第1話

「お、霊石じゃん」

ぼんやりとした淡く光る石がそこかしこにえる洞窟で透き通った水晶状の鉱石を発見した。色々と使い道があるので買いたたかれることもなく、自分用にもいくつか欲しいのだけど・・・。

「・・・また微妙な」

それほどの量は出なかった。まぁ見つけただけでもラッキーだ。

「こんな浅い所でも霊石が出るようになったか、たまたまか。そこらへんは要調査かな」

そう言って立ち上がり、改めて周囲を見渡して耳をすます。聞こえてくるのはまず自分の心臓の音。そして遠くから足音や話し声、金属を叩きつける音。さらに呻き声や絶叫らしき大声。

それらのどれもが洞窟の中を反響している。

辺りは薄暗く、足下は見えても10歩先はほとんど見えない。


意識を研ぎ澄ます。周囲は安全そうなので目を閉じて、より小さな声も息づかいにも集中する。

                        

通路を進んだ先に、わずかな息づかい。


待ち伏せているのは人か怪物か。音をたてずに杖を先に伸ばし魔力を高める。

「風の精霊たちよ。きらめく矢を杖の先に。『雷精の矢』」

ヂッ!

ギイィィ!!


一瞬あたりに光が迸る。

次いでドサッと重い音。

更に漂う焦げたにおい。


「鱗蜥蜴・・・の亜種っぽいな。とりあえず、確保~と。風の精霊たちよ。渦巻く槍を杖の先に。『風の刺突』」

ざしゅ!と固い肉を杖で刺し貫いてとどめをさす。

「空の精霊たちよ。命なきものを檻の中へ。『無音の狭間』」

杖の先を地面に触れると怪物の体が落ちた。

空気にはわずかに焦げたような臭いが残ったが、それだけだ。自分よりも大きく重かったであろう怪物の体は消えてしまった。


「おーい!そこのにぃさん!この辺ででっかいトカゲ見ぃひんかった?ちょっと荷物をぱくられて困ってんのや」

髪を首の後ろでしばった男が声をかけてきた。


「わし、探索者サーチャーやってん。あんさん、見た目探求者シーカーっぽいやん。この辺ウロウロしてたんなら知らんか?青くてでっかいトカゲ」


「トカゲなら今し方一匹仕留めましけど、お探しの個体かはわかりませんよ?『狭間』に入れちゃいましたし、正確な色味はわかりませんし」

「そか?じゃあ、もし後で解体して腹から麻袋が出たら教えてや。荷物が無ぅなったし、依頼分だけはなんとかやらにゃならんのぉ」

探索者の男は大げさに溜め息をついてこちらを見ている。


「じゃあ俺はこのへんで。お気をつけて」

「手伝ってくれんのかい!?荷物あったら頼むでホンマに!」

そうして男は先の闇の中に消えていった。




探索者サーチャーとは依頼を受けて、ものを探す仕事人だ。怪物の体の一部や鉱石・植物などの素材をはじめ人捜しでもなんでも請け負う、通称・便利屋。


探求者シーカーは主に遺跡を調査・解明することを主目的とした集団だ。歴史を。生態系を。構造を。物質を。どこに。なにが。いつ。どうして。学術的にと言えば聞こえは良いだろうが、要は全くの未知である遺跡が何かを調べ脅威になるか、有益なのか、必要不必要を検討する国家団体だ。



他にも怪物と戦うことを前提としその討伐や素材を得ることを専門とする狩人ハンターなんかもいる。


まぁそこらへんはまた今度。



ぼんやり考えながら歩けば別れ道に出る。

右手にひとつ。

前方にふたつ。


右に行けば別の道に繋がっていて、ぐるりと一周して帰ることになる。

前のうち左側に行くと全く別の遺跡にも繋がる川に出る。川を流れに逆らって行けば大物の怪物が出る山や森にも行ける。


右前(というか真ん中)だけは暫く歩いてから行き止まりだが、最近壁が崩落して湖に出られるようになった。湖を迂回すると鱗蜥蜴と爬虫類種を支配している爬虫人の集落だ。爬虫人は独自の文化を築き、鍛冶や狩猟などで生活している。

一応爬虫人は人語を解せるので、話し合いもできる。


今回の主目的はその爬虫人に遺跡の中で何が起きてるのかを聴取すること。場合によっては物資を渡して攻撃の意図がないことや今後も続く協定を結ぶことだ。


・・・・・・・・・


「こなクソ!」

ざん!と鱗蜥蜴の尾針と牙を集めるべく剣を振るう。首を斬りとばせばあとは必要な部分だけ採取し、ろくな儲けの出ない皮や骨。美味くもない肉は焼き払う。

探求者の青年と別れて半刻ほどだが必要数の半分を少し超える程度には集めることができた。


もっとも荷物を無くさなければ既に切り上げて酒場にでも繰り出していたかもしれないが。


「だー!余計なことはなしやなし!ワシは今を生きるんじゃ!待ちぃやそこの3匹!!」


僅かでも光源があれば、あとは臭いに音そして気配で相手の位置はわかる。

今まで磨き続けた技術をフルに使い、怪物共をトる!

「『影縫!』ジタバタすなや!」


念系に分類されとる『影縫』は針や短剣に「逃がさへん!」って思いを込めて投げつけることで逃亡の意思を阻害する技。投げた針に込められたんが相手の近くで炸裂するから、らしい。

いや、全くそんなん知らずに出来るようになったんやけども。


思いを込めるなら「トカゲ共、集~合~!」なんて出来んのかいな。無理や。死ぬわ。


「地道に稼ぐしかあらへんか」

ヤレヤレ。残り3匹分で終わりや。



・・・・・・・・・


爬虫人の集落に到着すると、警備をしていると思われるヒトに用件と身分を伝え、長に取り次いでもらった。

「(ヨく来タ。改めテ用件、聞ク)」

「(長よ。会談の場を設けていただき、感謝します。私が来たのは貴方がたとのこれからも続く盟約を結ぶためと最近の遺跡内部の変化について伺いたいのです)」


爬虫人の長は年功序列ではなく総合的なリーダーのことらしい。まぁ目の前に座る戦士然とした爬虫人がいくつか、なんて知らないけど。


「(ヲ互いに、争ワず。話シ合う。コレカらも頼む。変ワッたこト、ある。魔力溜マリ増えタ。生態系、狂う)」

「(こちらからもよろしくお願いします。しかし、魔力溜まりとは・・・・・・。こちらでも調査をして、然るべき処置をとらせていただいても?)」

「(我の蒼ノ眼に誓ウ)」

処置とは、こちらで勝手に対応します。そちらに被害や面倒はかけないようにしますよ、ということ。


その後持ってきていた食糧や薬、布や皮などと爬虫人の鍛冶武器をいくつかを交換した。

ちなみにそれだけですぐに集落を出た。あまり長くいすぎると、彼等流の歓待が始まるのだ。

・・・・・・食事に関しては、やはり慣れたものが良いし。



「魔力溜まりか。原因の調査と生態系の確認。場合によっては狩人の協会ハンター・レギオンにも間引きの依頼が必要かな。とりあえずウチの協会レギオンにも報告書出さないとなぁ」

指折り、口にしつつこれからやることを整理する。


第一には報告のための帰還だ。

「空の精霊たちよ。彼方への扉を杖の先に。『帰り路の門』」

触媒は大鷲烏の羽。経費でおちるよね?

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