第33話

「起動せよ、『蜘蛛切り』」

.........。


「む?起動せよ、『蜘蛛切り』」

...................。



『刀』を起動抜刀するためにはいくつか条件がある。

その条件を省いたのが音声と魔力気・念などによる個人認証だ。


『小烏丸』の場合、

①空気が一定量ある。

②使用の直前まで握りの中にある霊石と触媒の大鷲烏の尾羽に十分な魔力が込められている。

③間合い(半径5メートル以内)に敵性魔力があり、敵性魔力を本体で受ける。


以上が通常起動の条件だ。個人認証による起動は負荷が大きいため手早くこれらの条件を満たし通常起動状態に移行することが推奨されている。



『蜘蛛切り』は条件などは一切説明されていない。音声や魔力で起動出来ないならば、通常起動しなくてはならないのだが....。


「込める量が足らないか、他の条件があるか、か」

しかし、説明されていないことをやれと言われても無理な話。


もうひとつの『遺跡の怪物を相手に』という言葉に従ってみることにする。

(もしや、既に起動状態なのでは....)





「符術『唐紅』!」

「『破岩』!!」

燃え盛る炎と岩を砕く剣撃の光。


片や狩人には珍しい術師であり、片や大剣を持つ少年だった。

狩人の中にも術師と呼ばれる魔法使いは存在する。しかし魔法使いの性質と言うべきか『好奇心』に駆られることが多く、そのほとんどはより多くを知ることが出来る探求者シーカーになってしまうのではあるが。


炎が消えると大剣に斬られた怪物が事切れていることが確認できた。

泥人形マッドマンと呼ばれる怪物で泥に魔力が混ざることで生まれる下級の怪物だ。



泥人形の体を作るのは魔力を帯びた魔力であり、稀に長く溜め込んだ魔力を結晶化させている個体もいる。

魔力を含んだ泥は錬金術の触媒や建材、日用品の素材などに広く使われている。



「これでいくつめ?」

「麻袋に2つ分。それと核を持ってたのが3体。この辺で切り上げるか」

「流石にこれ以上は重いしな」


まだ新人らしき2人組。今日の戦果を確認していると、背後から影が近付いてきた。



「やぁ、そこの少年たち。いい腕をしているね。どうだろう?『刀』を使ってみたくないかい?」


影....のように黒い外套の青年がにこやかに話しかけた。

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