11話 構築方式




「今までの不可解の全てが布石だったんでしょうね。」



 状況の整理の為にふと、口ずさむ。


 今は丁度お昼を過ぎた時間帯。


 レティシアは図書館に向かってのんびりと歩いていた。

 本来ならカルナの身の安全の為に多少の無理をしてでも向かいたいのだが、とある理由で止めることにしたていた。



「···まぁ、この件は後にしましょう。」



 物事の先送りはあまり好きではないレティシアだが、やはり順序と言うものがある。



「見たところ学院の外には出れなくなっていました。当然ですが侵入者は相当な用意をしてきていますね。···一級魔石を使った結界ですか。」



 外―――詳しくは学院を囲っている壁とその外側にある大きな水路の境に結界が張られていた。最初レティシアはこの結界を半円形と思い――気圧を操り、鋭い刃になるまで押し込み射出する魔術――《斬風》を応用した。

 方法は小難しく、空気を回転させながら地面で瞬間的に肥大化させる。そうするとまるでドリルで削り取ったかのように掘れるのだ。


 だが結果は思い通りに実ることはなく地表から十m先に結界があった。


 だが、そのには違和感があった。



「上にある結界よりも明らかに下に敷かれている結界の方が強いんですよねぇ。」



 レティシアの言う通り、魔石を使った結界を勉強または研究しているものなら一目でわかる程に強弱があった。



「やっぱり、下に何かあるみたいですね。」



 当然、何かあると疑う。


 そもそも学院の下に何かあることは学院に入学して三日目で気付いていた。しかし入り口が全く見つからなかったのだ。


 学院は立ち入り禁止されている区画などほとんどない。その数少ない禁止区域にさえ平然と入り、探索していたレティシアだがそれでも駄目だった。



「先に見つけられるとこう、少々悔しいですね。」



 学院に来て五年あっても発見できなかった事実は大分前からだがレティシアの自信をガリガリと削っていた。

 それが他者に先に発見されてしまったと思うと、削るどころか砕いて臼の擦られて粉になったまま微風に吹き飛んでしまう勢いに感じてい―――はしないが、大体そんなマイナスなことを考えてしまう程度には来るものがあったらしい。その証拠にいつもより元気がないように見える。ただやはり気付くのは決まった人たちだけだが。



「やはり図書館に入り口がある」



 断定形で言ったのには理由がある。


 そもそも侵入者はレティシアがいた教塔以外に立ち入ってなどいなかった。これは学院中に置いてあるで調べたので間違いない。

 ならば何故その教塔だけを狙われてしまったのかレティシアは考え、結論をつけた。


――教塔に入り口を開く鍵的なものがあった。


 確実とは言えないが大体そんなものとあたりをつけた。


 地形として図書館に最も近い建物がレティシアにいた教塔なので気紛れに襲った。そう言われてもレティシアは完全には否定できない。また殺害が何かに必要な事柄だったのかもしれない。

 だが、そこまで考えると埒があかない。

だからこそ、そこそこ現実的な落とし所に当てはめたのだ。···単に面倒だったとも言える。



「けれど、この先に侵入者がいないと言う保証もありません。」



 今向かっているのは侵入者が居りそうな場所、一位(レティシア脳内順位)だ。少なくない戦力がいたとしてもなんら不思議ではない。



(【黒布】の様な者が一人といたら終わりですけれど、ね。)



