41話 積乱雲④
レティシアが放った《斬風》は雷鳥の雷により霧散させられた。
(なるほど、中途半端な攻撃では《強制麻痺》を伴わない雷で打ち消されてしまうと·······なら)
線の攻撃が駄目なら面の攻撃を。
等身大の魔術陣をレティシアは雷鳥へ向けて出現させる。魔術陣は白い光の粒を溢しながら回転し始める。それは徐々に速くなり、溢れる光の粒は発散と収斂を繰り返し白く輝いていた。
あとはレティシアが魔術の発動を告げるだけ。
「·········《
魔術によって引き起こされた白い竜巻が雷鳥のもとへ牙を剥く。
『qqqqqweeeaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』
流石の雷鳥も危機感を覚えたのだろう。
身体から
ぶつかり合う二つの現象は拮抗する。
白い竜巻が雷を上から喰らうように包もうとするところを赤い雷に付与されている雷鳥の
「·········悪いですが、ずっと拮抗している暇はありません」
《氷風》の魔術陣に更に魔力を込めていく。
魔術の威力は陣の理論と魔力量だ。最低限しか込めていなかった魔術陣に更なる魔力を注げばどうなるかは明白だ。
『qqqeaasdqqqqasdffgfdfdf!?!?!??』
拮抗は一瞬にして崩れ、白き竜巻は雷鳥へと直撃した。
「凍りなさい」
数秒後、魔術を消すと真っ白な雪化粧を施された雷鳥が大地へと落ちていった。
(········やはり、魔族を取り込んだのは正解でした)
それを見送ったレティシアはどこか満足げだった。
ふたりの間で放った攻撃がぶつかる中、ルネにも動きがあった。
一羽の雷鳥が攻撃を始めたのを皮切りに他の雷鳥たちもこちらに敵意を向けてきたのだ。
数十の雷鳥が一斉に雷を放つ。
それは《強制麻痺》を含んではいないが常人が死ぬには十分な威力を持っていた。
そう
「そんな攻撃は効かないよ」
瞬間、ルネたちへと向かっていた雷は反転しては雷鳥たちの元へと返っていく。返った雷は数羽の雷鳥に当たったが大したダメージにはならなかった。
しかし、それでいい。ルネの目的はあくまで防衛であって攻撃ではないからだ。ちらりとレティシアを見る。そろそろ決着が着きそうに感じたルネは積乱雲に入る前に目測で測った高さで地上までの残りの距離を計算する。
(··············雲を出るまであと、10秒ってところか)
そんな風に考えている間も雷鳥からの攻撃は続いている。白色の《強制麻痺》が宿っていない雷は時間が経つに連れて赤い雷に変わっていく。
それでもルネには届かない。
「そろそろ雲を出るよ、レティシアさん。あとちょっと頑張れ」
戦いが終わったレティシアに伝え、どうにか頑張ってもらう。
「いえ、それよりもその不可思議な現象のことを「ん?」············これなら迎撃も軽くで問題ないでしょう···········《風爆》」
レティシアたちを囲い込むように何十、いや何百もの魔術陣を展開しては放っていく。雷はルネが防いでくれるのだ。なら、無理に討伐まではする必要がないので軽い牽制程度で済ませている。
並みの魔法使いならばとっくの昔に魔力が尽きていただろう。こんな所でもレティシアの有能さは示されていた。
そうこうしている内に積乱雲の出口はすぐそこだった。
「レティシアさん、もう出れるから着地の準備だけはしておけよ」
こくりと頷いたレティシアはふと、思った。
(これは、広範囲魔術を撃てるのでは?)
普段は創るだけ作っておいて使う機会がなく放置していたが、この状況は都合が良いのではと考える。
しかし不穏な思考を感じたのだろうルネがレティシアをじっ、と黙っては見ていることに気付いた。
(あっ、勘づかれました)
こうして余計なちょっかいを掛けることなく雷鳥の棲みか、積乱雲から脱け出したのだった。
「············では速度を落としますね。大分と手荒になってしまいますけれど」
何十もの数の《風爆》を展開、下へと放つ。それを見たルネは頬を引き吊らせる。
ちなみに《風爆》を選んだ理由は魔力消費量が他の魔術よりも低かったからだ。
「破裂」
全ての《風爆》が一斉に破裂する。それに伴い、レティシアたちを一瞬だけ浮かせる程の強風を発生させてる。
「これでいいですか?」
「··········ああ、十分だ。」
雲で下は見えないが、肌の感覚でわかる。
(3、2、1、今!!)
ズドン!!
着地の瞬間に膝を曲げて衝撃を吸収することで身体の負担を最低限に保ちながら地面に着くことが出来たことにちょっとした喜びをルネは感じていた。
ルネは辺りを見回そうとするがクレーターのような逆向きの円錐の穴を作っては、砂煙が辺りに舞い元々見えていなかった視界をさらに見えなくしていた。
「辺りには魔物はいなさそうだな。まぁ、雷鳥の巣が上にあったら当然か」
安全を確認したルネはやっと一息ついた。
本当のことを言うと、ルネにとって今回は安全な調査になるはずだったのだ。まず、内容が
だがレティシアはまるで厄介事に吸い込まれるように――あるいは向かっていくように――危険が辺りを満たしていた。
レティシアは厄介事に好かれている、そんなことを実感させられた
「レティシアさん、これからのこと、なんだ、け、ど?」
向いた先でルネは固まる。
「············いない?」
そのことを飲み込んだ次の瞬間、ルネは走り出した。
「········次は、絶対に、怒る!」
レティシアを探しだし、説教することを決めて。
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