第12話 勇者達の英雄譚を聞く魔女と魔王
ケレムの話はとても興味深かった。
彼女が住んでいたエルフの里の話。万年樹というとてつもなく太く高い木々が建ち並ぶ森に彼女の里があるという。とてつもなく太い枝に家が建てられたり、幹の一部をくり抜いて、そこを住処にしているんだとか。
外敵は大蛇で下手をすると家を丸呑みにしてしまうほどの大きさがあるらしい。魔法や弓矢を駆使し、大蛇を狩り仕留めた話は手汗握るほど。
嘘みたいな、でも、嘘じゃない本当の話。
コルノはその森を見たことはなかったけれど、同じ話をほんのちょっとだけ師匠から訊いていたのだ。
そして、魔王討伐の話。ケレムはクライムに断りを入れて、その話をしてくれた。
まず、勇者シリロスを主体とした冒険者の紹介をする。
聖剣に選ばれた勇者シリロス。怖い人、というイメージだったけど……単なる馬鹿らしい。見た目は頭が良さそうなのに、猪突猛進で早合点しやすく、極めつけが馬鹿というのが特徴だそうだ。でも、そのおかげか、彼は『迷う』ことがない。戦う人達にとって、迷いがなく突き進む人がいることは救われるのだそうだ。
……たぶんだけど、ケレムはシリロスと恋仲なんだとコルノは思った。彼のことを馬鹿馬鹿言うけど、とても楽しそうで嫌そうな感情が見られなかったから。
次に……ケレムは若いエルフで、髪の毛は特徴的だけど、それ以外は普通のエルフだそうだ。魔法と弓が得意で――今度、機会があったら弓の腕前を見せてくれるらしい。……その際に「貴方の魔法も見せて」、とケレムに言われてコルノは、ちょっとドキドキした。自分程度の魔法など見ても何も面白くないだろうに。でも、一応姉弟子であるし、出来を確認してもらいたくもある。もしよければ、色んな魔法を見てみたい。
まあ、それを聞けるのは当分先になるだろうけど。
――他には錬金術師兼ケレムとは方向性の違う魔法使いがいたようだ。錬金術師の人はかなりの変わり者らしく、トラブルメーカーであったそうだ。よくシリロスが巻き込まれていたんだとか。
あと、教会から遣わされた聖人もいたらしい。堅物なようだったが、どこか抜けている人で、中々に面白いとのこと。それにその人がいたおかげで、町などに滞在する際、教会を寝床に遣えることがあって、経済面でも助かっていたようだ。
双子の戦士なんてのもいたらしい。以心伝心が凄まじい精度らしく、彼らのコンビネーションは芸術的と言えるとのこと。でも、そのせいなのかどうなのか、たまに二人は、自分がどちらか分からなくなることもあって、時々二人居るのに『一人になったり』するなんて……聞くだけじゃ意味不明なことになっていたようだ。
彼らの冒険はとても楽しく、でも、恐ろしいものであった。
色んな景色や人と出会えたけれど、そのどれもが綺麗なだけじゃなく、どうしようもなく汚く醜いものもあったらしい。
ケレムも珍しいエルフだからと
……そして、クライム――魔王の下へ辿り着き、彼を倒したようだ。
今の姿からは想像が出来ないけれど、クライムは異形の姿をしていたそうだ。しかも、二回ほど変身して、その度に強くなってシリロス一行を追いつめたらしい。
それでも知恵と力を駆使し、クライムを打ち倒すことが出来たようだ。
……話はそこで終わる。
ケレムは少しだけ含みを持たせていた。たぶんそれは、クライムが倒された後のクライムの部下達の行く末のことだと思う。
以前コルノはケレム達が来たとき、ほんのちょっとだけそのことを耳にしていた。
それは話してはいけない『英雄譚』なのだろう。いや、英雄譚になりえない残酷な話なのだろう。
コルノはこの世界が綺麗ではないことを知っている。何よりそんな怖い世界に浸ってしまったことがあるから、今のコルノがあったのだ。
……だから聞かない。
怖いだけじゃなくて、それはきっと言えないし言いたくないことであるはずだから。きっとそれはケレム達にとっても『傷』になっているから、おいそれと訊いてはいけないことなのだ。
まあ、口を開けないから、訊くことなんて出来ないのだけれど。
「……楽しんでくれた?」
「……う、ん」
だからケレムがそう微笑んで問いかけてくれた時、コルノは頑張って首を縦に振るだけに留めた。
「良かった。……ふふっ、ごめんね、クライム、引き立て役にしちゃって」
「構わん。格好良さ、という点については貴様の話の方が何百倍もマシだ」
……クライムはコルノの腕の中でそんなことを言いつつ、自分の片腕をマジマジと眺めている。なんだか不満そうだ。――可愛いのも良いと思うけど。
少なくとも二メートル以上あって、外骨格がついているより、ぬいぐるみの方が抱き心地が良いはずだ。
コルノはそんなことを思いながら、クライムをむぎゅうと抱きしめる。
「どうした」
「クライムは、可愛い、方が、良い」
「御免被りたい」
「御免を、被るのは、駄目」
外骨格な皮を被られるのはすごく嫌だ。布で覆われていた方が、ずっと良い。
それなら胸に抱いていられるから。安心していられるから、ぬいぐるみであって欲しい。
……でも、大きめのぬいぐるみも抱擁感があって良いかもしれない。……時間と材料があれば、作ってみようかな、――とそんなことを思うコルノであった。
そんなコルノとクライムを見ながら、ケレムがクスクスと笑う。
「モテモテじゃない。さすがは魔王と言ったところかしら?」
「そうだな。偉大な我の魅力は絶大なものらしい」
そう言ったクライムはどこかふてくされていた。
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