第84話 原因と再会

 部下の清水と共に、他の隊員達よりも先行して現場へ駆け付けた後藤は、そこでモンスター駆除を支援していた公介と遭遇。

 短い会話を挟んだ後、任務を果たすべく、熊型モンスターを駆除していた。


(あの青年から感じた圧力。あれは魔力によるものだったのか。バッジからしてDクラスだろうが、彼のいた付近だけモンスターの数が明らかに少なかったのが気になる。彼が駆除したのか? 怪我はしていたようだが、処置してあるところを見るに、この戦いで負った傷かは分からないな。それにしても武器らしい武器も持たずによく...)


 そんな事を考察していると、ヘリから来た部下達や留萌駐屯地からの応援部隊とも合流し、皆で周囲のモンスターを駆除しながら徐々に中心部の当該ダンジョンへ向かっていく。


 穴から出てきた順番から考えて、中心付近にはやはり深い階層のモンスターも確認出来た。

 そして開拓者であろう人達の死体も。


 このダンジョンの熊型モンスターは姿は皆ほぼ同じだが、大きさが違う。

 子熊サイズからヒグマサイズまで様々ある。


(オーバーフローは階層毎に、駆除されるモンスターの数が少なければ少ない程起こりにくい筈。こんな深い階層にいるモンスターが大量に駆除されたとは考えにくい...)


 またもや色々考えてしまう後藤だったが、彼や清水の持っている武器ならば、例え目の前の敵に大した集中力を割かなくてもいいと思える程、簡単にモンスターを倒せてしまうのだ。


 それもあり、隊員達は誰1人戦死することなく、駆除任務を終える事が出来た。


「よし。周囲を警戒しつつ、生存者の探索、遺体の回収にあたる」


 後藤はまだ生きている人が近くにいる可能性を考慮し、直ぐ行動に移した。


 まずは倒壊してしまった、ダンジョンに併設されている民間警備会社の事務所の瓦礫を慎重にどかす。


 飛翔できる上に、魔力で強化された肉体ならば重機を使わずとも簡単に作業が進む。


 彼らも、本来このような事態が起きても対処出来ると踏んでいるからこそ、目と鼻の先に事務所を構えている筈なのだが、流石にここまで深い階層のモンスターが出てくるとは思わなかったのだろうか。


「隊長!」


 部下の1人が瓦礫の中から出てきた人を発見した。

 死亡しているかどうかは医師にしか決定を出せないが、触れた時に感じる冷たさ、無数にある噛み千切られた後を見れば、救急措置など無意味だと悟った。


「事務所の非戦闘員か...」


 静かに手を合わせ、臨時の遺体安置所に移動させる後藤。


「やはり犠牲者は出てしまいますね」


 清水がこちらへ話してきた。


「仕方無い...とは言いたくないが、ダンジョンに併設されているんだ。例えWMデバイスを装着していたとしても被害は出るさ」


 民間警備会社の者達や、ダンジョンに来ていた開拓者達には少なくない数の犠牲者が出るだろうと、後藤は予想していた。


「でもおかしいです。オーバーフローは、起きた階層より下の階層のモンスターは地上に出てこない筈。でも私達が駆除したモンスターは、感じた魔力の強さからしてB、いや時よりAの個体も混じっていました。けどそれって......」


「ああ。Aランクモンスターもオーバーフローの対象になっていたという事だが、そもそもオーバーフローとは1日に1回、倒された分のモンスターが再出現する際に、元の数よりも多くのモンスターが出現し、地上へと溢れる現象だ。そしてモンスターの減少数が多い程、その確率も上がる。ここのダンジョンは主に低ランクモンスターからドロップする熊肉が人気のダンジョンで高ランクはほぼ狩られていない筈だ」


 後藤は今回起こったオーバーフローの不可解な点について、議論を交わしていた。


「しかし地上にAランクモンスターが現れた以上、そのランクのモンスターが多く撃破された可能性が高いのでは」


「可能性の話をするなら、そもそもAランクのモンスターを少数倒しただけでオーバーフローが起きた可能性もある。まあ確率としては限り無くゼロに近いが......」


 その後、倒壊した事務所に戻ってきた後藤と清水は、丁度また中から人を発見した隊員と見つける。


「あ、隊長! 生存者を確認しました!」


 どうやら今度は遺体ではなく、生きている人を発見したようで、後藤へと報告するが、


「後ろだ!!」


「え?」


 後藤は大声でそう叫ぶ。

 隊員が生存者に気を取られ、瓦礫の中から背後に迫るモンスターに気付かなかったからだ。


(間に合うか!?)


