五ノ巻7話 螺旋を描く蛇のように
針の群れと共に、明王を
「
未だ横たわったまま、荒い息の下から斉藤が言った。
「さすが……スね」
崇春は微笑む。
「何を言うちょる。お
差し出された崇春の手を取り、斉藤は震えながらも身を起こす。
「もちろん、ス……急ぐス、からね」
立ち上がり、出口へ向かう二人の上に、聞き覚えのある声が降った。
「――ぐう……まさにまさに、おさすが……です、な」
苦しげにかすれてはいたが。それは滅したはずの敵、
見上げれば、漂っていた。黒い
風もなくそれが渦を巻き、渦を巻き。音もなく寄り集まり、大蛇の如く太く長い、
さらには辺りの床、砕け折れた針の破片と共に散らばっていた、明王の肉片。その
そして。吸い上げられて宙を舞い、あるべき位置に――耳なら耳の、指なら指の――浮かんだ肉片の先に。黒い
「な、ん……じゃと!?」
崇春が
「――いや、お見事。これほどの武人、二人もと
笑みを消し、八本の腕を構えた。
「――これほどの武人、二人もを
その巨体が二人を目がけて跳び、胴を中心に渦を巻く。武器を携えた八本の腕が、残像を残しつつ
「――受けられよ。【
その武の渦に、為す
「が……!」
一方、崇春は。
「ぐう……!」
跳ね飛ばされ、武器に
「こちらの番よ……【真・スシュンパンチ】じゃあああ!」
繰り出す
足を止めた
「――【
気づけば投げ飛ばされていた、崇春は。ステージ後ろの壁目がけ。たたきつけられていた、その壁にひびが走るほどに。まるで自身の力を、まるごと返されたかのように。
「――勝負あった……認めるならば、お命までは獲りませぬ。認めぬとあらば、今すぐ
数秒経って壁からずり落ち、床に横たわったまま崇春はつぶやく。
「……なるほど……の。分かったわい」
「――負けを認められると――」
「いいや? 分かったのは、の……」
壁に身を擦り、もたれかかりながら。崇春は立ち上がる。
「お
ぴくり、と
それを隠すように朗らかに言った。
「――ほう、それは初耳ですな。そのような方法があるのなら、後学のため拝聴いたしたいところ」
壁にもたれたまま崇春は言う。
「とぼけまいぞ。語るに落ちる、どころではなく。それを示したのはお
「――な……」
切りつけるように崇春は言う。
「再生する力、不死身の肉体。それを持つ
表情をなくした敵を前に、崇春は腰に両手を当てて身を反らす。
「まあ、その倒す方法が何かっちゅうのは分からんがのう! がーっはっはっは!」
「――……成程。それは、そうかもしれませんな」
表情を消したまま、
「――ですが。そこに思い至った以上、貴殿は必ずここにて
狙いを定めるように三つの目を細め、八腕を構えた。
穏やかに崇春は言った。
「言うておくがの。その方法が何かは知らんが、何にせよお
表情を消し、構えを取る。
「弱点があるとばれた後で、ようやっと本気になるとはの。いくらなんでも慢心が過ぎようわい……明王、武辺の
「――わざわざの苦言……痛み入る!」
声と同時、跳んだ。螺旋を描く八腕を竜巻のように振るう。
「――【
その声が終わらぬ間、螺旋に勢いが乗り切らぬ間に。
「【真・スシュンパンチ】じゃああああ!」
撃ち
堅い音を立てて打ち込まれたそれに、明王の首が揺らぎ、螺旋が崩れる。
「おおおっっ! スシュンパンチ! スシュンパンチ! スシュンパンチ――【スシュン・ラッシュ】じゃあああ!!」
薄く金色の光を帯びた拳を無数に繰り出す。それが鈍い音を立て、明王の胸を腹を顔を打った。
「――ぐぶ……!」
だが。いかに連続で繰り出そうと、二腕の拳はいつしか八腕にいなされ。受けられ、流され。つかまれ、投げ飛ばされた。
「――【
その声が終わらぬ間に。投げ飛ばされながら。崇春は空中で身をひねっていた。
「【胴
真っ逆さまに投げ飛ばされながらも、強く伸ばした崇春の脚。薄く金の光を帯びたそのかかとが、
「――が……っ!?」
もろともに体勢を崩し、重なり合うように崩れ落ちる。
震えながらも崇春は先に立ち上がり、敵を踏みつけるべく足を打ち下ろしたが。
荒い呼吸の下から崇春は言う。
「柔道の達人に妙技あり……投げられつつも相手の足を刈り、逆に相手を倒す技が。斉藤から聞かせてもろうた、その技のわしなりの
地に伏したままの明王へ構えを取り。四本の指を曲げ、くいくい、と手招きしてみせる。
「立つがええ。仏法と世界四方の守護者、武技武辺にて護る
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