7話 魔石階級
一週間後
レティシアはもう一度図書館に訪れ異常付属本の前までやってきた。本当なら訪れた翌日に来たかったがカルナに止められた。
「魔力が消えている?」
もうあの本は魔力を纏ってはいなかった。
本を開き、読み直し、魔力を込め、床に叩きつけてもうんともすんともいわない。レティシアは諦め、図書館を出る。
「消えた原因は私が読んだからでしょうか。それともあのあとに誰かが読み本自体をすり替えられたか、ですね。」
そのどれもに可能性があり、また謎が増えた。
「今考えてもわかりませんね。それよりも学院侵入の方の経過を調べに行きましょう。」
現在午後2時、まだまだ時間はある。
少なくとも今日、明日は早めに帰らねば両親に反省の色無しと判断されかねない。
レティシアは急ぎ足で学院に向かう。
死体を見た現場に来たが魔法結界により入れなかった。
魔法結界は魔道具の一種。
そもそも魔道具とは魔法発動時に起こる魔術陣を魔石と呼ばれる魔力が篭った石に直接刻み発動させる品物だ。
(これは四級の魔石を使った結界ですね。魔力量がとても多い。)
魔石の品質は中に篭った魔力量で決まり階級で表される。
階級は一級~十級で一級が一番多く、中の魔力をすべて攻撃に変換すると国ひとつが跡形もなくなくなる。一番下の十級は魔法が使えない、覚えていない人たちが私生活で使っている。篭った魔力は微々たるものでそこらの雑貨屋でも気軽に買える。
ちなみに三級、二級は国宝とされ、一級は封印対象となっている。
国を滅ぼすものは気軽にはおいておけないのは道理だ。
(私にもこれぐらいの魔力がほしい...)
そんなことを考えるレティシアの魔力量は大体五級魔石程度、人族の中ではずば抜けて高いにも関わらずそれ以上の魔力をレティシアは欲する。
過去、人でレティシア以上の魔力量を誇っていたのは学院創設者である『ブリス・ルヴァ・カルセナク』ただ一人。そんな人でも魔力量は四級魔石程度しかない。
(はぁ、これは私では破れませんね。出来てもしませんけど...)
この結界はこの都市にある治安軍である聖法騎士団が展開したもの。流石のレティシアも態々国に迷惑を掛けることはしない。それ以前に破ってしまったら牢獄行きだ。一度の好奇心で身の破滅は許容できかねる。
(経過を聞くだけなら事務室に行きましょう。あそこならそこそこの情報もちゃんと受けているはず。)
結界から離れ、事務室に向かう。
休日にも関わらず数多くの生徒が学院の通路を歩いている。通りすぎる時に見える教室を横目で見ると五~六人の生徒が何やら黒板に書き込み議論している。
部屋を通り過ぎ前を向くと突如殴り合いをしている生徒二人を見つける。
「てめぇ、それは違うっつってんだろうがよ!?」
「アアッ!!お前の言い方が悪いんだよ!」
どうやら何かあったらしい、だがそれを軽く無視して通り過ぎる。
あの程度の喧嘩などここではよくある程度で済むのだ。
あとで教員にしっかりとお仕置きを貰うのだが。
(皆さん頑張っているのですね)
ほんわりとした感想しか浮かんでこないレティシアは微笑ましげに歩みを軽くした。
「失礼、お聞きしたいことがあるのですが」
「はい?なんでしょう。ああ、あの時の」
事務室に着いたレティシアは早速情報収集を始めた。
出てくれたのは死体処理をしていたあの職員らしき男だ。
(まぁ、ほんとに職員だったんですね。あまりに血の匂いをさせていたので何か関わりがあるのではと思っていたのですが、...的が外れましたか。)
しれっと男を容疑者と考えていることを表情には出さず、「あのときはありがとうございます。」などといつも通りの微笑を張り付けながら言い、本題に入る。
「この間起こった男が学院に侵入した事件なんですが何か掴めましたか?」
「いや~、聖法騎士団の方から逐一状況の報告は受けてはいるけれど男の目的は不明で図書館の禁書目当てじゃないかって線で調査を進めているようだね。身元なんかもわからないらしくて直接この都市に入った人間じゃないみたいだ。」
レティシアは最後の言葉に疑問を覚え、問い返す。
「どういうことですか?」
「どういうと言われてもそのままの意味さ。それでね、聖法騎士団は誰かが手引きしたんじゃないかと睨んでいるみたいだ。その誰かまでは候補が見つからないようだけど。」
今いるこの都市【カルセナク】は直径20kmを越えるジクニア王国で一番大きな都市であり最も重要な場所である学院があるため都市への出入りなどは特に厳しい。
都市を囲っている壁は全長50m、幅13mといった鉄壁で空と地中には三級魔石を使った結界が張られいるとされており
(確かにそう考えることが自然です。ですが...)
「壁の調査はやっていないのですか?」
「そんな話しは聞かないね。やる必要がないと感じているんだろう。」
レティシアは原因の洗い出しにを怠る聖法騎士団に眉をしかめる。
ここ数十年で汚職が進んでいると噂されていたのは知っていたレティシアだがここまでとは思っていなかった。
(昔とはやはり違うのですね)
小さい頃に近所のおじさん方に聞いていた聖法騎士団との雲泥の差に諦観の念を覚えるレティシア。
(でも確かに可能性はずっと低い。それでもやっておくべきでしょう。)
内心ため息をつきながらこれからのことを考える。
(状況が変わりましたが私ひとりでは壁の調査など出来ませんし、出来ることは無さそうですね。それに···)
この男は怪しすぎる。
だがひとりでやれることなどないと結論付け、職員の男にお礼を言い帰った。
帰っていく『銀冷姫』レティシア・ネイアを見詰める職員の男。
「なんて小娘だ。」
常に微笑を浮かべこちらを観察するかのような無機質な瞳を浮かべる少女。あの目を見ているとどうしようもなく不安に刈られる。
人を人とも思っていないのではないか。
油断したら寝首を刈られてしまうのではないか、と。
(頭の回転は速く、勘も鋭い。そして知識が豊富でその上戦いも出来るときた。笑えないな。)
あまりに完璧な存在として成り立ってしまっているレティシアに口先がひきつる。
(あの娘には是非ともこちらに来てほしいものだ。)
「やはり、修正が必要かもしれん」
職員の男は計画の見直しをし始めた。
絶対の成功の為に。
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