五ノ巻24話 共闘、なるか
「――クソ、なぜだ
「――ごおっ!?」
まともに受けた
「――ふん、貴様はすでに無力……殺すまでもないのである。そこで指をくわえて見ておるがいいわ」
そうして三面で歯を剥いて笑い、向き直る。円次と、横並びで離れた位置にいる帝釈天に。
「――さあて、次はどちらであるか? 帝釈天・そこのサムライ・両方で来る、いずれでも構わんのである。
円次と同じく身構え、敵の方を見たまま帝釈天が声を発する。身に着けていたスーツはすでに脱ぎ捨て、唐風の甲冑姿となっていた。
「――平坂円次よ。我が雷撃を射て隙を作る、その機を捉えて
円次はわずかにそちらへ目をやったが。取り合わずに無言で足をにじらせ、
帝釈天が円次に顔を向けた。
「――聞かぬか! 汝が我らを警戒するのは分かる、いや……当然の仕儀よ」
かぶりを振って続けた。
「――確かに我ら、
円次は構えを崩さず鼻で笑う。
「で? 囚われのお姫様助けてメデタシメデタシ、って話でもねェだろ。黒田と品ノ川に怪仏憑けてくれやがったこと、忘れちゃいねェ……東条助けたとこで、始まンのは話し合いか? 殺し合いじゃねェのか」
言った後で力を込め、歯噛みする。――そうだ忘れてはいない、二人のことを。必ず返させてやる、その借りを。
意識して緩やかに息を吐き、続けて言った。
「で、だ。そのことをてめェが見越してねェわけがねェ。……『全員集合まで待ってやる義理はない。あわよくばこの男を今ここで、明王ともろともに』。だろ、
「――ぬ……!」
帝釈天は声を詰まらせた。
が、やがて息をこぼして笑う。
「――ぬぬ、はは……くっははは!
不意に真顔になると続けた。
「――だが、ぞ。それは一つの選択肢に過ぎぬ、状況は
す、と構えを解き、武器たる
「――背中から討たれるのが怖いなら、我から先に
顔だけ向け、歯を見せて笑う。
「――願わくば、我は斬ってくれるなよ」
「な……」
円次が身構えたまま、行動を決めかねている間にも帝釈天は進んでゆく。
「――
帝釈天は身構えもせず言う。
「――なんの、そもそも仲間ではない。どころか、奴はただの臆病者。こちらから願い下げよ」
円次の頬が反射的に引きつる。
「――共に来る・どちらも来ない・一人ずつ来る……吾輩としてはどれでもよいのである。我輩の力にてその力封じ、無力と化したところを削り殺すまで。さあ……行――」
そのとき、笑みをたたえたまま。帝釈天は懐から手を取り出した。
「【
その手の上で
「――何い!?」
後ずさる
「――むうん!」
剣と金剛鈴が振るわれ、電撃は軽々と散らされた。
「――
雲の上部を突き破って跳んだ、帝釈天の巨体が宙を舞う。手には
だが。驚いたように目を剥いたのは、
「――【
片足が上げられ、地まで突き抜こうとするかのように激しく、畳へと打ちつけられる。
同時。その衝撃に一帯の畳が浮き上がり、真上へと吹き飛んだ。
「――な、ああぁっ!?」
宙にあった帝釈天にかわす
そこを待ち受けていたように。地に落ちるより早く、
「――【
電源の切れたような音と共に帝釈天の体を鈍い光が走って消える。
「――しまった……!」
調子の悪い家電製品をそうするように、光の消えた
その体を
「――さて・さて・さて。次は貴様である、臆病者よ」
円次は言葉を発することなく、構えを崩さずそこにいた。
明王が帝釈天を攻撃する隙に斬り込まなかったのは、臆したからではない。気づいていたからだ、敵の三面の一つ、左面が常に、円次の様子をうかがっていたことを。そして弓矢をつがえた二腕と素手のうち二腕が、円次へ向けられていたことを。
隙を突くも何も、この敵に隙などなかった。
明王の三面が円次を見、八腕が全てその刃と貫手の先を向ける。いよいよもって隙などない。
が。手ならある、この敵を斬る手が。使いたい手ではないが。
脈拍がわずかに速まるのを感じ、敵を見据えたまま。円次は静かに唇をなめる。
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