16話 赤い空は夕焼けだけでいいと思います。
―――天使は世界の害悪
レティシアは特に疑問に思うことなく受け入れる。そもそもレティシアは天使の信者ではなく、誰も信仰していない。
「天使が人間に授けた『神の欠片』、それこそが証明となるのだよ。」
『神の欠片』は触れることで魔法という超常現象を引き起こせるなど、現在の技術では不可能な力を持つ道具。それを一般的に聖遺物と呼ばれている。
魔法は魔術とは違い魔術陣を必要とせず、変わりに言霊、つまり詠唱が必要となる。そこの違いを調べたかったが聖遺物を盗むことは出来ず、魔法を使う場面を観ても何も掴めなかったのでレティシアは後回しにしていた事柄だった。
「確かに聖遺物は謎が多い、ですがそこから天使批判にどう繋がるのかがわかりません。事実、『神の欠片』含む聖遺物は人の為になっているでしょう?」
「その通りだ。確かに役に立っている。人種という寿命を代償にな。」
「っ!!」
思わず目を見開く。
「どういことです、種族の寿命が代償?根拠は?」
「それは、······やっとか。」
地面が揺れる。
自然的な揺れではない。
「!?これは!」
闘技場が発光し出す。光はレティシアとラジェストスを覆い隠すかのように強く白い。
地震が原因で空に飛び立とうとしていた丸い綿毛たちに光が反射し線を書く。
「光とを媒体に魔術陣を?····いえ、違いますね。媒体となっているのは綿毛で光はそれらを結ぶ役割を、ですか。···」
「ほう、凄まじい理解力だ。どうだ?『滅幻の洞穴』に入る気はないか?」
「ないです。」
「うむ、そうだろうな。」
ラジェストスの勧誘を即座に却下したレティシアは今現在起こっている魔術陣の解析を行っていた。
(全体的な造形までは時間が足りませんね。重要な部分だけの解析で済ませましょう。)
その解析したい部分もあと数秒もすれば終わる。同時進行で座標の計算を実行、転移魔術陣を構築を開始する。
「っ!?魔術が使えない?」
だが、何故か魔術の構築が阻害され転移魔術陣を構築することが出来ない。
闘技場の魔術陣の解析はその事実に気付くと共に終わったので全力で原因を洗い出す。
「········やはり、この魔術陣が邪魔を。」
「当然だ。この魔術陣は魔術、魔法を無効する。故に、君のそれを発動することは出来ない。」
原因は闘技場の魔術陣の効果にあった。つまりこれは防犯迎撃用の魔術陣だったのだ。
ラジェストスは当然としてレティシアもこの場では侵入者と大差ない。魔術陣に掛かるのも必然だ。
(明らかに魔術陣の起動が遅かったですが···この男が何かしたのでしょうか。)
全て知っているかのように雰囲気を出しているので疑う。しかし、思考のほとんどを問題の回避に費やす。
(今すぐ撤退を、それでは間に合わない可能性が魔術陣の解除を、時間が足りません。)
この
「あなた、魔術陣に何かしましたか?」
問いかけるとラジェストスは意外そうな顔してレティシアを見る。
「ほう?気付いたか。ああ、した。だがもう時間切れだ。」
「······そうですね。」
その問いに是と答えたラジェストスを目を細めて睨むレティシア。その顔に微笑みはなく無表情だが元の美しさは一寸も変わらずそこにあった。
魔術陣はあと数秒とせず発動することを理解している二人、だがどちらも動かず時を待つ。
「では、さらばだ。魔術師」
「ええ、さようなら、侵入者」
光はかろうじて見えていたラジェストスを隠し消える。それを冷やかな目で見送ったレティシアは天井を見る。
来たときの空は蒼く、これぞ空!と言える色をしていたのだが、今は赤黒い血を塗りたくったような汚ならしく怖気が走るものへと変わっていた。
―――どろり
赤黒い空がゆっくりと、粘つくように溶けていく。
「あ、あ~そう来ますか。厄介どころか本気で殺しに来てますね。」
だいたい察しのついたレティシアは素早く来た道を戻ろうとしたが階段を降りた先は何もなく、奈落への道と化していた。
「これは、もう仕方ないですね。」
諦めて今一度空を眺める。
―――どろり、べちゃ、どろり、べちゃ
空から“赤”が落ちてくる。
それは赤き蝋、灯せば燃える火の配下。
それは赤き牢、罪人を封じる正義の砦。
空に塗りたくられた赤は役目を終えて溶けてゆく。
―――破滅が、落ちる。
べちゃり!
