42話 説教
レティシアを捜す為に走り出したルネはそう時間は掛からずに見つけ出すことが出来ていた。
「レティシアさん、俺達が置かれている事態は深刻だ。今だってここがどの場所に位置しているかなんてこともわかっていない。·······もしかしたらここが途轍もない危険地帯かもしれない。離れた先に危ない何かがあったかもしれない。わからないのも問題だけど、レティシアさんは違ったはずだ。わかっていて一人で行動していた。
ねぇ、レティシアさん。俺は怒ってるんだ。力不足は別にいい、だけど故意の足手まといは許せない。これは他の誰でも同じだ。レティシアさんだって許容はしないはずだ。
ねぇ? 俺はどうするべきかな? どうもレティシアさんは俺が怒った程度では理解してくれないみたいなんだ。どうするべきだと思う?」
ふらりと歩き彷徨っていたレティシアを見つけたルネは透かさずレティシアに拳骨を叩き込み今現在、正座している彼女に怒りの説教をしている。
レティシアはプルプルと震えては口を引き結ぶ。
レティシア自身も悪いと思っているのだ。ただ、どうしても好奇心に負けてしまい本能のままに動いてしまう。
そこらの制御が出来ていれば今回の蜘蛛しかり、今の説教しかり無かっただろうことは彼女もわかっていた。
それから数十分後、ようやく説教を終えたレティシアはルネに勝手に歩き去った理由を告げる。
「ああ、レティシアさんが倒した雷鳥を見に行きたかったのか。その位、俺に言ってれば説教は無かったんだぞ?」
「う、はい。ごめんなさい」
「ああ、何かするにしても緊急の時以外は相談してくれ。突然いなくなられると心配する」
「わかりました」
「そうか、なら雷鳥の死体の元へ行こう。位置は判っているのか?」
「はい、こっちです。行きましょう」
ふたりは森の中を真っ直ぐに歩く。途中に薬草やキノコ、木の実などを拾いながら進んでいく。
レティシアには空間魔術の応用で別次元に採った物を収納しているが、ルネは魔術が使えない。しかし不可思議なことにルネが手に持った薬草などは触れた端から消えていくのだ。
本人が言うにはちゃんと回収しているとのことだ。
“魔術でないなら『変覚』では?”と疑い魔力の動きを良く見てみるが一切使われた跡がないのだ。
新しい疑問に歓喜したりしながら雷鳥の死体の元へとたどり着いた。
「おお、見事に凍っているな」
「はい、溶けていなくてよかったです」
「··········ん? ちょっと待て。え? レティシアさん、これ、溶けるの?」
「? はい、自然のものよりも多少溶けきる時間が長いだけでそれ以外は変わりませんよ」
「············じゃあ、溶けきったらまた動き出すのか?」
「そうですね、かなり確率は低いですがあり得ることです。今回は対象の雷鳥が死んでいるので適用されませんけど·······」
レティシアは雷鳥の死体に触れながら纏わり付いている凍りを温度調整の魔術で溶かしていく。部屋の温度を変える程度しか使わなかった魔術だが意外な所で役立ったことに少しの嬉しさを覚えた。
「それで? この雷鳥で何かするのか?」
ルネは興味本位に使い道を訊く。
「はい、この雷鳥の血を使って私の能力を覚醒させようと思っています」
「ほう? それは『変覚』のことか?」
「いえ、そちらではありません。·········私が覚醒させたいのは
「···············魔人の力は潜在能力の上昇だけじゃなかったのか?」
ルネがレティシアの家にお邪魔した時、確かにそんな会話をした覚えがあった。それ以外に変化はないとも言っていたのだ。
「はい、私もそう思っていたのですが···········これまでの戦いで血が身体に馴染んだらしく、まだ何か条件を満たさないと使えない能力があることがわかったんです」
「それは············いや、今さら訊いても同じか。話しはわかったが危険はないのか? 俺にはどうも危ない臭いしかしてこないが·········」
「大丈夫です、失敗はしません。いえ、させません」
毅然とした表情で言葉を吐くレティシアにルネは黙って腕を組み目を瞑る。
色んな葛藤があった。
本当に危険はないのか。
止めさせた方が良いのではないか。
また、無茶をやらかすのではないか。
そんな負の思考が渦巻いていた。
要は心配なのだ。
ルネにはレティシアを無事に連れ帰るという使命がある。それはルネの為でもあり、レティシアの為でもあり、その両親の為でもあるとルネは信じている。
しかし、しかしだ。
ルネの気持ちひとつでレティシアの望みを切り捨てるのは違うのではないか。そう思った。
それに、今レティシアを止めても自分のいない場所でやることをルネは予感している。
なら、始めから自分がいた方がまだ何とかなる可能性が高いと認識する。
「····················はぁ、わかった。好きにするといい。だけど俺が見ている時にしてくれ」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
「·········ああ」
またひとつ厄介事を背負った気がしたルネであった。
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