第23話 勇者に的当て
シリロス的当て訓練を開始することになった。
緩やかな坂となっている草原の一番下に、シリロスが木剣を構えている。ケレムの魔法やクーローの魔法薬を飲んで並大抵のことではダメージを負わないようになっているらしい。
それと攻撃を避ける、または弾くらしいので、仮に本気でやったところで倒せないようだ。
とりあえず、一定のラインまで近づかれたら、そこで一度訓練は終了という流れとのこと。もしくは五分経過しても同じく終了だ。
コルノが許されている攻撃魔法は、光弾であり、あくまで吹っ飛ばす程度の威力に留めるよにしなければならない。
それ以外なら、様々な効果を付与しても良いそうだ。
シリロスの移動速度は歩くだけ。避けるために跳んだりするようだが、横か後ろで前へは禁止されている。
ルール上、シリロスは倒せないため、コルノはどうにかしてシリロスを退かせ続けなければならない。
なので、特大の攻撃を当てる、というのは除外される。そもそも本番でそんなことをしたら、戦ってくれるであろう村人達をも巻き込みかねないし、すぐさま魔力が枯渇して、戦闘から離脱しなければならなくなる。
魔力を温存しつつ、確実に相手に攻撃を当てて、戦い続けなけれならない。
(さっきの毒弾の速射みたいなのをやっても良いけど、それだとすぐに魔力が切れちゃう。……あれは、大勢攻めてきて、対処が間に合わない時にやった方が良いのかな……)
少なくとも、処理出来るうちにやっていいことではないはずだ。
一発一発を大事にすべきだ。
「じゃあ、始めてー」
ケレムのその声と共に、シリロスが歩き始めた。
コルノも息を吐き出し、杖の先端をシリロスに構えると――すぐに呪文を紡ぐ。
「《
杖の先端にある宝玉が光り輝くと、拳大の光弾が現れ、撃ち出される。目にも止まらぬ速さであったが、シリロスは身体を真横に振るだけで回避してみせた。胴体ど真ん中を狙ってその通りの場所へと向かって行ったが、軽く避けられてしまった。
何が悪かったか――単純に距離が開いていたのと、シリロスの反応速度が異常なほど速いだけではあるが――それでも避けられないためにはどうするべきか。
「《我が発した光弾を表す言の葉を顕現せよ。――その寸言を表すものは『光あれ』》」
光弾魔法の呪文を短縮する魔法を構築する。短縮化は実際の呪文を口にするより、若干ながら不安定ではあるものの、即時に優れており、何よりも簡略化することで他のことにも頭を回せる。
すでにシリロスは十数歩ほど足を進めており、のんびり詠唱を繰り返していては、訓練は終わってしまう。
そもそも実戦ではそんな暇はないはずだ。
二つ目の光弾が発射される。しかし、それも避けられる。
「《『光あれ』――そこには七つの光がある。三つはただ前へと進み、三つは勇者を追い、一つは砕けし時、低き地へと無数に散る》」
ぽぽぽ、と光弾が杖の先端から七つずつ放出されるように灯り――即座に発射される。だが数が増えただけではない。三つはシリロスに向かって、身体を傾けるだけでは
さすがのシリロスも避けるために、横へと跳ばねばならなかった。そしてそんな彼を追いかけるように三つの光弾が向かって行く。
「ふっ!」
シリロスは、急激な角度をつけて追いかけてくる光弾を見て、避けるだけでは駄目だと判断し、木剣で光弾を打ち払う。一発払うごとに身体が弾き飛ばされてしまうが、当たり所を考えているのか、大きく後退することはない。それにほとんど横移動だけで済ませている。
そんなシリロスの少し上の地面にて、最後の光弾がぶつかった。
その瞬間、光弾が無数の小さな光弾へと枝分かれして放射線状に広がって、シリロスを覆うように襲う。
これにはシリロスも退いて――すぐに横へと跳ばねばならず、彼(女)が最初にいた位置よりも少し下がった場所まで戻ることになってしまった。
「ふー……」
コルノは息を吐き出す。
とりあえず退かせることが出来た。光弾を当てるためには、一種類だけではなく、何種類もの魔法を同時発動せねばならない。
が、あくまでこれは今は一対一で、シリロスが避ける行動を取っているからだ。
『狂える群勢』ではまた違った方法を使わねばならないだろう。
とにかく前へ前へと進んでくる相手に致命的なダメージを――最低限村人達が対処出来るようにする程度には相手を『壊さなければ』ならない。
まあ、今考えても仕方ないのだけれど。
コルノは、気合いを入れ直し、シリロスを近づけさせないための再度魔法を構築し始めるのであった。
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