着地は血で不快な音を立てる。
人に似た肉体構造、その身体に皮膚はなく、赤い筋肉や血脈、神経を覗くことが出来た。
「sdwdf!!!??.?!.??!?.wfr!?f.dvfdr!?」
「随分と、悪趣味な化け物が来ましたね。」
ビクビクと血を撒き散らしながらのたうち回る【肉塊】を汚い物を見る目で観察するレティシア。
「drdfd?.....dedfrgtgyhujiki!?!?!?」
その視線を感じたのだろうか。【肉塊】はレティシアを見詰め、叫び声を上げながら四足歩行で迫ってくる。敵の見た目と相まって酷く気味が悪い。
レティシアはひとまず魔術を構築しようとするが阻害される。これは一様の確認だったのでショックはない。
続いて《身体強化》を発動する。
(なるほど、記述式魔術は問題なく使えると。ならばこれは魔術自体を阻害するのではなく、構築段階を阻害するわけですね。······はぁ、こんなことならもっと記述式を刻んでおくべきでした。)
レティシアは後ろに跳び相手の様子を窺う。それを【肉塊】は身体をくねらせながら追いかける。
死の鬼ごっこの始まりだ。
追い縋る【肉塊】と逃げるレティシア。ここだけとれば男女の縺れに聞こえなくもないが、残念ながらそんな生易しい事態ではない。
(う~ん、何も起きませんね。厄介な『変覚』を持っていると思ったのですが···。)
『変覚』は全ての生物に起こる可能性のある現象だ。しかし起こる変化はそれぞれ違う。
『変覚』が起こることで生物はさまざまな能力を持つことになる。
例えば、身体が強くなる。目を開けなくとも景色が見える。魔法が使いやすくなる、等々ほかにもたくさんある。
そして重要なのは魔物は産まれる瞬間から『変覚』を持っているが、人は何かの条件を満たさなければ起こることはない。
事実、レティシアに『変覚』は起きていないのだから。
「埒があきませんね。取り敢えず片手を捥いでみましょう。」
状況を変える為、レティシアは短剣を手に【肉塊】に向かう。
【肉塊】が手を振りかぶりレティシアに振り下ろす。それを避けると同時に、レティシアは振り下ろしてきた手に掬い上げるように短剣で斬る。
「swdd,?vf...?!!ederd4!.!vg!?!?」
斬り跳ばされた腕の痛みに【肉塊】は叫ぶ。それを観ながら変化がないかを確かめる。斬られた傷をそのまま相手に返す『変覚』もあるのだから。
「異常はなし、ですか。」
解せない。
あれは確実に魔物だ。そして殺戮に置かれていた存在だ。ここまで弱いわけがない。
そうレティシアが思うが、なにも起きない。
そして徐々に弱って動きが鈍くなる【肉塊】を見て次を警戒する。
弱いなら数を、よくあることだ。
―――――突如、膝をつく。
「······え?」
レティシアは自身が膝をついたことが理解できなかった。そして意識が現状に追い付くとここに来て初めて顔をしかめ、口元を押さえる。
原因は一目瞭然で【肉塊】だろう。
(···血、ですね。おそらく状態異常系の『変覚』持ちで、撒き散らした血を気化させ吸わせるのでしょう。······私にも効くとなると相当の効き目のはずです。)
レティシアは自身に
《異常浄化》に魔力を注ぎ、身体を安定させる。
「·········あ~、これはキツいですねぇ。」
ふと、言ってしまう。
―――――べちゃ、べちゃ、べちゃ、べちゃ、べちゃ
五体の【肉塊】が落ちてきた。
(魔力がもてばいいのですが·····)
「ftfffgtdifwt!?vv???'vgrdfg」「yefuggdfyhhifgctc4xt6g?.!,??..5」「br7vreuxrgvjhvgzvbk!.?,?,,」「?gxgtv!h ??xyutgygcdhihrsswrf」「etfty xrc5v5.!??!.5f4d3drvuc4gh4f3weu!.?.!?!?」
レティシアは早々に【肉塊】を倒すことに決める。
「とっとと死んでください。」
再び戦いが始まった。
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