三ノ巻6話 花も実もない
――一方、その少し後。
線香が焚きしめられた中、テーブルの蓮の花を前に円次は真言を唱えていた。顔をしかめ、吐き捨てるように早口に。
「ナウマク・サマンダボダナン・インダラヤ・ソワカ!
左手の
全員の視線が蓮に注がれ。円次はその姿勢を維持し。
そして、何も起こらなかった。
印を崩した手でテーブルを叩き、円次が声を上げる。
「だあああっ! 何回やらせンだよオイ、全ッ然来ねェじゃねェかあのクソは! 大体お前、合ってンだろうなこのやり方で!」
百見は眉根を寄せ、考えるようにあごに手を当てる。
「ええ、これで間違ってはいないはず……元々帝釈天の本体となるはずだった、平坂さんが印と真言で
テーブルの上の蓮を示す。
「仏教ではなくヒンドゥー教、またその源流たるバラモン教の神話ですが。古典『マハーバーラタ』には書かれている、主神であった帝釈天ことインドラが蓮の茎の中に引きこもったことがあると」
「何でそんなとこに……」
円次のつぶやきにうなずき、百見は続けた。
「宿敵ヴリトラ――
「普通にダメだなオイ……」
「
崇春が腕組みをして言う。
「むう……それで、隠れておる帝釈天を、蓮を媒介に
百見はうなずく。
「さらに前段階として、肉パーティを
斉藤が口を開く。
「ウス……そういう、意味があったんスね……この集まり」
円次がつぶやく。
「いや、絶対意味ねェだろこれ……」
百見は肩をすくめた。
「一助にはなるかと思いましたが。知っていては固くなる人もいると思って、全員には言ってませんでしたけどね。それにしても、岩戸作戦失敗となると――」
テーブルから下ろして辺りに積まれた、片付け途中の食器や食材。辺りに残る紙皿や紙コップ。水をかけた炭の、
「――どうしたものかな、これから」
空を見上げた百見のつぶやきは、寝転がった渦生のいびきにかき消された。
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