」リーサは慌てて弁解した。
「ああ、そういうことか。リーサも行けると良いね。」と微笑むショーンにリーサは顔を紅くして俯いた。
リーサは返事待ちという事になった。今のところの参加者は俺、ティア、それとショーンかな。
俺とティアはショーンやリーサと別れて訓練場の端にある空き地に向かった。以前、魔石作りをした場所だ。
俺はティアに昨夜の失敗を説明した。そしてティアに火魔石を作って欲しいとお願いした。
「いいわよ。どのくらいの水が出るのか見てみたいんだけど。」
俺は1つ水魔石を作って、石筒を割り2層目に入れて戻した。そしてゆっくりと魔力を注ぎ込む。
シャーっと水が噴き出す。俺が手を当てると心地良く感じられる強さだ。
ティアに「こんな感じ。」と石筒を渡した。少し噴き出すシャワーを見ていたティアは魔力を止めて水を止めた。そして「大体分かったわ。」と言って俺に石筒を戻した。
ティアは小さな魔石を手のひらに載せ、魔力を込めていく。ほどなく鈍く光り魔石が完成した。やっぱりティアは魔石を作るのが早い。ティアから火魔石を受け取り石筒に孔を開けて火魔石を入れて穴を塞いだ。
そして石筒を外に向けてゆっくり魔力を注ぎ込んだ。
シャーッと水が、いやお湯が噴き出している。1回で成功した。ティアってば天才だ。最初からティアにお願いしてたら爆発騒ぎなんて起こさなくて済んでたな。
ティアには同じ火魔石を作れるだけ作ってもらった。全部で12個になった。その間に俺は2つの水魔石を作って石筒にセットした。そして魔力を流しお湯が出る確認をした。これで携帯温水シャワー3セットできたし、あと10セット作ることができる。それだけあれば魔獣狩りの時に沢山持っていって携帯温水シャワーを広められるな。
まずは今夜からシャワーを愉しめる。俺は「ティアに心からの敬意と感謝を!」と最敬礼した。ティアには「……バカにしてるの?」と睨まれた。
でも、思いのほか短時間で済んだ。午前中一杯使うくらいのつもりだったのに。だから終わった後のことは何も考えてなった。
「この後どうする?」とティアに聞かれた。俺は少し考えて答えた。
「今、庭園のリフォームを手伝ってるんだ。その続きをやりに行っても良い?」
「あぁ、コーヅが綺麗にしたっていう庭園ね。いいわよ。私はまだ見てないし。」
俺はティアと一緒に庭園に向かった。庭園には前回よりも多い人たちで賑わっていた。ティーセットを持って来てお茶をしているグループまである。
そしてグリフィンを探していると、通りの反対側の花壇から花が全て取り除かれていることに気付いた。花の植え替えかな?そしてグリフィンはそのすぐ側のゲート前にしゃがみ込んで細工をしていた。そしてそれはかなり丁寧に作られている。これが出来上がったらかなり立派なものになるんじゃないかと思う。
俺はグリフィンの傍に行き、「グリフィンさん、おはようございます。」と声をかけた。グリフィンは立ち上がり一礼した。そうだった。ショーンという通訳が居ないとコミュニケーションが難しかったんだった。
「お手伝いに伺いました。今度はどの辺りを作ればいいですか?」
グリフィンはそのままどっかに行ってしまった。
「あれ?どっか行っちゃったよ。」とティア。「多分図面を取りに行ったんだよ。」と俺は予想してみた。
少しするとグリフィンが図面を持って戻ってきた。そして俺たちの足元に図面を広げた。
「あの東屋を作り直したい。」と指さした先はゲートからの延長上にある東屋だ。「花壇と東屋を一体にしたい。」と図面のその個所を指差した。図面を見ると全体的に東屋は作り変えるようだ。今までは同じ東屋が並んでいたが、左右それぞれにメインになる東屋を作り周辺に小さなベンチや東屋を作りたいと考えているようだ。
