第16話

一つ目狼とは群を作る。

その群とは階級化された実力社会であると同時に、いやそれ以上に『家族』という意味をもつ。


下級の狼は上級の狼に決して逆らわない。

かつ、上級の狼は下級の狼や怪我や幼さといった理由で戦えないものたちを守ろうとする。


雑用を含む狩りや見回りは下級に。

本当に危険を伴う戦いは上級が。



これが一つ目狼の社会である。




ローブを着た人物が手をかざすと警戒していた狼が次々に倒れていった。

それにより群のリーダーたる一つ目狼が敵を排除せんと立ち向かう。


逃げることは出来ない。

なせならば、もとのナワバリを離れてでも探さなければならない物をその敵が持っているからだ。



なんとしても宝物は取り戻す。仇もとる。


ーーーーーーーー


ローブの人物が片手に水晶玉らしき物をもち、反対の手を狼どもにかざした。

するとどうだ。


一つ目狼が何匹と倒れていくじゃないか。


隠密性を高めた攻撃手段なのか、水晶玉や身に着けている霊装の効果なのか。



わからない。

が、体が、動いた。

心も揺れた。

知らず、意識もせず、口は動いた。


「火の精霊達よ!刃に集い、その真意を示せ!灼熱の光と劫火により消し示せ!『火刃の軍勢』!」

通常であれば考えられないほどの命令形による詠唱。ただし、それによる効果は絶大だった。

赤熱化した刃を地面に刺すと地面から火でできた刃が生えた。それこそ木が乱立するかのように、ローブの人物へ向かっていく。


ゆらり、ゆらりとローブを翻しながら火の樹林から逃れる。

が、そこには大斧を掲げるディガーがいた。


ごぉん!

「!!!」

斧の腹を拳で叩き、ローブ目掛けて爆裂の勢いで振り下ろした。

ざばっっ!


砂地故に地面を割ることはなかったものの、ローブを砂に埋もれさせた。

しかし、すぐに敵も砂から離脱した。


次の瞬間。

どごぉぉぉぉ!!


くぐもった音をさせつつ火柱が上がった。


火柱は高さも、爆風の威力も凄まじかった!

避けきれず、火柱にのまれ、爆風ではじき出されるローブの人物。ローブは焦げ、ボロボロになりつつあった。



「地の精霊達よ!野を駆けその手に無法者を捉えよ!『地走り』!」

地を這う高速の蛇がローブに襲いかかり、身体を拘束しようとした。


しかし、ローブを脱ぎ捨て抜け出すと3人に対峙するように降り立った。



それは男だった。

特徴らしきもののない、長身の男。


ただし、まとう気配は異常という表現でも生温い。



ディルは意識の半分を精霊に明け渡しながら、口を開いた。

「コノ世カラ   消エロ」


赤熱を帯びた探検を振るい火の魔力を刃の形で射出。込められた魔力は牽制などでは無く致死の威力があった。


『赤猿』の異名など全く関係ない、ただ力を垂れ流しにしていた。

事実、ディルは意識はあっても身体の自由すら精霊達に乗っ取られていた。



精霊達にとって、目の前の人間は消さなくてはならなかった。そう感じた。



しかし、精霊という肉体を持たない存在が手練れではあっても人間の肉体でその力を振るい続けるのは無理があった。


「がぁ!?」

血を吐いて倒れるディル。


異様な男はニヤリと口元を歪めると持ち続けていた水晶玉を掲げた。



兄を守ろうとディガーが男の背後から斧を振り下ろした。

それを読んでいたかのようにかわすと、ディガーの顔の前に水晶玉を、正確には水晶玉内部の光を見せた。


それだけで、力尽きたように膝から崩れ落ちてしまった。



「ちょっ!地の精霊達よ!赤き髪の友を守りたまえ!『守護の殻』!」


「闇の炎よ。呑み込め」


本来ならば仲間を守る壁を作るはずだった魔法は発動せず、詠唱ともとれない言葉で男の持つ水晶玉の光が強まった。



「なんだよ、それ?それでディガーはやられたのか!」

激昂し、腰に仕込んでいた短槍を手に間合いをつめた。



ぬるり、といつの間にか間近に来ていた男。

エイジャスが最後に感じたのは自分の頭部に打撃を受けた衝撃と男の声。

「闇の炎よ。喰らい尽くせ」




そうして一つ目狼の群と異名持ちの探求者3人の戦いは終わったのだった。

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