 咄嗟にスキルで生成した水を飛ばそうとする後藤だったが、それよりも早く清水が動いていた。


 彼女は[氷]のスキルを操り、咄嗟にモンスターを凍らせたのだ。


「ふ...副隊長ぉー」


 ホッとした隊員だったが、後藤と清水はただ黙って上を見ていた。


 2人の視線の先にいた1人の男。

 彼はゆっくりこちらに降りてくる。


「君は...先程の」


「すみません。後は任せろって言われたんですけど、気になって。もうモンスターは全部倒されたみたいですし、無駄足でしたが」


 正体は公介だった。

 後藤と分かれた後、やはり現場が気になって結局来てしまったらしい。


「ふむ。つまりここまでは飛翔して来たのかい?」


「はい。その方が楽ですし」


「楽...」


 2人は驚いていた。

 理由は3つ。

 彼が飛翔出来る程、魔力の扱いに長けている事。


 それを楽だと言っていた事。

 飛翔する理由は、速く移動出来る、障害物を気にしなくていい等の理由が普通であり、実際2人も最初の頃よりは簡単に飛翔出来るようにはなったが、それが楽々行えるレベルには達していないからだ。


 そして最後の理由が、


「あなた...今私がモンスターを凍らせる直前、何をしたの?」


「え? あぁ、魔力を光線のようにして飛ばしたんですよ」


 後藤が隊員に叫んだ後、清水がモンスターを凍らせるまでの間に、上空から飛んできた魔力がモンスターを貫通するのを感じ取った2人。


 公介はそれを説明した。


「あなた...あんなに離れたところからそんな芸当を?」


「ええ」


 いつもは名前やスキル通りクールな性格で、色んな意味で冷たい女と言われている清水が、珍しく目を見開いている姿を見て、自分の感覚が間違っていなかったと察する後藤。


(魔力は自分から離れれば離れる程、制御が難しい。ましてや思い通りの形に形成した状態で、しかも飛翔しながらとなると、難易度は計り知れない)

「本当にスキルではなく、ただ魔力を飛ばしただけなのかい?」


「はい、そうです」


 後藤の付け足しにも、当たり前のように答える公介に、2人は顔を見合わせた。


 にわかには信じがたいが、実際清水は、距離が離れていた事、一瞬だった為集中する時間が無かった事で、モンスターを倒せる程の強力な氷は生成出来なかった。

 仮に生成出来たとしても、近くにいた隊員と生存者を巻き込んでしまうおそれがあった為、隊員が反応出来る時間さえ稼げればそれでよかった。


 だが事実モンスターが倒されたという事は、それ以外の要因である可能性が高い。


「そうか。いや、ならいいんだ。ありがとう。助けようとしてくれた気持ちは素直に受け取る。開拓者は避難も強制では無いからね。それよりこの後、留萌駐屯地で被災者や帰宅困難者の受け入れを行うのだが、君も来るかい?」


「え、そうなんですか?...いやでも、家に帰ろうかな」


 まさか危険度AAランクのダンジョンに行くとは言えず、適当に誤魔化すつもりだった。


「家か。ちなみにどこにあるんだい?」


「東京の方です」


 だがこっちも誤魔化すべきだったかと少し後悔した。


「それは遠いな。この時間帯じゃ今日中に帰るのは無理だろう。どこか宿は......失礼」


 後藤は何か本部から連絡が入ったようだ。


「何だって!?」


 今日一番の驚愕の表情になった後藤に公介や清水も何事かと目を向ける。


 連絡を終え、2人に向き直る後藤は静かに口にした。






「宗谷岬のダンジョンが、オーバーフローを起こした」











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