15話 『滅幻の洞穴』
「裂けなさい」
レティシアは両の手にある《斬風》を発動、不可視の風が核獣を襲う。
しかし野生の勘だろうか、核獣は横に飛ぶように移動し回避した。そのまま迂回しながらレティシアの向けて疾走する。
レティシアは《斬風》で牽制しながら元から刻んでいた
核獣は避けられないと判断したのか立ち止まり口の火の粉を荒ぶらせる。
その行動を見たレティシアは《砂城》を発動し、再び砂の壁を築いた。
再び、衝突
熱気と煙が舞い、視界を隠す。
レティシアはその間に《斬風》の補充をする。
だが核獣が隙を見逃すほど甘くはない。重力に逆らい、足音を最小限にして石の壁を伝う。レティシアを発見した核獣は壁を全力を踏み込み、敵対者へと飛び込み口を平らになるまで開く。噛みつける範囲を広くした理由は核獣の敵意と殺意を感じれば明らかだろう。
一直線に来る核獣を見るレティシアはふらりと身体を揺らし右手を隠すように半身の体勢をとる。その回りにはいつの間にか《斬風》は無くなっていた。
ついに核獣はレティシアの眼前まで近づいた。殺せると踏んだのだろう、殺意が最高潮にまで高まったのをレティシアは感じた。
そして、衝突
煙が漂う中、血の匂いが辺りをのさばる。
そこに立つのは、レティシアただ一人。
その手にはいつの間にか刃渡り15cmの短剣が握られていた。
魔術を全て解き、ふぅと淀んだ息をゆっくりと吐き、言う。
「甘いですよ?それでは、私を殺すには足りません。生まれ変わって出直してください。」
レティシアの後ろには縦に切断された核獣が血溜まりの中で死んでいた。
「やはり、暗器を持っていたのは正解でしたね。」
自らの持った短剣をしまいながらレティシアは呟いた。暗器と言うだけあり身体のラインが出る服装の何処にしまったのか一切わからなかった。
「武術の腕は鈍ってはいないようですね。·····多少鈍ったところで結果は変わらなかったでしょうが。」
レティシアは基本常に暗器を持ち歩いている。そして武器の扱いはそんじゃそこらの人間には負けない程の腕前をもっていた。
しかしレティシアも女性、核獣を縦に両断できる筋力など持ってはいない。なら《身体強化》を強めればどうかと思うだろうがそれは現在の状況では出来なかった。
今回、レティシアは筋肉痛が起きない程度に収めた、がそれを核獣を切れる程の強化をするとなると筋肉痛どころか肉離れするのは必至、最悪骨が折れる可能性もあった。
それに核獣を倒した後に他の誰かと戦う可能性を考慮していたレティシアからすると悪手にも程があることでしかなかった。
そこでレティシアは短剣に《斬風》を刃渡りが3mを超えるように纏わせた。
道具には一過性になってしまうが魔術を付与をする事が出来るのだ。
そして、あとはそのまま斬る、それだけで勝てる戦いだ。
それだけと言うが、レティシアの
「それにしても久々に核獣と戦いましたが、何故ここに居たのでしょうか?」
核獣は本来山や森、または
「······元から居た、はないでしょうね。もしそうならもっと苦戦したでしょうから。」
核獣の、というより魔物の強さは生きた時間に比例する。
話しは逸れるが世間的には核獣は魔物には含まれないとされている。
魔物とは体内に魔石を持つ生物の総称だ。つまり、核獣は魔石を持っていない。
幼いレティシアはそこに小さな違和感を持ち、一時核獣の研究をしたことがあった。
その時にわかったのは魔石が
その結果、レティシアは核獣は魔物の一種だと推測した。
そもそも核獣は魔石を持っていないだけでそれ以外は魔物と同じで生きた年数で強さが変わる。ただその原因までは解明されてはいない。これらがレティシアがそう思う理由の一つでもある訳だが。
閑話休題
今回倒した核獣は十年と生きていないだろうとレティシアは推測した。
さすがに何処かの穴から入ったなどはないだろうと考え、この思考に結論を出す。
「最初に入った者が置いていたのでしょうね。······目立つことはしたくなかったのですが、最初に吐かれた炎塊で気がついているでしょう。······さて、どうしましょう。」
本来はこそっと入り在るものを見たあとは帰るつもりだったが、さすがにもうそれは出来なくなった。ペットを殺したのだ、絶対に敵に認定されているだろうと想像する。
ならこのまま帰るとしてもここまで来た意味がない。
それに
「ここまで来て好奇心を抑えるのは、難しいですね。」
目の前に探し求めた魔法庫があるかもしれないのだ。多少の危険は仕方がない。
そう割り切り、進むことを決めた。
レティシアは門を覗く、変わらず中は真っ暗闇だ。普通なら松明などの灯りを灯すのだろうがレティシアは違った。
「《導眼》」
常に一定の明るさに見えるようになる
レティシアが昔からよく使う魔術の一つだ。
「不親切ですね。灯り程度、着けておいてほしいものです。」
闇がなくなった瞳で観察する。
この先も同じような通路が広がっていた。レティシアはこの門の直ぐにあるだろうと踏んでいたので少しだけ拍子抜けする。だが、ただ一つ、違っていたところがあった。
「全体的に結界が張られていますね。昔から張られていたのでしょうか。·······まぁ、そこはいいでしょう。」
結界が張られていたのだ。効果は防御と修復を中心で組まれているものだった。
「なるほど、だから門から先の通路には罅割れなどが起こっていないんですね。」
また、レティシアはゆっくりと先へ進み始めた。
□□□
