第35話

「『唐紅』が........消えた?」

「『刀』にぶつかったよな?」

「じゃあ次の能力見せるぞー」

そう言うとくるりと向きを変えた。

新人2人はまだ頭の上にハテナをたっぷりと乗せているが、答える気はないらしい。


「ほれ、やるよ。起動吐き出せ『九字兼定』、『りん』」


ぼぅん!

と出てきたのは炎だった。


「おー?」

「今のは.....俺の?」

「その通り!やっぱ術を撃った本人には分かるんだねぇ」


得意気に、それはもうにこやかに笑う釧路。


「簡単に言えば、誰かが撃った魔法や術をそのまま『九字兼定』にストック出来るんだよ。そしてそのストックを好きに出すことが出来る。ただし、魔法をそのまま取り込んでるから自分で威力調整とかは出来ないけどね」


早い話がそういうこと。ちなみに撃った本人にとっては自分の魔力で編まれた魔法が自分が介在しない場所で発生するため凄まじい違和感を覚えるのだとか。

げんに今自分が撃った『唐紅』が突然消えて、また突然出現したのだ。元々は自分の魔力だけに敏感に感じられ、違和感どころか若干の混乱すらしている。


先の魔法の消失。とどのつまりは『唐紅』という魔法そのもの・・・・を吸収する行程だったのだ。



見方を変えれば、魔法に対する絶対防御だ。



もし、これを使えるならば魔法を事前に取り込んでおけば牽制や足留めの必要がなくなり、戦闘は凄まじく効率的になる。


「ちなみに吸収できる限界は9発ね。だから『九字・・兼定』なのさ」



符術使いの少年は考える。これを本当に使えるならば、依頼での安全度は上がる、と。


大剣使いの少年は考える。本当にこれを使っていいのかと。狩人の連盟ハンター・レギオンでも『刀』を配備され使える者は少ない。自分がそのひとりになれるのか、と。


新人2人の意見は『使いたい』という点で揃った。若干、野心に駆られた思いもあるが、見せられた能力は自分たちにとって凄まじく有用だ。


「どう?使ってくれるかい?報酬としては、そうだなぁ。それを使って名を上げたら俺のことをレギオンに紹介してお抱えにでもしてもらおうかな」


新人2人は『そんなことでいいのか』と頷いた。

ニヤリと笑う釧路には気付かぬまま。

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