第25話 金銀と白い魔女
白いデアクストスが立ち上がる。周りは包囲されている。
正面に立ちはだかる、デアクストスが見上げるほど大きな機体は、向かって左側が金、右側が銀。甲冑の表面は鏡のようにぎらぎらとして光を跳ね返す。両手に剣を持ち、盾は持っていない。剣はそれぞれ白いデアクストスの全長と同じくらいの長さがある。さっきの空中での動きを見ても、その懐に入るのは難しそうだった。
それに加えて、いつもの大きさの敵機が3機か。翡翠色もさほどのダメージはなかったらしい。他に藍色と深緑がデアクストスの背後を狙っている。
何より、剣がない。真紅だったものに持って行かれたままだ。真紅だったものは金銀の後ろに倒れている。
「ちょっとだけ、厄介だな」
イリスは呟き、笑った。あやめはええ、と短く答えた。さっきいつもより集中して力を使ったためか、少しくらくらする。
いけない。しっかりしないと。
あやめはイリスの手を握った。イリスが気付いてあやめに笑いかけた。
「あやめ、疲れたか。早く帰らないとな」
あやめの魔力はあとどれだけ残っているのだろう。無理をさせたくはないが、ここを突破しないことにはどうしようもない。
じりじりと敵機が迫る。イリスはにっと笑った。
「よし、あやめ!もうひと頑張り頼むぜ!」
イリスは突然後ろに大きく跳んだ。間近まで近付いていた翡翠色の頭を蹴って方向を変え、また跳ぶ。そして藍色の背後を取ると、引っこ抜くように持ち上げて投げた。
「いいぞあやめ、力持ちだな!」
イリスは楽しそうに笑った。包囲が崩れ、深緑がデアクストスを追って迫る。デアクストスは深緑の剣をかわし、すり抜けざまに蹴飛ばした。
突然戦い方が変わって、敵機は少し戸惑ったようだったが、それも一瞬だった。
金銀が動いた。
デアクストスもそうだが、このロボットは大きいから遅いとかいうことはなく、おそらく中の魔女の力で速さや強さが変わってくる。こちらで作ったデアクストスに乗ったあやめは、他の機より速かった。このオリジナルだと、機体の性能の差もあるのだろう、より速く強い。
だとすれば、この、白いデアクストスより大きな金銀を動かす魔女はどれほどなのか。青紫や真紅より、おそらくは。
イリスが思った通り、金銀はまるで光のように距離を詰め、剣を振り上げた。
そこを抜けて背後にまわりたかったのだが、振り下ろされるのが速過ぎてあやうく餌食になりかけた。リーチが長い。
かわして飛び退いた先には翡翠色がいた。盾で剣を受け、ついでにそのまま盾を振り回して翡翠色をぶっ飛ばす。そこに金銀の剣が振り下ろされた。
はいつくばるようにして、デアクストスは刃を逃れた。盾を諦めていなければ、腕がもがれていた。
「キリがねえな。でも、両手が軽くなったぜ」
遂に両手がガラ空きになった。イリスは減らず口を叩いたが、あやめは応えられなかった。息があがっている。
魔力を大きく使っているせいもあるが、あやめはデアクストスの激しい動きに翻弄されていた。こんなに速く、長い時間動き続けたことがなかった。
「あやめ、大丈夫か」
「はい」
イリスの問いにあやめは気丈に答えたが、握る手の力は弱い。それでもデアクストスの動きに衰えはない。イリスに応えて跳び、かわし、勝機を見つけようともがく。
「鳥頭!カッコつけるのもいい加減にしろ、他のデアクストスも出すぞ!」
遂にファウストが叫んだ。
「白い魔女が死ぬぞ!」
イリスはあやめを見た。血の気のない青ざめた顔に汗を滴らせながら、あやめは懸命に力をデアクストスに伝え、イリスの手を握っている。
イリスはその手に力を込めた。
「あやめ、俺となら死ねるな」
あやめは何の迷いもためらいもなくうなずいた。
「はい」
「聞いての通りだ、他のデアクストスは出すな!出したらそっちからぶっ飛ばす」
イリスはスピーカーに向けて怒鳴った。
「白い魔女が死んだらこっちは打つ手がなくなるんだぞ!」
ファウストも引けなかった。イリスは答えた。
「大丈夫だ、あの金銀が最後だ。今やっつけてやるよ」
「何故わかる?」
「俺の勘!」
一番あてにならない、とファウストは悲鳴をあげた。
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