 レティシアは今の段階では【黒布】には勝てないと明確に断じた。意味の無い誇りと目の前の事実を対当とは思わないのがレティシアだ。



「けれど、何もしなくても危険です。いや、していない方が危険、と言った方がいいでしょう。」



 昔、レティシアは隠れた魔法庫に何があるのか気になりそれなりの予測を立てていた。


 結果としてわかったのは調べた時間に比べ、あまりに少ないものだったが···。


 なら何故、図書館に向かっているのか。



「中身の無い宝箱を開けても何の面白味もありませんしね。」



 ただのレティシアの好奇心、それだけだった。










 図書館による前に寄り道をしたが、とにかく見える場所にまできた。


 回りには人影は見えず、罠の気配もしない。怪しいほどになにもなかった。



「···舐められているのでしょうか?」



 色々と対策を考えていたレティシアとしては、”お前程度に何かすると思ってんの?“、と煽られているようにしか見えなかった。

 ただの妄想かもしれないが、そんな意図が少しでもあると思うと気にせずにはいられない。



「ま、まぁ私には都合が良いので構わないですけれど···」



 だからか、堂々と真正面からレティシアは図書館へと入っていった。




□□□




 入ってすぐ、レティシアは驚愕に固まった。


 本来なら入り口直ぐのエントランスには右手側に受付があり、左手側には案内掲示板や警備のおじさんが立っていたりしていたはずである。


 だがそんな文明感は一切無くなっていた。



「······森?」



 辺り一帯見渡す限り、木々しかなかった。


 まるで扉を道と森の境に置いただけに感じてしまったレティシアが三往復も扉の開閉を繰り返したのは内緒だ。


 それから直ぐ、正気に戻ったレティシアはこの現象の考察を吟味した。


 すでにレティシアの冷静な部分が考察を終えていたのだ。



「······これが図書館の本来の姿なのか、侵入者の能力なのか······それは分かりませんがこの中から探さないといけないみたいですね。」



 どちらにしてもここに何かあるのはこれを見て明らかだ。

 しかも現在分かっていることは下に向かう道がある、と言うことだけであり、この広大そうな森を一人で探すのは骨が折れる。



「······先に魔術制作から始めましょう。」



 探索または地形把握などの魔術はレティシアは今まで何度も作ろうとしていたが、その度々で、色んなことが起こり過ぎて先延ばしになっていたのだ。


 探索はともかく地形把握の魔術の基盤は昔からの積み重ねでほとんど出来ている。あと必要なのは魔術陣の構築方式の選択である。

 レティシアが考える魔術の魔術陣の構築方式には二種類ある。

 1つ目は立体型と呼ばれる方式で主に戦闘用として認識されている。

 二つ目は記述型と呼ばれる方式でこれは補助としての役割が大きい。


 今回の地形把握は完全に補助枠に入るので記述型を採用した。



「あまり危険な場所では使いたくないのですが······仕方ないですね」



 少しの不安を抱えながら呟く。

 そもそも記述型は肉体そのものに書き込むので危険を伴ってしまう。ただし失敗しれば、と付くが。



「では、始めましょう。」


 レティシアは肉体に魔術陣を書き込む準備を済ませた。

 肉体と言っても人には物質的肉体と精神的肉体の二つが存在している。

 物質的肉体は粒子で構成された肉体のことで、精神的肉体は大部分を魔力で構成された肉体のことだ。


 記述型は精神的肉体に直接書き込み、瞬間的に魔術を発動できるようにと改良された構築が主としている。

 さらに詳しく言うと精神的肉体の中にレティシアの意識を落とし、情報の集合体――魔力遺伝子に歪みが出ないように書き込んでいく。

 そうすることで魔力遺伝子の影響を大きく受けている魔力回路と呼ばれる魔法・魔術を構築、展開する器官のごく一部がその魔術を発動する為だけの回路へと変化する。


 つまり特定の魔術専門の魔力回路を作る、それが記述型魔方陣の使い方だ。



 焦らず慎重に、けれど素早く精密に自らの内側に干渉し書いてゆく。記述型を自身に使っている時は無防備なので手早くしなければいけない。



「ふぅ、これで少ししたら使えるようになるはずです」



 作業が終わった。


 これで魔力遺伝子がその状態で固まり、魔力回路はそれに修正され専用の魔力回路へと変わるだろう。

 ただ、この過程が終了するまで少し時間が必要なので、レティシアは次へと行動を考える。



「魔力回路が出来上がっていない状態で移動しても先ほどと変わりませんし、······そうですね、ここの木々などを調べておきましょう。普通とは違っていたりしているかもしれませんし。」



 なにもしないよりかはと、暇潰し好奇心に流させる一通りの理由を語り、思う存分調査を楽しんだ。








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