32話 道中
『調教師』はあれからすぐにカルセナクへ向かった。
彼が使役している【偽竜】は竜種の中では最下位の竜ではあるが、竜の名を持つに恥じない飛行速度を持っている。
そして、竜種を使役できるのは世界で十人しかいない。そのひとりである彼が今回の任務を任された。
それはつまり、迅速に殺せと言っているようなものだった。
「あ~このままでは二日も掛かっちまうなぁ」
しかしそれでも王都からカルセナクまでは遠い。『調教師』は舌打ちをして苛立った。
「しかたねぇな、久々に使うか」
懐から取り出したのは注射針だった。中には並々と緑色の液体が満たしており、光の入り方で色が変わったりしている。
「とろーいお前には、良い薬だろ? 俺の役に立て」
偽竜の首に刺し、液体を注入した。
変化は劇的だった。
黒かった表皮はどす黒い赤に変わり、全身に緑色の血管のような物が浮き出てくる。
流石の効き目だなと『調教師』は思う。
『グルイアアアアアアアアアアアア!?!?』
それらを余所に偽竜が叫ぶ。
それは泣いているように、悲しむように。
きっと
「はは、これでもっと速く着くなぁ」
にやりと頬を吊り上げ、笑う。
「ああ、早く殺してぇなぁ」
感慨深そうにカルセナクに想いを馳せながら。
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