1話 今朝
目が覚める、とは中々に面白い言葉だとレティシア・ネイアは考える。
その理由の最初に思うにその言葉の汎用性だ。
その言葉を意味するものはとても多い。様々な用途、状況に使われ続け、ほとんどの人達が知るに至っている古き善き言葉にまで昇華したのだ。
レティシアはその事に喝采をあげても良いと思う。
だが今日、私はこの言葉をこれほどまでに恨んだことはないのではないだろうか?
レティシアは無意識下で思考する。
今日この日まで他人に嫉妬されたことはあってもしたことのないレティシア。
そんな理不尽ですら恨んだことはないのだ。
と、まぁ何が言いたいのかと言うと
(···起きたくありません)
酷く眠い。ベットから、降りたくない。ほんとにそれだけのことに長々と思考を費やしていた。
だけれど私は悪くない、と。眠いのは人間という種の生態の所為であり、断じて、そう、断じて私が悪いのではない。気になる本を読んで夜更かしなんて、していない。····いや、ほんとですよ? と、レティシアは自業自得の眠気を種族の所為にしていた。完全な言い掛かりである。
「うっ、でも今日は確か······ぁぁっ」
レティシアは今日の日付を見るためにカレンダーの有る壁の方に首を動かそうとするが、とても重い。まるで鉛が付いているかのようだ。……これを理由に二度寝してもいいでしょうか。動かない為の言い訳に使えるのでは?なんて考えてしまう。
(ああ、やっぱり)
今日はとても重要な日だ。さすがに休む訳にはいかない。早く起きなければ。
そうして、重たい体を渋々起こした。
■■■
レティシアの家はそこそこ広く、レティシアとその両親の3人しか住んでいない、なので幾つもの空き部屋がある。
本来なら誰かに貸してしまう予定だったらしいがそれは無くなった。
レティシアの研究室になったからだ。
レティシアは小さな頃から魔法に多大な関心があり、いつも彼女の両親には魔法を見せるようせがみ、よく困らせた。
七歳の誕生日、レティシアの両親は彼女に魔法の本をくれた。彼女はそれは大層喜び、父に抱き付いた。本当に嬉しかったらしい。
(今思うとあの時貰った本に書かれた内容は余りに幼稚過ぎないでしょうか?)
少し前、当初貰った本をレティシアは読み返してみたが書いてあるのは基礎の基礎、昔は何故こんなものを楽しく読んでいたのか疑問である。
話が脱線した。と、このような経緯によってレティシアは魔法に興味を持ち、そして研究をするようになった。
だがやはり研究と言葉が付く位ですからどうしても場所を取る。両親はそれならば、とほとんどの部屋を彼女にくれた。今では家の六割がレティシアのものだ。
ならば、レティシアの研究室も自室と言えるのでは?
「バカなこと言うんじゃありません!!」
「はい、ごめんなさい」
今、レティシアは母親――ベレニス・ネイア――に叱られている。ここ一週間、自分の部屋で一度も寝なかったのが行けなかった様だ。
(……面倒でしたのに)
レティシアは内心、可愛らしく言い訳を述べるが口には出さない。話がこじれるのは目に見えている。彼女は必要の無い地雷は踏みにいかないのだ。
「はぁ、確か今日は試験の日でしたよね?大丈夫何ですか?」
「はい、そこは問題ないです」
あまりしつこく言っても直らないとでも思ったのか、ベレニスはため息をつきながら心配をする。伊達にレティシアの母をしていないのだ。扱いは手慣れていた。
「なら、早く朝食を食べて行きなさい。あなたは遅刻さえしなければ優等生なんですから。」
「はい」
(朝は、苦手です)
レティシアは朝が苦手であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます