三ノ巻16話 夕日の下で
結局そのまま鈴下と一緒に、見守り活動を手伝うことになった。
校門の方では会長が、ジャージ姿で植木バサミを手に植え込みと格闘している。意外に慣れた手つきで、作業のかたわらには道行く生徒らに気をつけて帰るよう声をかけたりもしている。
見守り活動の合間に、鈴下は執拗に賀来に話しかけ、恋愛について聞いてきた。
その話題を適当に流していた賀来だったが、いつの間にかぽつぽつと、かいつまんで話し出した。
鈴下の有無を言わさぬ聞き方に、話してしまうのも分かるが。お願いだから、少し離れたところにいる斉藤――ずっと無言、無表情でいる、ある意味いつものとおりではあるが――の気持ちも考えてあげてほしい。
そして、斉藤の横にいるかすみの気持ちも。本当に。
「うう~ん、なるほど……」
大まかなところを聞き終えた鈴下はペンを走らせる手を止め、何度かうなずいた。
視線を泳がせながら賀来は言う。
「あ~~、と、まあそんな感じなのだが……先輩は、何かアドバイスとか。せっかくだし」
「え? ああ――」
鈴下は目を瞬かせた後、ぽん、と賀来の肩を叩く。
「――がんばれよ」
「一言!?」
賀来が声を上げると、鈴下は眉をひそめた。
「いや、別に。話を聞くとは言いましたが、生徒会として恋愛相談まで受けるわけでは」
だったら何で聞いたんだ。かすみは横でそう思った。取材だの何だのとは、そういえば言っていたが。
そこまで考えて、ふと思いつく。男子という黒幕の条件からは外れるが。鈴下も他人の悩みを聞いている――本当に聞いているだけだが――。
あるいは、黒幕ではないにせよ。その協力者、という可能性はないか? 悩みを持つ人間を探し、黒幕に報告するといったような。だとしたら今後も何度か接触してくるはず、そして最終的には黒幕を連れてくる。
かすみは二人の方に行き、口を挟んだ。
「そうだ、先輩。これからも何度か、相談に乗っていただいても――」
メモを繰りながら鈴下は言う。
「いえ。そんなに面白いネタでもなかったんで、結構です」
「結構、って……」
「面白……」
かすみと賀来がそれぞれに絶句していたとき。
「ウス」
斉藤が鈴下と、二人の間に巨体を割り込ませる。かばうように。
「先輩……オレら、手伝ったんで。そろそろ、帰ります……ウス」
かすみからは大きな背が見えるばかりで、表情はうかがい知れない。
鈴下が口を開け、目を瞬かせる。慌てたようにメモとペンをしまい、頭を下げた。
「あ~、申し訳ない。すいませんほんと、デリカシーがなくて。取材となるといっつもこうで」
髪のもつれる頭をわしゃわしゃとかく。
そのとき。
「いやー、やったよ皆! 会長頑張ったよほんと!」
赤く染まった空の下。植木バサミを片手に、髪やジャージに葉っぱをまとわりつかせた会長が、手を振りながら走ってくる。
袖で汗を拭ってから言った。
「ほら、見てくれこの成果!」
校門へと続く道沿いに植わっていた背の低い植え込みはそれぞれ、接地面付近を刈り込まれていた。全体としては丸い形に整えられており、植え込みとして不自然な形ではない。
かすみは言う。
「すごい……よくこんなにできましたね、この短時間に」
会長は拳を握って言う。
「ああ、これが俺の力……いや、斑野高校生徒会長の力だ……! さて」
手を一つ叩く。
「後は、皆で掃除するだけだ!」
よく見れば。刈った後の枝葉は、辺りの道に散らばったままだった。
鈴下が息をつく。
「会長……片づけ終わるまでがボランティア活動、いつもそう言ってましたよね」
ごまかすように会長は笑う。
「ま、まあそうだけど! 皆でやろうよ、そうだジュース、ジュース買ってくるから!」
会長が走り去るのを見た後で、斉藤がかすみたちの方を振り向く。
「ウス……どうする、スか」
「まあ、ここで帰るのもちょっと……手伝いましょうか」
掃除自体は手早く終わり、会長がジュースの缶を辺りに――靴箱前のコンクリートの地面に――並べる。
その横に座り込み、全員に紙コップを渡して会長は言う。
「さあ、どうぞ好きなものを。お礼の気持ちだ、会長自らお
並んだ缶――粒入りオレンジ、ナタデココとぶどうの粒入り、アロエとぶどうの粒入り、ナタデココ入り乳酸菌飲料――を眺めて鈴下はため息をついた。
「自分一人の好みを押しつけるのはやめて下さい。会長は粒入りジュースが大好きでも、粒入りジュースは会長のことを忌み嫌っているんですよ」
「論点すり替わってない!? 君につぶつぶジュースの何が分かるんだ……まあとにかく、皆遠慮しないで」
それぞれが選んだジュースを、会長が紙コップに注いでいく。会長自身は慎重にナタデココとぶどう、粒入りオレンジを七対三の割合で注ぎ、わざわざ持ってきていたスプーンでかき混ぜた。
鈴下は息をつく。
「『シオンカクテル』……いつものやつですね」
「ああ。君はこれだったね、いつもの」
粒入りのおしるこ缶を手渡す。
「ええ。これの冷た~いのが美味しいんですよ」
鈴下は普通に口をつけ、何口か飲んで満足げにうなずいた。
かすみたちもそれぞれジュースを口にする。
そしてふと、かすみは思った。
こちらに全く収穫はなかったけれど。崇春たちはどうしているのだろう。
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