第27話 わりとボディランゲージでもなんとかなる
それから、コロコロと村の中を練り歩くと様々な村人がやってきて、口々にコルノに礼を言った。コルノの魔除けの札のおかげで、危険で農作物を荒らす野生動物や魔物が現れなくなったこと。良く当たる天気予報のおかげで畑仕事や狩り、豪雨などの災害対処が出来たこと。
コルノの魔女として仕事は村人達にとって大いに助けとなっていた。彼女に感謝こそすれ、不満を口にする者は一人とていなかったのだ。
「認められているな」
「……うん」
クライムがそう言い、コルノは小さく頷く。
「ここの者達は、お前が角を生やしているくらいでは見限ることはしないだろう」
コルノはまた小さく頷く。
きっとそうだろう。多少の物珍しさを感じるだろうけれど、恐れられることはないはず。それだけに魔王を喚び出して、皆を危険に晒してしまっていること、――もっと言えば『師匠』の命を助けられなかったことに対しての罪悪感も浮上してくる。
胃がムカムカチクチクして、気持ちがどんよりと落ち込んでしまう。
……思ってしまう。もし今回で誰かを死なせてしまったら、と。そして魔王を呼んだことを知られてしまったら……。
もしかしたらある程度の村人達は許してくれるかもしれない。……けれどそうじゃない人がいたら……村で不和が起こってしまうだろう。
――そして……、
「何か考え過ぎていないか?」
クライムが、見上げてきてそう問いかけてくる。
「…………。うん。クライム喚んだこととか、もし誰か死なせちゃったりとかしたら……って思って怖くなったの」
「……気にするな、と無責任に言えないことだな……」
クライムが眉間にシワを寄せて、唸ってしまう。元凶であるため、安易な慰めは意味がないどころか、嫌味になってしまうだろう。
この場合は、感情的なことを言うより如何にすればその問題を解決出来るか論理的なことを言わねばならない。
「つまり誰も死なせないことが、第一条件だな」
「腕とか脚がなくなっちゃったら……」
この子はグロいことを平気で思いつく。
「大怪我もなしだ。最悪、あの錬金術師に生やしてもらえ」
ポーションを上手く使えば出来ないことはないだろう。
「あと、我のことは絶対に言うな。悪く言われないにしても、どこからか漏れて『教会』に知られるのは不味いだろう」
「……でも怪しまれて訊かれたら」
「しらばっくれて嘘をつけ。そういうことも必要だ」
無論、滅茶苦茶な嘘では駄目なため、そこも訓練する必要があるだろう。嘘にはある程度の整合性と真実が大事だ。あと演技だろう。今のコルノでは、どんなに素晴らしい嘘でも立ち振る舞いでバレてしまう。
清らかであることは美徳であるが、あくまでそれは清廉潔白なものしか出来ない。残念ながらコルノは意図せず、悪意もなく魔王を喚ぶという汚れた行為をしてしまったのだ。
このシミはそう簡単に落とせないため、偽る必要があるのだ。
嘘をつくのはいけないことだが、コルノを悪と断じるのもまた違うため、クライムは後々のフォローについても考えるのであった。
「……うーん……」
一度心に
そんな折だ。バタバタと軽く小さい足音がいくつも聞こえてくる。
「ケレムー開けて開けてー」
「なーに? 覗いちゃ駄目よ、吐くから」
「小っちゃくでいいよ!」
「木の実入れるの、木の実ー!」
「じゃあ、前の方に良い感じに入れられるのがあるから、そこ開けて入れて」
「これ? これかー?」
前の方でガチャガチャと音が鳴り、パカッと小さく開き、光が差し込む。そんな受け入れ口に、ざらららら、と大量の大小様々な木の実が入り込んできた。
「おぉ」
「意外に多いな」
想像の十倍くらい多い木の実を投入されて、一人と一体は驚いてしまう。
コルノは手に取って、わずかな光にかざすと瑞々しい赤い粒々が実ったものや強い甘い香りのする黒々としたものがある。食べられるものがほとんどのようだが、中にはどんぐりのような調理が必要なものや、そもそも食べられないものがあった。
コルノがまじまじと木の実を摘まんで眺めていると、外から子供達の声が聞こえてきた。
「これ、おれたちが取ったんだぜ!」
「いっぱいとれたから、おそなえー!」
「なんか魔物となんかして、がんばるらしいから、なんかそれ!」
「きをつけてー!」
そうわちゃわちゃと声をかけられる。
……コルノは木の実を見つめながら、子供達の言葉を耳にして、小さく頷いた。
――そうだ。頑張らなければならない。もし誰かを失わせてしまうことを恐れるなら、そうならないように頑張れば良いのだ。
力はある。その扱い方をとにかく学ぶ。
人と触れ合うこと――出来るはず。皆は絶対に自分のことを恐れないし、ましてや攻撃なんてしない。
コルノは手元の食べられる木の実を口に入れ、食む。甘酸っぱい――ちょっと酸っぱさが勝るけれど、すごく美味しく感じられた。
息を吐き出し、片手をそろりそろりと挙げる。そして上蓋をわずかに開けて、手を出し、グッと親指を立てた。
――すると、何故か一斉に笑い声と歓声が上がる。
「!?」
思わず箱の中に逃げてしまうと、「あらー」とちょっと残念そうな声が聞こえてきた。
ちょっと吐きそうになってしまって、すごく心臓はドキドキしたけれど、コルノは不思議と悪い気分にはならなかった。
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