第16話 角付きとは
「うっ、くぅっ、ふぅっ――」
何の成果も得られなかったシリロスは、泣きながら帰路についていた。
「泣くのやめなさいよ。その姿だとイジメた感半端ないわ」
『さっきまでやってたことは完全にイジメだったけどね』
時は夕暮れ。
シリロス、ケレム――ついでにクーロー(ケレムが持っている)は、村に戻る最中だった。
「だってぇ……コルノじぇんぜんだべばぐでばおうにあべなぁ――」
「何言ってるのかさっぱりだけど、今度頑張りなさいよ。明日も行くけど、とりあえずついてきていいから」
そこら辺はコルノも了承してくれた。ケレムのように共通の話題を持つ者同士ならば、すぐに慣れるらしいのは分かったが、問題はそれ以外の人間に一切慣れないのでは意味が無い。そもそもケレムに慣れたのもエルフという種族で、人族でなかったから、という可能性が強まった。
そう思わせたのは、ゴーレムでやってきたクーローの存在のせいだ。
あれからコルノは始終クーローを怖がる素振りを見せなかった。
逆にシリロスの存在を感知すると、嘔吐いてしまっていたのだ。
『そういえばシリロスからは、コルノちゃんは人が苦手と雑に説明されていたけど――実際のところはどういうことがあったんだい?』
「私も村長からの又聞きだから、なんとも言えないけど以前いた村で迫害されたらしいわ。迷信深い……まあそれが普通で、うちの村みたいにどんな種族、人間でも受け入れる方がおかしいんだけど」
ただ、そのおかげでエルフであるケレムも普通に受け入れられているし、――シリロスとの婚約も認められたのだ。
『彼女、確か『角付き』、だったね』
「……迷信の中では、一番厄介なものであるわね。尾ひれ背びれがついても必ずしも偽りではないというところが厄介というかなんというか」
ケレムはため息をつく。
『角付き』とは、人間の突然変異種だ。見た目に『ある特徴』を備え、強い魔力を生まれながらに有している。
災いをもたらす存在と言われ、――それは事実に基づく。強い魔力を生まれながらに備えているため、制御が出来ずに暴発させ周囲に被害を及ぼしてしまうことが多々あったのだ。
魔法使いの下に生まれれば力の制御を教えられることもあるが、そんな美味い話があるわけもない。
大抵は何もない村のなんでもない家庭で生まれ、『事故』を起こしてしまう。
そうした過去から今に至る積み重ねが、迫害を生んでしまったのだ。
『角付き』が危ないというのは否定出来ない。
それに――、
『魔王を作った存在、とも言われているね』
「……ええ」
ケレムは難しい顔をする。
――ケレムは故郷の里で聞いたことがある。大昔の『角付き』が魔王と呼ばれる存在を『作った』と。
人間に迫害されたらしいその『角付き』は恨みから、人族に対して永遠に続く呪い『魔王』を作り、差し向けたらしいのだ。
そしてそれがあのクライム――魔王なのだ。
真実はもしかしたら違うかもしれないが、その通説が市井に流れ、『角付き』の風評が地の底に落ちる最大の原因となってしまった。
魔王は人類の敵でその人類の敵を作った『角付き』が嫌われるのは無理もないことだった。
「……まあ、ここにいる限りはあの子を害するものは何一つないから、ゆっくりと慣れさせればいいわ」
『上手くいけばいいけどね』
「なによ。含み持たせて」
『……仮にもぬいぐるみと言えど魔王が力を発揮させてしまったからね。君らがずっとここに留まれれば良いけれど、そうじゃない場合、近いうち、かなり面倒なことになるだろうね』
「……『それ』ね。そこも追々なんとかするわよ。……あっ、もしかしてそれ込みでのシリロスのあれ?」
『いや、まあ、シリロスのは面白半分だけど』
「糞が」
ケレムは悪態をついた後、深いため息をついた。問題は色々と山積みだ。それに下手をすれば、とても面倒なことになりかねない。――最悪、この村でもコルノが迫害される恐れも多少あった。
それを防ぐためには頑張らねばならない。
可愛い妹弟子のために、ケレムは気張るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます