五ノ巻5話 明王対四天王
飛び出す崇春は声と共に、必殺の拳を繰り出した。
「先手取ったり! 【
鬼神の腕が浮かび上がるその拳は、しかし。
「――先手、確かに
十字に交差させた隆々たる腕で受け止められ、横合いから出されたさらなる二本の腕につかまれ。
床を擦る音を立て、
その腕をつかんだまま、にこりともせず
「――後手参るぞ、これにて詰み!」
短い柄の斧、
だが、まさにそのとき。
「
斉藤
絡みつく太い片腕が、
そのまま。斉藤は腰を跳ね上げ、身を反らせながら。背後へと自ら倒れ込みつつ、
柔道における
ステージの床を重く震わせ、
「――ぉ……あ……!?」
その代わりにか、八腕のうち空いた二本の手、これをつかむ。相手のそれぞれ小指だけを、握り締めるように。
それを曲げた、無造作に。だが、曲がるはずのない方向へ。関節と逆方向へ、満身の力を込めて。
結果、生木をへし折るような湿った音を立てて。
「――ごぁ……!」
敵のさらなる
「ウス……大丈夫、スか」
「すまぬ、助かったわい」
敵の腕二本につかまれていた崇春は、斉藤が投げを打つ動きに巻き込まれかけたが。どうにか腕を振り払い、逃れていた。
握る拳から金色のもやが立ち昇る。
「
数歩駆けた後踏み切り、跳んだ崇春は。その拳を叩き込んだ。自らの真下にいる敵、その腹と胸の間。急所たるみぞおちへ。
「垂直落下式・【
ぼご、と
「――~~……っ!!」
声にならない叫びを上げて、
崇春は拳を打ち抜いたままの姿勢で長くいたが。やがて敵の体から下り、合掌した。
「二対一、目立ち者としちゃあ恥ずべきことじゃが。先を急ぐ身ゆえ……すまぬ」
深く頭を下げる。
「……あざっ……ス」
斉藤もまた、深く頭を下げる。
崇春はきびすを返し、茶の入った袋をつかんで、ステージを下りようとした。
が。
「――……ほ、う……敵に、後ろ、を……見せると、は」
倒れた
「――これは、つまり……自分の、勝ちですか……な」
崇春はそちらへ向き直るが、首を重く横へ振った。
「お
「――否」
つぶやいた
「――オン・アミリテイ・ウン・ハッタ」
とたん。止まった、腹の傷から流れる血が。
どころか、それは。まるで時が巻き戻るように、流れ落ちた跡を逆にたどり。流れた血の全てが、傷口へと収まっていた。そして肉が膨れ、傷を
それは崇春に打たれた箇所も同様だった、べごべごべご、と音を立て、粉砕されていた骨がつながり、肉が膨れ、たくましい腹筋を形作り。完全に、元に戻っていた。
斉藤に折られ、あらぬ方向に曲がっていた指も。元の向きへと立ち上がり、鈍い音を立てて関節をかみ合わせた。
「――貴殿らの武技、真にお見事。斉藤殿の鮮やかな投げ、多腕と武器を警戒して押さえ込みにはいかない判断。代わって指を
顔を上げる。
「――この
八本の腕と、武器を構え直す。
「――芸のない武骨者にて、他にこれといった力はありませぬ。四大明王の内においても、とても最強とは名乗れぬ身。されど」
口の端を上げ、不敵に微笑む。
「――この自分、誰にも負けることは有り得ませんな。四大明王においても、貴殿らのいずれと戦おうとも」
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