『普通』はこの世で最強なのでは?!

HYS

第1話『普通』

『100m走!またしても新記録です!今大会、2度目の新記録が出ました!4秒76!』


お昼時、学校のテレビの奥で行われている試合をリポーターが実況している。

この世界はファンタジーの様に魔法が使える訳でも、羽が生えている訳でもない。

しかし、この世界では生まれつき、何かしらの身体能力が飛び抜けて生まれて来る。

例えれば、さっきのテレビの様に100mを5秒で走れる人が居たり、ジャンプで15m飛べる人が普通に居たりする。


昔までこんなにも身体能力が飛び抜けた人はおらず、みんなも僕と同じ『普通』だったのに


この世界で僕、本場高(ほんば こう)は飛び抜けた身体能力が無い、『普通』の人として生まれてきた。

『普通』は非常に珍しく、1億人に一人の確率でしか生まれて来ない。いわゆるハズレだ。

総人口が70億人居る為、世界に70人も確率上、僕と同じ『普通』が居る事が気の毒でしょうがない。


そのせいで放課後も、

『70億分の70を引いた君はやっぱり運が良いな〜掃除をやらせてあげよう!』

『今日も掃除よろしくね〜普通の本場君!』

『やっぱ、本場には掃除が似合うなw』

『俺らはスポーツを、やりに行くからね〜』

僕の入った学校はスポーツ全般で強豪と呼ばれる高校だ。

親に心配をかけない為にお金を私立よりかからない公立の学校に学習面でこの高校に入った。

僕が『普通』だと知り、同級生からは

毎日の様に掃除を押し付けられたり、嫌がらせにあっている。

僕には勝てる訳が無いので言う事を聞くしか無いんだ。

『我慢だ。我慢。後、半年もすれば高校も卒業できる。そうしたら、自由だ』

いつも、自分にそう言い聞かせ、耐えていた。

1人で掃除をしていたせいか、終わらせた頃には既に外は暗くなっていた。

帰りの準備をし、玄関へ向かう。

その時、通りかかった部屋から大きな声が聞こえてきた。昼聞いたリポーターの声よりも大きな声が。

電気も付いていない部屋でテレビだけが何故か付いていた。

俺は導かれるかの様にテレビの方へ向かった。

テレビの内容は『普通』の人が15mのジャンプをした事が確認されたらしい。研究者らしき人が『今までハズレと呼ばれていた人々が助かる可能性が見えて来た。』

僕はテレビを見ながら、拳を握った。知らぬ間にガッツポーズをしていた。テレビを消し、黒い画面に反射した自分の顔を見た。知らぬ間に泣いている自分に気づいた。自分にも同じ事があるのかは分からないが希望がある事を知り、1人、泣き崩れた。


十数分後、

涙を拭き、家へと走って帰った。

家につき、『ただいま』と言う。

いつもならとっくの前に帰って来ているので心配で母親が玄関に走って来た。

『高!こんな時間まで何してたの!』

母が少し強めの口調で聞いてくる。しかし、

『目の周りが腫れてるよ。どうしたの?』

目の腫れに気づいた母は直ぐに心配そうな声になった。

僕はそんな心配を消す様な明るい声で言うんだ。

『大丈夫だよ!そんな事より早くテレビ観て!早く!』

テレビの前のソファまで手を引き、座らせた。僕は横に座り、テレビをつけた。

番組は違うものの同じ様な内容がニュースになっていた。

そのニュースを見た後、母は僕を抱きしめて耳元で

『よかった。本当によかった。』

と言いながら泣いてくれた。

父が走って帰ってきた。今までで見たことの無い程に息を切らしながら。

会社でニュースを見たらしく、直ぐに『良かった』と言いながら抱きしめた。

本当にこの家に生まれてきて良かったと思う。

落ち着いた所で晩御飯を食べている所に1本の電気が来た。僕は電話に皆んなに聞こえる様にし、電話に出た。

『夜分遅くにすみません。こちら、本場さんのご自宅で間違いないでしょうか?』若そうな男性の声だった。

『はい』とだけ返事をし、話を再び聞く。

『本場高さんが『普通』と調べた所、分かったのでお電話させていただきました。』

ドキッ!とした。実験材料として監禁されるのではないかと考えていた。

僕の思考は嫌がらせを受けている事でマイナスな方に考えてしまう様になっていた。

『ニュースで今やっている様に『普通』の人が身体能力が飛び抜けている人と同じ高さをジャンプで飛んだ事から『普通』の人にも可能性があると私は考えています。』

ニュースで話をしていた研究者らしき人と言う事がこの話から分かった。

『何も出来ないと思われていた人々が輝けるかもしれないのです。力を貸してくれませんか?』

電話でこの人が良い人か悪い人は分からいが、この熱量は本気だと思った。僕はこの人の言葉に感動していた。

親の顔を見ると少し不安そうだったが僕に『頑張って』と小さい声で言っているのを聞き、決意が固まった。

『はい。喜んで貸します!』

気づいた時には口から勝手に返事が出ていた。

『ありがとうございます!明日、○○市の研究所に来れますか?何時でも良いですので』

明日は平日で学校もいつも通りあるが、どうせ、嫌がらせを受けるだけだと思い、僕は

『明日、朝イチのバスで行きます!』

そう言った。

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