グリフィンは凄いな。こういう事も考えられるのか。俺はグリフィンにも一緒に居てもらってイメージと違う部分はすぐに指摘してもらえる事を条件に了解した。
花は全て抜かれているので俺は遠慮なく白い大理石で円形に床を作り出した。そしてその大きさをグリフィンに確認する。グリフィンが確認し、もう少し大きくと言われ細かいサイズ調整を行い合格を貰った。
俺は1か所作るごとにグリフィンにチェックを受け細かくながら作業を続けた。細かく修正しながらではあったが、昼の鐘が鳴る前には東屋を作り上げることができた。
次の作業に移ると昼を過ぎそうだったのでグリフィンにも「今日はここまでにするね。」と伝えて訓練場の方に戻った。
戻っている途中に昼の鐘が鳴ったので、そのまま食堂に向かった。ショーンは着替えてから食堂に向かうので今回は俺たちの方が先に食堂に着いた。
「ごめん、待たせたね。行こうか。」とショーンに声をかけられて、俺たちはその後ろについてく形でブッフェコーナーに行った。
「よう、コーヅ!」と突然厨房の方から声をかけられた。あ、あの庭園で声をかけてきたおっさんだ。
「こんにちは。」と俺は挨拶した。「いつでもいいからよ、この厨房や食堂も綺麗にしてくれよ。」と声を掛けられた。すると色々な人の視線が俺に向けられた。
「分かりました。魔獣狩りが終わった辺りでいかがですか?」と俺が返事すると、他の人から「いや、それよりも俺はニホンのものをメニュに加えてもらいたいぞ。そっちを先に頼む。」と別の提案が出てきた。こうなると食事をしている人たちの方が多いわけで、ニホンの食べ物をメニュに加えるという声に押されて厨房の人も渋々メニュ追加で了承した。
「そんな訳だからよ、先にこいつらに食わせるものを何か教えてくんねぇか?」
俺の手元にはレシピ板がいくつかあって、天ぷらは玄関先に貼ってある。あんまり見に来ている様子は無いから浸透しなかったようだけど。それから塩唐揚げのレシピ板もある。自分が食べた事無いので自信を持って出せなくて部屋にしまってある。後はハンバーガーとポテトフライだ。これはフィーロのパン食堂のメニュにと思って出さずに置いてあるものだ。
そう考えると塩唐揚げかな。これを料理人のおっさんと一緒に作り上げれば、もしかしたら魔獣狩りの時にも使えるかもしれないしな。よし、それでいこう。
俺は午後レシピを届けに来るからその時に一緒に作ろうという話を持ち掛けた。料理人のおっさんもそれで良いという事だったので、一旦この場は収まった。
俺たちは食事を取って席に着いた。
「ねぇ、コーヅは何かいいレシピ持ってるの?」
「うん。少し自信が無いから一緒に作ってみたいと思ってるレシピがあるんだ。上手くいけば魔獣狩りの時にも出せるかもしれないな。」
「へぇ、ぜひ僕も食べてみたいな。」
「後衛班のショーンくんは食べる側というより提供する側だけどね。」と俺はツッコミを入れた。
「うわぁ、そっか。今回は後衛班だった。僕も配膳したり野営の準備をしたりするのか。」とショーンは手で顔を覆った。
俺たちはそんな雑談をしながら食事をしていると、期待してるからなと俺に声をかけて食堂を出ていく人が何人かいた。
そして食事を終え、俺とショーンが訓練場に向かおうとしたときにティアが「待って。」と話しかけてきた。
「コーヅさ、午後は建築ギルドの人たちも来るでしょ?それとレシピを教えるのってできないでしょ?私も手伝うよ。私は一度研究室に戻ってからコーヅの部屋で待ってるわ。」と手を振って研究室に戻っていった。その後ろ姿を見届けて俺とショーンも訓練場に向かった。
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