39話 積乱雲②





 視界は灰色のモノしか映らない。




 だが、感じるのだ。



 強大な力の塊が近くにいることを。



 レティシアは何も見えないにも関わらず視界を明瞭とする魔術導眼を、いや、魔術自体を使おうとはしなかった。



 それは雷鳥などの神獣は魔力の探知能力に長けている者がほとんどだからだ。今、雷鳥に見つかる可能性を少しでも無くしたいレティシアにとっては当然の選択だと言えるだろう。





 一方、ルネの目は険しさを増している。

 どうもルネが思っていたよりも雲の色が濃いのだ。


 雷鳥の特性上、個体が強ければ強いほど、棲みかである雲は大きく、そして灰色を帯びていく。

 先程まで見ていた雷鳥はルネからすれば


 つまり何が言いたいのか。



 あの一体でこの雲の大きさは無い、ということだ。嫌な予感しかしない。



「レティシアさん。このまま落ちていくのは変わらないんだが、ちょっと面倒なことになるかもしれない」

「··········」

「まぁ、心配しなくてもいい。この程度はいつものことだ。気楽に行こう」


 レティシアの腰に回した腕を引き寄せては、離れないようにキツく抱く。


 当然、軽く抱き寄せられていた時でさえ赤くしていたレティシアは、なんとも言い表しがたい表情を浮かべては、こちらも抱く力を強めた。


 はためく服の音に自らが落ちていることを再認識してルネは目を細めた。雲の切れ目があったのだ。


 これで終わりならいいのに、ふと思ったがそんな訳がないことをルネはよく知っている。

 レティシアはピクリと肩を跳ねさせ、下を凝視する。それは気になる程度の反応ではない。明らかな苦味のあるそれであった。


 この反応が当たり前だな。


 この状況でこんな余裕をもっている自分がおかしいのだと、レティシアを見ては、よく思った。



 さてさて、とついに切れ目がそこに来た。


(鬼も蛇もでなければいいのに······)


 下らない願いの審議は己の身で確かめるしかないのだと、そう言わんばかりにタイムリミットが訪れ、二人は雲の切れ目に踏み込んだ。











「········いやいや、明らかに多すぎるだろう」







 数十の雷鳥の群れが一斉にこちらを見ていた。














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