14話 核獣
目を開けると、そこは見えたもの、それは
·················石壁だった。
「·············」
その無言はここにいない
ぐるりと、辺りを見回す。
今いる場所は全体的に石造りの壁、床、天井だ。床には先程起動させた転移魔術陣が直接彫られていて、レティシアから見て右に真っ直ぐな通路があった。
「······ふぅ、ここは造られて相当な年月が経っていますね。カビなどはないですが罅割れが激しい。」
何を溜め込んでいたのかわからない溜め息を吐き、この場の考察に入る。
「ここが、魔法庫の可能性が高いですね。喜ばしいことです。」
先程までより、少し大きな微笑を張り付けながら言う。実際に喜んではいるのだがほとんどが顔どころか態度にすら出ていなかった。
「さて、では行きましょう。面白いものがあればよいのですが···。」
ゆっくりとレティシアは通路を歩き始めた。
□□□
丁度20mの幅のある通路を歩き続けた先には大きな門があった。それはあまりに武骨であり、趣があり、そして一種の芸術だったろう。だがレティシアは特に何も思わない。
(なんでこんなにでかいんでしょう?小さくても頑丈ならいいでしょうに。)
別にレティシアは芸術が理解できない訳じゃない。感動もするし尊敬もする···が、その感情がレティシアにとって優先順位が低いだけだ。
ひとまず疑問を置いて門に手を添える。しかしびくともしない。
「やはり、開きませんね。想定内です。」
だが困ってはいない。
ここの開け方に心当たりがあるからだ。
手を添えたまま唱える。
「
文字化出来ない言葉をレティシアは発した。
昔見た文献、そこに書いてあった言葉、そこにはこう書いてあった。
『真理を求めるな。求めたところで手に入るものではない。』
この一文を研究者たちは“真理は一握りの天才の手に”と解釈したがレティシアは違った。真理とは己の中に、そう唱えた。だからこそ魔術を作ることができたのだろう。
そしてそれは間違いではなかったらしい。
ゆっくりと、門が開こうとする。
ほんの少しの隙間、そこから漂う微かな異臭にレティシアは目を細める。
警戒を最大に門が開き切るのを待つ。
耳に、唸り声が微かながらに聴こえた。重なりあうような異音が確かに。
その声を知っているレティシアは複数の《斬風》を構築、待機させた。
それと同時、門が開き切る。
空気が門に吸い込まれる。閉じられた場所でよくある現象だ。だがそれとは明らかに違う空気の流れがあった。
それに気付いたレティシアは別の魔術の構築を開始した。
熱気が、上がる。
太陽に当たらない涼しげだった通路の温度が急上昇した。
暑さを感じながら魔術を完成させ、発動。
「《崩球》《砂城》」
《崩球》を前十数m先の床に投射する。
落ちた瞬間、その場一帯が砂の世界と化した。それと同時、レティシアと門の間の砂が隆起し出す。
その様子を見ることはなく、レティシアは門から目を剃らすことはない。
じわりと汗が浮かぶ。
温度が再び上昇したからだ。
暗い門の奥に、灯りが点滅する。赤い火の粉がどこからか吹き出していた。
途端、巨大な炎塊が現れる。
「これだから嫌いなんです。」
呟きながらも何もせず、炎塊が迫るのを眺める。
だが眺める時間も終わる。砂が壁を築いたからだ。
厚さ2m、縦横8mという巨大な壁がレティシアを守護する。
衝突音が通路に轟いた。
熱気が拡散し辺りに煙が吹き付ける。それに構わずレティシアは視界を塞ぐ砂の壁を消す。
「早く出てきなさい、犬···足りない躾の時間です。」
悠然とした態度、微笑を張り付け門の奥に潜む敵を挑発する。
理解したわけではないだろう。だが辺りの緊迫感は増し、暗闇からその姿を煙を切り裂きながら見せる。
黒い毛並み、太くしなやかな四肢、触れるだけで裂けるだろうと思わせる不規則に敷き詰められた牙、そして充血し紅く染まった1つ目を持つ獣
「来ましたね、核獣」
全長2mの核獣は吠える。重なりあうような耳障りな異音が高々に響いた。
空気は震え、石造りの通路に更なるダメージを与えた。
「······はぁ、すぐに終わらせた方が良さそうですね。」
展開してある中の魔術陣を両手で一つずつ構えるレティシア。
体勢を低くし口から火の粉を吐く核獣。
両者の殺意がぶつかり合う。
「では、始めましょう」
レティシアと核獣の戦闘が始まった。
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