第7話 勇者と魔術師襲来
『その日』はすぐにやってきた。
というか、一日後だった。
コルノが朝食を摂っている姿を、時々会話を交えながら眺めていると――突如、ドンドンドンと外へと繋がる扉が叩かれたのだ。
「ぴぃっ!?」
コルノが変な鳴き声を上げて、クライムを引っ掴むと奥の部屋まで吹っ飛んで行ってしまった。逃げ慣れているためか、物音をほとんど立てず、なおかつ家具にぶつからず何も壊していない。
「ふーふーふー」
コルノはいつも机の下に潜り込むと、いつも以上に震えてしまっていた。今なお聞こえてくるドアノックの音は大きく、威圧感があるためだろう。
クライムもきつく抱きしめられてしまう。
「コルノ、放してくれ。……たぶん、恐らく勇者だ。我が、奴の対応をしてくる」
「うぅ、ううぅ……」
涙目で見つめられ、クライムはそんな彼女の腕を叩く。
「安心しろ。家には入れるが、ここには絶対に近づけさせぬ。約束しよう。貴様を不安にはさせない。……信じて欲しい。いなくなったりもしない」
コルノが目をキュッとつむると、目尻に涙が溜まる。彼女は全身に力を込めて、決心したかのように声を絞り出す。
「………………気を、つけて、ね」
コルノは歯をカタカタと鳴らしながら、なんとかそう言ってクライムを放した。
クライムは、彼女の手を優しく叩いて、振り返ると扉までテクテクと歩いて行く。
そして、ため息混じりに扉に向き合う。すると激しいノック音と一緒に男の声が聞こえてきた。
「開けろ! 勇者だ! 魔王、そこにいるのは分かっている! 今すぐ――」
「やめなさい!」
「あいたっ!」
軽快なパシーンという音と共にノック音と男の声が止む。その後、女性の怒鳴り声が聞こえてくる。
「ばっか! 村から吹っ飛んで行ったと思ったら何やってんのよ! あんた村長の話、聞いてなかったの!? ここに住んでる子、怖がりだって言ってたでしょ!」
「だけど、魔王の気配がしたんだろう。もしかしたら……」
「仮に魔王が召喚されてたとしても、今は『時期』じゃないわ。力も格段に衰えているし、大したことは出来ないはず。それに今も………………ちょっと魔王の魔力は感じるけど、完全に抑え込まれているのが分かるわ」
――扉越しだが、エルフの魔導師とは彼女のことだろう、と分かる。なるほど言葉を聞いただけでも、確かな知識、技量がうかがえる。さすがは『賢者』と呼ばれる存在に師事していただけはある。
魔王として戦った時は、エルフの魔導師は派手さはなかったものの勇者や味方を完璧にサポートしていたのを覚えている。物事を他方面から見られるのだろう。
あれとは話が通じそうだ。
クライムは扉の目前まで歩いて行くと、声をかける。
「少し良いか」
「むっ、もしや――」
「何やろうとしてんだ、やめろ」
「あいたっ!」
ぼか、と鈍い音が聞こえてくる。――本当に何をやろうとしたんだ、あの勇者は。
女性のため息が聞こえてきた。
「はあ、もうあたしに任せて。……はい、こんにちは。あんたがこの家の主ってわけじゃなさそうね。女の子の声っぽくないもの」
「まあ、そうだろう。この家の主に召喚された使い魔――というのは本当だが、さらに正直に言うと貴様らに倒された魔王だ」
「やっぱり? それで……開けてくれるの?」
「良いだろう。少し準備をしてからだがな。……その前に一つ約束しろ。みだりに奥の部屋に入ろうとするな。我が主が怯える。今も相当怯えている。……頼むぞ」
「分かったわ。それとごめん」
すんなりと話が通ってくれたので助かった。――会話を終えてすぐに何やら扉の外で勇者と恐らく魔導師の少女がぎゃーぎゃー言い出したが放っておく。たぶん力関係(精神)的には魔導師の方が上にいるから勇者が押し入ってくることはないはず。
クライムは、準備を整えて勇者達を招き入れることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます