18話 知らない場所で面白い話をされると少しムカつきはしませんか?
時間はレティシアが【肉塊】と戦闘を始めた時。
学院の事務室、そこでいつも通り仕事をこなす大勢の中のひとりに、以前レティシアと会話をした『職員』がいた。
平事務員の中ではそこそこな地位にいる彼は毎日たくさんの仕事を任せられる。
常にペンを動かし続けていた『職員』はピタリと手を止める。
「········はぁ、ここに来るのかよ。」
呟きながら立ち上がる。
「あれ?先輩どうしたんです?まだ昼休憩じゃないですよ?」
隣にいた『職員』の後輩が話しかける。
「···ああ、ちょっと任せられた仕事があってな、その話し合いにいくんだ。」
「そっすか。頑張ってくださいね。」
「おうよ、じゃあな。」
背を向けながら手を振り、事務室から出ていった。
「ん?あいつどうしたんだ?」
事務室のトップである課長は出ていった『職員』について後輩に訪ねる。
「なんか仕事みたいですよ」
「んん?あいつに外の仕事回したっけ?」
そんな覚えはないが、まぁいいだろ、と気にしないことにした。
不思議なことにレティシアが教棟を倒壊させたことは知られておらず侵入者がいたことすら気付いていなかった。
ジクニア王国学院にはそこそこな規模の森が存在している。普段は誰も立ち入ることはなく、ほとんどの生徒は森があることだけしか知らない。そんな場所に『職員』はいた。
森の道をどこかを目指して歩く。その足取りはしっかりとし、だが踏み締める足音は一切しなかった。
ふと、立ち止まる。
「―――お久しぶりです。ラジェストス様。」
「ああ、そうだな。お前と話すのは数年ぶりか。」
森の中に『滅幻の洞穴』頭領ラジェストス・バーナフラが気持ち悪く口先を吊り上げ笑いながら立っていた。
「今日は何の御用でしょうか。貴方様と私共の協力関係はもう切れたと認識しておりましたが?」
「ああ、そうとも、確かに切れた。私の目的は達成できたがそちらがどうかは知らないからな、どうなったのか気になったのだ。」
ラジェストスは片眉をあげて答えを促す。
それを見た『職員』は硬い表情のまま、口を動かした。
「そうでしたか、·········今のところ、順調だと聞いております。」
「そうか、順調か。ならばいい――がひとつ、聞いておかなければいけない。」
「····なにを、でしょうか。」
急に威圧してきたラジェストスに冷や汗を流しながら言葉を返す。
「――何故、あの娘が······レティシア・ネイアがここにいる。」
「???レティシア・ネイアがどうしたのでしょうか。」
『職員』には意味がわからなかった。何故ここでレティシアの名前が出てくるのかも、何故、ラジェストスがその名前を知っているのかも。
「―――なるほど、知らない、ということか。」
「申し訳、ありません」
「いや、構わない。そうか、なら偶然ということか。······それもいづれわかるだろう。」
「·········」
「用件はこれで終わりだ。」
ひとりでに完結した呟きを残しラジェストスが去ったのを見送った『職員』は彼の問いについて考える。
「あの『銀冷姫』にあの男が気にする何かがあるのか······あー、一応報告だけはしておこうか。」
ああ、また仕事か。と溜め息を吐きながら『職員』は帰路に着いた。
森の中の小さな人影に気付かずに。
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