24話 色々と聞きたいことはありますが、それは別です。
「はーい、到着ー」
ゆらっとした声を小さく発しながらレティシアが眠っていた部屋の到着を知らせた。
「すぅ······すぅ······」
やはり疲れはとれていなかったのだろう、屋敷に運んでいる途中に寝てしまったのだ。レティシアの幼い寝顔を見て自然と頬を緩ませてしまうルネは人だなんてとんでもない。天使ですら不相応。言い表すなら、そう、女神だ。なんて真面目に考えてしまう。
ずっと見ていたかったがやらないといけないことが山積みだ。なのでレティシアをベットに寝かせ、毛布をかける。どうせならと起こさない為にカーテンを閉じて光を遮断する。
「おやすみ、レティシアさん」
レティシアの前髪をさらりと整え、ルネは部屋から出ていった。
□□□
「さて、とりあえず料理の
キビキビと通路を歩きながらやることを選んでいくルネ。他にもやりたいことはあったがどれもこれも時間が掛かるので少なくともレティシアが元気になるまでは止めておこうと決めている。
それから30分ほど下拵えと道具の選定に時間を費やして過ごしたルネはレティシアの様子を見てから次にやることを決めることにした。それに今は11時30分、もうすぐお昼のこの時間に起きていればご飯でも食べさせようと思った。
てくてくと部屋へと目指す途中ついでに屋敷全体の気配を探る。今、面倒なお客は歓迎していないのだ。
「······よし。なにもいないな」
レティシアが寝ている部屋の前に立ち、気付かれないように気配を探る。寝ているところを起こすのは申し訳ないからだ。
「······起きてるな。なら、いいか」
特に気にせずにドアを開け、部屋へと入る。
「おはよう、レティシアさん。気分はどうだ?」
「······おはようございます。おかげさまで、先程よりは体調も良くなりました」
「·········そうか」
不機嫌、とは言えず。かといって上機嫌とも言えない中途半端なレティシアの心持ちを、ルネは敏感に感じ取った。
微妙な空気が二人の間に漂う。
困ったように苦笑を浮かべているルネは内心とても焦る。
(あれ? 俺、レティシアさんに何かしたっけ?)
レティシアはルネの方を一切見ようとせず、自らが開けたのだろう窓の外を眺めている。
「··············レティシアさん?」
「·········何ですか」
「··············そ、そうだ。お腹減ってないか。レティシアさんが寝ている間に下拵えだけは終わらせておいたので直ぐにでも作れます、よ?」
何だかもう、あまりにも気まずかったので別のことを話すことにした。最後の方は話すのも辛く敬語になってしまった。
「······」
「··········」
「···················」
「·········あの、俺、何かした?」
特に何もしてないよね? そんな声なき声が聞こえる言葉を言ったルネにここに来て初めて視線を向ける。
別にレティシアは怒っているわけではない。とにかく気恥ずかしかっただけだった。お姫様抱っこなど記憶に残る限りやられたことなどない。レティシアと言えど乙女。素晴らしい夢ぐらいあるのだ。しかし、ルネが全く気付いていないことに少しの不満も感じていた――が、その本当に困った顔を見ると、何となしに心の溜飲が下がった。
「········ふぅ、なんでもありません。少し話すのが億劫に感じてしまっただけなので、あまり気にしないでください」
「······そうか、なら話を戻そう。どうする、ご飯」
「······申し訳ないですが、頂いてもよろしいですか」
「ああ、もちろん。その為に作ったんだから、食べてもらわないと困る」
「·····ありがとうございます」
「いいさ、じゃあ持ってくるから待ってな」
そそくさと食事を取りに行ったルネを見送ったレティシアは「はぁ····」と溜め息をついた。
(······色々と思うことはありますが······おいておきましょう。両親とカルナが心配です。少なくとも2、3日以内にはカルセナクに戻りましょう)
体調については問題ない。ルネがいない30分の間にレティシアは
実を言うとルネに運ばれている最中に寝てなどいない。寝ていることにした方がレティシアにとって都合が良かったから寝た振りをしていたのだ。
(あの人のことも残っていますしね。聞きたいことはたんまりとあるのですから)
ともかく、ルネへの詰問が今、レティシアにとって一番の楽しみだった。
そのときトントン、とドアの鳴る音。
「入るぞー」
レティシアが返事をする前に入ってくる。ノックする必要ないんじゃ?と呆れたが別に問題ではないので言わなかった。
「はい、ここにおくぞ」
「ありがとうございます······美味しそうですね」
「はは、ありがとう。熱いから気を付けてな」
「はい」
野菜とベーコンと大麦の雑炊はモクモクと湯気を立ち上らせ、付け合わせの漬け物は綺麗に輝いていた。
「頂きますね」
スプーンで掬い、冷ますために息を吹きかける。
「ふぅ、ふぅ」
「······」
「ふぅ~······ふぅ~······」
「············」
何故かはわからないが見てはいけないものを見たと言わんばかりにレティシアから目を剃らす。
ルネは何も考えないように無我の境地を目指すことにしたようだ。
「····はむ·····はふ、はふ」
熱かったのか上を向きながら口をハフハフとさせて冷まそうとしている。その時に湯気にやられたのだろうか。首、鎖骨と見え、しとり、と汗の玉が胸へと落ちていくのをルネは見てしまった。
「っ·····」
無理だった。
あまりに気になって仕方がない。
「······ふぅ、美味しいです」
艶やか。
そう言わざる得ない。
「·······よかった。まだおかわりはたくさんあるから、いっぱい食べてくれ」
「はい」
それから何回というレティシアの食事場面を見ることになってしまったルネは頬を引き吊らせながら笑っていたとか。
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