第24話 聖剣
一回目のシリロスへの的当て訓練は、五分間耐え抜くことが出来た。
コルノは、訓練が終わってからしばらくの間、心臓が早鐘のように打つのを感じていた。
これはいつもの恐怖心によるものではない。
興奮に近いだろう。命の危機がないと言っても、対人戦は中々に緊張して――楽しかった。シリロスは本気を出してはいないようだったけれど、意思ある存在と戦えるのはそれだけで胸が高鳴ってしまった。
……それと分かったのだが、五分戦うだけでも中々にきつい。常に集中を切らしてはいけないため、精神の
まあ、杖を定位置に構え続ける、という動作が腕に効いていたのもあるようだが。
「疲れたようだな」
クライムが頭にお盆を乗せながらやってきた。
お盆の上には木のコップが乗っており、水がつがれていた。
「うん、戦うのって大変だね」
「ああ、妙に疲れるものだ。水を飲んで一息つくがいい」
コップを手に取り、水を飲む。それほど冷たくはないが、火照った身体には染み入るような心地が良さがあった。
「ありがとう」
「うむ。まだ始まったばかりだが、よく対応出来ていたな。詠唱の短縮化と、呪文の重ねがけは上手くやれていた」
「とっさだったけど、ちゃんと出来たよ。……短縮化は便利だから、いくつか作っておいた方が良いのかな?」
「なんとも言えんな。短縮化は便利であるが、管理が面倒なのだ。短縮化した呪文は効果が固定化される――だから、完璧に効果を覚えていなくても、それなりの力を発揮出来る。しかしそれ故に重ねがけした際、効果が噛み合わずに不発――最悪暴発する恐れがあるからな」
だからこそ、短縮化を無闇矢鱈に使ってはいけないのだ、とクライムは言った。
それに実際に呪文を詠唱するよりも、やはり不安定で効果にムラが出来てしまうから、重ねがけをする時に危険らしい。
ただ、便利であり、戦闘で使うのに適しているから、短縮化の際に発生するムラの効果範囲をしっかりと把握することが大事であるらしい。
それらをちゃんと覚えておけるように、繰り返し使うこと――または数を絞ることが重要であるようだ。
魔法は何でも出来るが、何でも出来るがために安定性に欠くのだ。そのため効果をしっかりと把握することが肝心で、言ってしまえば、身体を
やはり本人に適した『型』を作るのが良いのかもしれない、とクライムは言う。
十分な休息を取り、シリロスと二度目の戦闘を行うことになる。
今度は、やや本気を出すとのことだ。
時間は先ほどより短い三分間だが、その代わり開始から十秒後にシリロスが全力で向かってくるようだ。それと、コルノの半径二メートル以内に入るまでは聖剣を使うらしい。
コルノが丘の上で準備をしていると足元に、ぽてぽてとクライムが歩いてくる。
「『使い魔』として
「魔? 魔法、魔力、魔物、全部?」
「そうだ。根幹足る魔力を消し飛ばすのだろうな。……原理は不明だ。魔を消すのにも関わらず、魔法、魔力を元にして動いているからな」
「構造が、すごい……気になる……」
『私もだよ。でも手に取らせてくれないんだ……』
クーローも足元にやってきて残念そうに言う。それに対して、ケレムが呆れ顔をした。
「誰が伝説級の宝物を分解しようとする馬鹿に預けようとするのよ」
『量産したいと思わないのが不思議でならないね』
「世界が崩壊するわ」
魔法で成り立つ世界で、魔法を消し飛ばす力がたくさん作られては、ある意味で魔王以上の危機が襲来してしまうだろう。
クライムが鼻息を
「そんな聖剣だ。単なる魔法を向けて撃ったところで、消し飛ばされるのがオチだろう。ただ、聖剣と言えども、一瞬で消し飛ばすわけではない。存在が安定――固形物であると、煙や水など不定形のものより長く持つようだ。あくまで、少しの違いだがな。それと、刀身に触れれば連鎖的に魔法が食われるから注意が必要だ。大魔法ほど単なる
「なるほど。ありがとう。……なんとなく対策は出来るかも」
まあ、あくまで『聖剣』の対策だけだが。その聖剣を扱うシリロスの技量や身体能力如何では勝負にすらならない可能性がある。
でも、やれるだけやってみるべきだろう。
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