第2話 夢
初めて、親以外の人から期待された。
僕は朝イチのバスの中でそんな事を考えていた。
『普通』の僕は周りの奴らより、出来る事が少ない為、期待されなかった。
こんな僕に、親は期待してくれた。見捨てないでくれた。それだけが僕の生きる世界での救いだった。
だから、
『普通』の人が輝ける可能性が少しでもあるのなら今まで受けた期待を返せるのではないか。喜ばす事が出来るのではないか。
そんな事がバスに揺られながら湧いて来る。
気づいた時にはバスは目的地前のバス停に着いていた。
約1時間のバスでの移動はあっという間だった様に感じた。
バス停から少し歩き、大きめの建物についた。
インターフォンを鳴らしてドアの前で待つ。
少し待った後、『はい』と言う声がインターフォンから聞こえ、ドアの向こうから走る様な足音が聞こえた。
ドアが開くと同時に中からラフな服な人が飛び出し、僕の手を握った。
『よく来てくれました!さぁ中に入って下さい。』
僕はその人に引かれるように中に入った。
この人が電話してきた人だと声から分かった。
『この部屋で説明をしよう。』
その人が指した部屋に入り、ソファに座った。
『まず、私の自己紹介からだね。私の名前は高菜 夢と言います。男性っぽくない名前とよく言われます。高菜とでも呼んでね。』
そう言いながら首を摩り、笑顔を向ける。
『勝手ですまないが君の事はすでに調べてある。』
僕の名前を言う事なく、自己紹介は終わった。
『急な筆問だが、君、本場高には夢はあるかい。君自身の夢が』
高菜さんが夢を急に聞いてきた。
さっきまでの穏やかな雰囲気から明らかに空気が変わった様に感じる。
『夢…ですか』
僕は聞かれた筆問の答えを探す。
『僕の夢は… 僕の夢は』
重力が重くなった様に感じる。
実際には重力は変わっていないし、普通の人ならすぐに答えられる簡単な筆問だ。
しかし、
『ない…
高菜さん、僕には夢がありません。
夢を見たく、
ありません… 』
僕が幼い頃は、ヒーローに憧れていた。みんなを笑顔にするヒーローに。
しかし、現実にはヒーローはおらず、
ヒーローになれない事を知った。
そんな時、テレビでスポーツの大会の中継を見た。
どんなルールかすら分かってはいなかったが一つだけ、分かる事があった。
選手、観客、全員が笑顔だった事。
僕はこんな人になりたいと思った。
僕は母に夢を言った。こんな人になりたいって
だか、僕は『普通』のハズレだった。
母から教えられた。
母も耐えられ無かったのだろう。夢を語る僕に。隠している自分に。
母は僕に向かって『ごめんね、ごめんね、』
と何度も何度も謝った。
僕には夢は叶わないとその日、知った。
それから、僕は夢を見なくなった。
見ない様にした。 夢から逃げたんだ。
幼い頃の事を思い出しながら言葉を口にした。
『僕の中で、夢は叶わない物なので。
夢を観るのは
辞めました。』
『だから、ニュースを見た時は泣いてしまいました。やっと僕がみんなと同じ場所に立てるって。夢を見れるって。』
前を向き、笑った。
『筆問の答えになってませんね。すみません。』
僕は高菜さんに謝った。
『そんな事はありませんよ。』
高菜さんは僕に一言いった後、僕にハンカチを渡してくれた。
自分では気づかなかったが、僕は泣いていたようだ。
涙を拭き終えた所で、高菜さんが話し出した。
『君と同じ『普通』の人が助かる様に。
夢を見れる様に。
君が必要です。『普通』の人を笑顔に出来るんです。』
僕は高菜さんの話を聞き、まだ少し赤い目を擦り。
『これからよろしくお願いします。』
と、今まで言ったことない強さで言った。
『普通』はこの世で最強なのでは?! HYS @hiroenb
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