歩き続けて数十分ほどだろうか、暗く何も見えない通路······その先から光が見えた。
「やっと灯りがある場に着きましたか。そこが到着点なら良いのですが。」
そろそろ歩くのにも飽きてきたレティシアはぽろりと希望を述べる。流石に約1時間も歩くと駄目らしい。
辿り着くとそこには、円形のステージがあった。それにレティシアは見覚えがあった。
「これは、闘技場の戦闘場?何故ここに···」
意味が不明だがひとまず調査から始める。辺り一帯には何もなくふわりとした綿毛を生やした植物が増殖していた。
それは見る人を魅了する幻想的な光景だが、やはり優先順位が低いのでさらりとスルーする。
レティシアは綿毛草原の間、石畳の上を歩き進んだところにある闘技場に上る為の階段を目指す。
途中、綿毛がふわふわ飛んで絡み付こうとし鬱陶しかったようだが我慢した。
階段を登ると、途端理解する。
「ふぅん、そういうことですか。
これは滅多に見られない物だとレティシアは思う。
「大変、興味深いです。」
「――だろう?」
瞬間、レティシアは
―――が、そこには人はいない。
(躱された?姿が見えません。幻影系の魔物もしくは幻覚を使える超常生物?可能性としては高いかもしれません。)
ぐるぐると思考を回転させ、相手の正体を推理する。
「嗚呼!そんなに殺意を撒かないでほしい。私は話がしたいだけだ。」
レティシアの思考が常人には誤差としか言いようのない時間の停止が起きた後、ゆっくりと後ろを振り返りながら言う。
「どなたですか?いきなり女性の後ろに立ち、話し掛ける非常識男は?」
「ふっ!酷い語り文句だ。だが丁度良い、名乗っておこうか!」
振り向いた先、そこには黒のコートを羽織る灰色髪の男が立っていた。
「私の名はラジェストス・バーナフラ!現在学院に侵入している組織『滅幻の洞穴』の頭領を!している。」
「なるほど······ではあなたが門前にいた気色悪い核獣の趣味の悪い主人ですね。」
「いかにも、それに気付くとは!」
「··········」
『滅幻の洞穴』頭領、ラジェストスの喋り方に早くも嫌気が差してくる。しかしここで話を止めても意味がないのでレティシアを会話を続行する。
「それで、何をしに学院に来たのです?お帰りはあちらですよ?」
「それは、ここにいる君が!一番わかっているだろう?」
「·············魔法庫にある魔法、ですか。」
「その通りだ!魔法庫にある魔法、世界を破壊せしめる禁断の!···魔法。」
どこか劇の台詞回しに似てきているような気がしたレティシアは、ああ、こいつナルシストだ。と結論付け早々にラジェストスの態度に見切りを付けた。
「で?そんなもので一体なにがしたいんです?たいして面白そうな話ではなさそうですが。」
「うむ、よくぞ聞いてくれた!これは確か数十年前「あ、長くなりそうならいいです。」·······」
「まぁ、簡潔に答えてくれるならいいですよ?ほら、簡潔にどうぞ?過程に起こった出来事とかいらないので。」
「·········ふっ、これが強者の孤独、と言うものか。」
「いえ、それは無視された傷心の心情だとおもいます。」
「君、先程から失礼だな。」
「はて?なんのことかわかりかねます。」
何故か徹底してラジェストスを貶していくレティシア。ちなみに特に意図があるわけではない。
(さて、どうしましょう。)
これからの行動を悩む。
(話を聞いたのだから逃がしてくれる可能性は低いですし、【黒布】と同じ雰囲気を感じますので転移を使えばその瞬間殺されるでしょうね。······なるほど、これが詰んでいるという状況ですか。)
逃げたくとも逃げれない。
戦っても勝てない。
まさに詰み。
(交渉、も無理でしょうね。この男からはフーヴェルと同じ匂いを感じます。······ん?ああ、この男がフーヴェルを作ったんですね)
ならばと他の手段を模索するがどうも良い手とは言えない。······しかし思考が逸れる程度にはレティシアも余裕を持っているが。
「うむ、まあそれはいい。そう、いいのだ。此処へ来た理由、そう問うたな?」
「えぇ、そうですね。」
ラジェストスはレティシアに向けていた目を横に逸らす。
何故そちらを向くのかと思ったレティシアだが視線は固定し続ける。
「君は世界をどう思う?」
「······どう、思う、とは?」
突如の問いに何を聞いているのかわからず問い返す。
「―――遥か昔、人という種族が窮されていた時代だ。救いの天使が現れ、魔法を授けた。君も知っているだろう?」
「···誰もが教えられる歴史ですのでその程度は。」
「だが、おかしいとは思わないか?何故天使が人だけを助けようとした?他の超常生物もその頃は窮されていた種族の方が多かったというのに。」
「·······」
それはレティシアも考えたことがあった。
不思議だったのだ。遥か昔、確かに人の数は今と比べるのが烏滸がましいほどに減っていたとされる。
だが、それ以上に減少していた種族たちもいたはずなのだ。事実その時代で絶滅した種族は10を超えていると言われていた。
だから、思う。天使は何故人を救ったのか、と。
「故に私は探り、そして見つけたのだ。」
「見つけた?何をです。」
ラジェストスは逸らしていた目を向けた。それを見たレティシアは警戒心をさらに強める。
――瞳を血走らせ、怒りに染まるラジェストス
「―――天使は世界の害悪という事実をだよ。」
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