17話 自分がしても人にされると嫌なことはあります。
あれからどれ程の時間が立ったのだろうか。
【肉塊】等を切り裂き、突き刺し、踏み潰す。その度に新たなに製造され、レティシアを襲う。さらに一体殺す毎にねずみ算的に殖えていく。
今、相手をしている数は236体にものぼっていた。
(そろ、そろ·····不味いですね。魔力が尽きそうです。)
なるべく魔力を消費しないよう注意しながら戦っていたがそれが出来なくなるのも、もう時間の問題だった。
「g2xwx3fe5v5j7j5cevyntch3fw」「qrvrgvex57hg.?!??????f.!.g31f」「qzwx325vrb5!v?vg!tvecyn7h」「D2D2FRFHEF4HEG3DEG5352y!.??,v,」
(まったく、目障りです!)
肉体の疲労が近づいた身体を動かし、【肉塊】の首を斬りとばし、踏み潰す。
闘技場の枠際に居る奴等をそのまま奈落に突き落とす。
突き落とした先がどうなっているのかはわからないが着地音が聞こえないので帰ってくるのは無理だろう、とそれ以上考えない。
一気に六体もの【肉塊】を倒したレティシアだが、やはり形勢は不利の一言。
「うっ!?ッッ!?!?」
そしてここに来て、放置してきた問題が浮き彫りになる。
【肉塊】がもつ『変覚』の状態異常だ。
それは血の気化によって本領を発揮するが一体分の血では少なく、効果は低い。
しかしそれが何百何千となればどうだろう。
質より数の法則は何処ででも成り立つ。それはレティシアも変わらない。
今の空間には【肉塊】の血が飽和してしまい、レティシアも《身体強化》を最低限にし《異常浄化》に全振りして生き残っている。
また、それが魔力を喰らい枯渇させる一因となっていた。
(さて、どうするか。これを考えるのは何度目でしたか。·····まぁ、いいでしょう。)
思考の低下が激しい中で対処法を模索する。
(このままでは確実に死にます。ですが状況を覆せる何かがあるわけでもない。)
その間にも【肉塊】達が迫りくるのを大きく円を描くように走りながら薙ぎ倒していくレティシア。
―――そこでやっとの変化が起きる。
(光が、消えかけてる?)
魔術陣が発動している際の光は次第に薄くなっていることに気付く。
レティシアは視線を動かし触媒として存在していた綿毛を見る。
(あんなにあった綿毛が残り10個ですか。······もし綿毛が無くなれば転移魔術陣でここから離れることができるかもしれません。本当は運に賭けることはしたくはないのですが····ふぅ。)
魔力はもう心許ない。
後数分もすれば魔術全てが使えなくなる可能性が高く、分の悪い賭けだ。
その賭けに勝つため、レティシアは自身の《身体強化》を解く。《異常浄化》に全て注ぎ込むためにだ。これでほんの少しだが、時間稼ぎが出来る。
だが、《身体強化》をしないレティシアの身体はこれまでの疲労と重なり、鈍りに鈍ってしまっているのだ。
幾ら剣の心得があるからと数百体を相手にするのは自殺行為だった。
(だから、どうしましたか!私は生きます!この場で死ねる程、私の命は安くはありません!)
全力で自身を鼓舞し、重く痛む身体を叱咤しながら【肉塊】の海へと向かっていく。
「······ふぅ~~。」
息をゆっくりと吐く。
身体の疲労を抜くように。痺れる痛みを消すように。
「wxazscrceht.!.v6bb6rg4cwg47」
海の中の一体が飛び出す。殺意と血を撒きながら鋭い爪を振りかざす。
身体の力を抜いているレティシアは迫りくる爪を見ずに集中し続ける。
「gfhcygcthoh7ihtht8cn!!!!??!?!?.?!」
命中直後、ふらりと身体を揺らし左足を軸に時計回りに回転、その遠心力を使い上から短剣で押し潰した。
空かさずレティシアは刃毀れが酷い短剣を投擲、【肉塊】の頭に突き刺さり絶命。
そしてどこからともなく新しい短刀を手に持ち待ち構える。
当然、それを狙わない化け物はここにいるはずもなくレティシアへ向けて殺到しだす。
極めてゆっくりと動く。
相手の二三歩では足りない。十、二十を読み切りそうしてやっと命を繋げる。
それをレティシアは忠実にこなす。
流れる動きは止まらない。
猛る心臓を圧迫する。
細胞全てで身体を操る。
4.3.2
残りはあと1つ。
命のラストスパートを繰り広げる。
しかし、勝ててしまう防衛機構に意味は無い。それを製作者はわかっていたのだろう。
【肉塊】の身体が弾け飛ぶ。
血の雨が、ところ狭しと降り募る。どこもかしこも赤になる。そしてレティシアも例外ではない。
「がっ!?っは、ああ、っ!!?」
赤き毒は再び濃度を増し、ついには《異常浄化》では耐えきれなくなる。
膝をつき、前のめりに倒れる。血の毒の侵食は激痛を伴うため、正しい思考をしてくれない。
意識が朦朧としだす。
同時に闘技場が崩れて壊れる。石作りの床は下へと落ちて、足場は次第に減っていく。
そこでレティシアは直感する。元から、予定調和の中に、誰かの手の平の上で踊っていたことに。
それは屈辱だ。レティシアにとって許されざることではない。
深い闇に魅いられたレティシアは奈落のそこへと手招きされる。
(絶体にここを作った人、殺します。)
朦朧とした中、ただそれだけを考えてレティシアは落ちていった。
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