五ノ巻8話 戦の手本
「――ぬ……!」
崇春の言葉に、
「――面白い。お手本とやら、じっくり拝見させていただく。ただ」
目を向けた先には。怪仏としての石の肌を砕き散らされ、床に横たわる斉藤がいた。
「――斉藤殿はすでに力を使い果たされたご様子。巻き込まれぬよう、お下がりいただきたいものですな」
その言葉に反応したように、斉藤の体が震えた。ひび割れた石を周囲にこぼしながら、ゆっくりと身を起こす。
「……まだまだ……ス」
ひざに手をつき、立ち上がろうとしたところで、その巨体がバランスを失う。
駆け寄った崇春が、そこを肩で支えた。
「おうともまだまだ、お
肩を貸して立ち上がり、ステージの端へと下がっていく。
「あれほどの大技、相当の力を使ったのも事実じゃろう。ここはいったんわしに任せて、力を蓄えといてくれんか」
端で斉藤を下ろし、床に座らせた後。崇春は敵へと向き直り、歩きながら言う。
「必要なときに合図する。いざとなれば、お
「……ス」
斉藤は深くうなずき、それから強く息を吐いた。多くの空気を取り込もうとするように、深く長く息を吸う。その呼吸を繰り返し続けた。
崇春も足を止め、拳を構えた。
そのまま両者、間合いを測りつつにじり寄る。互いに円を描くように。
「――しっ!」
先に動いたのは
崇春は難なくかわし、踏み込んだが。その動きは
「――
突き出された
だが、そこへ。もう一つの武器、手斧を握った手が振るい込まれた。
「ぬううっ!」
崇春は自ら足を滑らせ、身を沈ませてかわすと同時。床から、片足でその手を蹴り上げた。
「もろうた、【真・スシュンパンチ】じゃああ!」
立ち上がりざま跳び込み、鬼神の拳を振るう。
だが、
一腕が、崇春の拳をわずかにそらし。さらに一腕が、崇春の手首をわずかに押し、また一腕が腕をいなす。守りの技、【
そうして崇春の体は宙を舞いかけた、が。崇春は宙で身をひねり、脚へと繰り出す力を溜める。先ほどの返し技、【胴
が。
つかんでいた手を離し、身をひねり、力を溜める――打撃を繰り出すための力を。
「――ぉおおおっ! 【
巨体が跳び、八腕が螺旋を描いて繰り出される。
「なっ……!」
崇春は蹴りを振り下ろすが、タイミングを外されたそれにまったく力は乗っておらず。竜巻の如き明王の打撃に、なす
跳びゆく竜巻は勢い余り、斉藤が張り巡らせた壁さえも、甲高い音と共に打ち破り。
砕き散らされた針と共に、崇春はステージの下へと投げ出された。
身をひねり、よろめきつつも
「――感謝いたす。柔から剛、このような連携……自分一人では思いつかなんだでしょうな……」
散らばる針の破片の上、横たわった崇春の体をつかむ。
「ぐ……ぅ」
無防備な体勢で打撃の嵐を受け、受身すら取れずにいた崇春には、抵抗する力はなかった。
そして。その場で回転する巨体が崇春を振り回し、振り回し。
「――【
崇春の体を床へ叩きつけ、また振り回し、叩きつけ。
「――そうらあぁっ!!」
振り回し、振り上げ、投げ上げた。勢いのままに、遥か天井へ。
縦横にめぐる鉄骨の
「――お手本ご教示……まこと、痛み入る。その技は貴殿へ、せめてものはなむけ……そこなら随分、目立つでしょうな」
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