六ノ巻9話 観音モード・A・B・C
崇春は静かに、
「むう……。思えばお
「――ハーッハッハ! これは光栄だな、少年! ……私も正直同じ気持ちだ。君の堂々たる目立ちへの姿勢、君なりの正義に向けた一本気な在り方……リスペクトするところではある」
そこで、ば、と身を
「――が! それでも私は正義のため、つまりは我が
崇春は拳を構える。
「そちらに退く気がないならば、わしも力を以て押し通る! ゆくぞっ!」
跳び込み、拳を繰り出す。
だがその一撃は阻まれた。敵の目の前、地面から突如伸び出た、針の群れによって。
「むうぅ!? こりゃあ、まさか――」
壁のように隙間なく突き出た、針の向こうから声が通る。
「――言っておくぞ少年。私の、つまり『怪仏・六観音』の本体はここにはない……それは
語気を強めて声は響く。
「――だが! 残りカスとはいえ全力を尽くす、それこそがこの私の正義! ゆくぞ少年、このヒーロー・
針の壁を向こうから断ち切ったのは、石造りの剣。
その向こうに姿を見せたのは。斉藤が扱ったものと同じ、石で形作られた
「――観音菩薩は『変転する
『
「さあ……ゆくぞ!」
言うなり、石の剣を地に突き立てる。
針の群れが地面から突き上がり、波のように崇春を襲う。
向かい来る針の群れにもひるまず、崇春は前へと踏み込んだ。
「おおぉぉっ! 【スシュンキック】じゃああーっ!」
横殴りに繰り出す回し蹴りが、草を刈るように針を折り飛ばす。逆の脚で続けて繰り出す後ろ回し蹴りが、第二波の針をも薙ぎ倒した。
一方。
「……っ」
崇春たちから距離を取ったかすみの横で、斎藤が何か言いたげに口を開けたが。それ以上言葉を発することなく、拳を震わせていた。
かすみが何か言おうとする、その前に崇春が声を上げる。
「こんな針がなんぼのもんじゃい、斎藤のはもっと
その言葉に。斉藤の拳の震えは止まり、かすみもわずかに息をついた。
崇春は駆け、距離を詰めるが。
「――さすがに真似ただけの偽物、本家に及ぶべくもないか……だがそれでも! 正義を貫く志、それだけは本物だ! 【
かけ声と共にベルトのバックルに手をやり、装飾の宝玉をダイヤルのように回す。
何かの装置のような大振りなバックルが、機械仕掛けの声を上げた。
『
か、と白い光が
たくましい身を黒い甲冑に包み、片手に宝塔、片手に
「な……っ」
今度はかすみが息を呑む。横にいる吉祥天も同様だった。
できるのなら。できるのなら今すぐ走っていって、その力を引っぺがしてやりたい。そして取り戻したい、戦う力を――もっとも、力を奪って言ったのはあくまで紫苑。
崇春の駆ける足は止まらない。
「ぉおおおおっっ! 【真空スシュン跳び膝蹴り】じゃああ!」
足を踏み切り、相手の顔面へ向けて膝蹴りを繰り出す。
「――なんの、受けよ毘沙門天の
崇春めがけて
が。その刃を受けるより先に、崇春は空中で身をひねる。
放つと見せた膝蹴りは
「【胴廻しスシュン脚】!」
後ろ回し蹴りが戟の柄へと絡みつく。そのまま横へと打ち払い、崇春は敵の前に着地する。
「もろうた! 受けよ――」
構えた拳が光を帯びる。
だが
「――【
『
しなやかな青い体に四本の腕。シバヅキが、そして紫苑が垣間見せた、破壊神シヴァたる大自在天。
その二組の手が同じ印を組む。
「――受けろ正義の破壊光! 【ダブル・終焉呼ぶ光】!」
「ぐ……おおおぉっ!?」
空気を震わせる二筋の光に、自らの声もろとも崇春は呑み込まれゆく。
一方。
至寂をにらむ渦生、その傍らでは
その視線を受け止める至寂、そのそばには
男たちも怪仏も、一言も発することはなく。炎の音だけが辺りに響いた。
その中で。賀来は双方に――時にはかすみや他の者の方に、すがるように――視線をさ迷わせながら、あいまいに口を開く。
「……あー、……その。ほら……二人とも、とっ、友だち、だろ?」
押し留めるような手を二人に向けて続ける。
「それにほら、大人なん、だし……ここは一つ、冷静になって話し合いを、だな」
二人の男は返答を返すことなく、その視線が揺らぐこともなかった。
痛むかのように胸を押さえながら賀来は言う。
「その、だから、だなー……あっ、そう、そうだ!」
手を一つ叩く。笑った。
「お茶でも飲みながら話してみないか、私の、我のオススメのカフェがあってだな隣町だけど、スゴいんだぞそこは何と言ってもだな、セットメニュー頼むとなんとなんと! イギリス貴族みたいな段々になったお皿のセットに載ってくるんだぞ! なんていう食器か知らないけどあれ……だからっ、な? 思い切って私が、この我がおごってやってもよいから――」
渦生が口を開く。
「至寂。……行くぞオイ!」
至寂が声を上げる。
「ええ、沙羅……来なさいっ!」
賀来が叫んだ。
「だから一緒にー、って――聞けええぇぇ!!」
その声をかき消すように。二人の放った怪仏が炎を、刃をぶつけ合う。
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