8話 気付かない方が良いこともある
1ヶ月が立ったある日。
レティシアとカルナは学院にあるさまざまな情報が見れる学院掲示板の前を通った。
そこにはいつもとは比べ物にならないほどに大量の生徒であふれかえっていた。
「ん~?なにあれ?」
「さあ?なんでしょう。」
たいして掲示板など興味がなく、人混みが隙ではない二人はそこから通りすぎようとした。
――ああ、あの事件解決したんだ――
何処からともなくそんな声が聴こえてくるまでは。
レティシアはそこでぴたりと動きを止めた。
(解決?······見ておいた方がいいですね。)
「ごめんなさい、カルナ。少し見てきます。」
「え? う、うん。それはいいんだけど···」
掲示板を見たいなどと言ったことがなかったからか、カルナは少し不思議そうな顔をしながらレティシアを送り出した。
レティシアが掲示板まで歩いているとそれを視た他生徒達はすぐさま道を譲るように動いた。
ちなみにレティシアは特に何もしていない。ただ日々積み重ねていた生徒達のレティシアへの印象が自然そうさせたのだ。罪深いのかそうでないのか議論の余地もありそうだ。
掲示板の目の前まで来たレティシアは貼り出されている中でも一際でかい紙を見たレティシアは本当に、本当に僅か、目を見開いた。
そこにはこう書かれていた。
“先日、国立ジクニア王国学院で起きた侵入事件は実行犯による単独と判明。これ以上の調査は不必要と断定し聖騎士団を撤退を報告します。”
「···は?」
意味がわからなかった。
レティシアの、いや、大抵の頭の回る人ならばこの事件が明らかに複数もしくは黒幕がいることに気が付いているだろう。
それが聖騎士にはわかっていないとはレティシアには思えなかった。
そしてすぐ努めて、無表情を作る。
元から無表情気味のレティシアだったが、それでも意識して表情を作らなければいけなかった。
(これは、不味い)
内心、とても焦っている――が、レティシアが脳裏に作り出した機械的に思考するレティシアの意思とは離れた部分が状況の分析を始めた。
(一、今回の事件は黒幕がいます。そして何故だかわかりませんが他者にその事を知られても問題ないと考えている思考痕跡があると推測します。)
(二、相手の狙いは魔法庫にある魔法である可能性が有力です。または私が知らない秘密がある、か。)
(三、聖騎士はそこことに気づいていて、そしてなお放置しているそう考えるのが自然である。)
(今回の事件は他者に知られても問題はなく、魔法庫または何かの秘密を知り、それに加担して、聖騎士が放置している可能性が高い)
(以上に従い、結論。黒幕は聖騎士かその上層部、もしくはその協力関係にある組織。)
そう、これがレティシアが不味いと思った理由だ。
協力者がそこらの中小組織ならば、レティシアも特に気にしなかっただろう。だが国が関わっているとなると話しは変わってくる。
この学院の生徒等が、民衆が頼りにしている存在が敵になるのだ。流石のレティシアも笑えない。
(おそらくですがこの貼り紙も罠の一環でしょう。)
事件の深いところを理解している者等は高確率で動揺を露にするのだろう。それをこの場の、何処かにいる監視が生殺与奪を判別する。
レティシアはそう考えた。
ようはレティシアはまんまと罠の真ん中に誘き寄せられたのだ。
今ここで、レティシアは自分の未熟を歯噛みしたい気分だった。
(·······そこらにいるゴロツキ程度になら負けない自信はありますが、それが何百ともなる騎士に、いるであろう暗殺者などの隠密·········絶対勝てませんね)
国が敵に回るとはそう言うことだ。
国とは人の集合体。
一定の信仰を受けるもの、つまりは王族が指針となり動いていく。
(確か、隠密などの諜報部員は王族の命がなければ動かない、でしたか········聖騎士の上層部、その頂点は第二王子·······)
レティシアは気配察知に関しては人一倍できる自負がある。そのレティシアがうっすらとしか認識できない、ということはその道を専門としている人であろうことはほぼ確実だ。
(この件に王族が関わっていることを前提とすると······はぁ)
国としての指針はもう定まっているだろう。
ちっぽけな『個』は巨大な『全』には勝てないのだ。
(今はどうもできませんね。なるべく早くにこの国から逃げる準備をしないと。)
無表情に焦りと
掲示板を見てから去るまでのレティシアがいた時間はわずかの五秒。
これをどうとるかは監視次第だろう。
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