第81話 新たな声明

「我が国の空軍が時間稼ぎすら...なんという軍事力だ...」


「しかし、撤退中の地上部隊を追撃する動きはありません。やはり声明通り、自分達が主張する国家に相応しい国民を拐いに来ただけという事なのでしょうか」


「降りかかる火の粉を払っただけという訳か。だが違法に我が国の領域へ踏み込んだのだ。当然正義はこちら側にある」


 司令部は対応に追われていたが、敵が追撃してこない事が、せめてもの救いであった。


「以前インドに撃った新型のミサイルはどうだ? 目標は魔力によるレーザーのような攻撃を仕掛けて来ている。ならば魔力で構成されたモンスターに効く新型ミサイルも効果がある筈だ」


「ですがリスクが高いのでは? 効果があったとしても、目標は既に海岸上空へ到達しています。回避されたら最悪なのは勿論。撃墜されても破片による被害も考えなければなりません。自国の領土が自国のミサイルで傷つけられる事を国民が認めるかどうか...」


「ここは、敵の出方を窺いましょう。もし敵がさらに攻撃を仕掛けて来るならば、こちらが多少の2次被害を無視してミサイル攻撃したとしても、批難は向こうに向けられる。仮に何も仕掛けてこなければ...」


 今後の方針を協議している中、1人の将官が耳を拝借する。


「なに、新たな声明だと」


 ノアが新たな声明をSNSに投稿したとの報告であり、早速モニターを用意させ、動画を再生するよう促す。


「先程のまでサンフランシスコで我々と戦闘を行っていたハエやアリ共...おっと失礼。

アメリカ軍に告ぐ。

君達がとれる行動は2つ。

このまま戦闘と継続しながら建墓に取り掛かるか、戦闘を中断し、有用なスキル持ちを我が国に移住させるか。

後者を選べば、我々も戦闘行為は停止しよう。

我々の目的はあくまでもエデンに移住する人間の選別であり、侵略ではないからだ。

まずは1時間待とう。

その間に停戦の記者会見を行え。

さらにそこから半日、つまり12時間の猶予を与える。

その時までに有用なスキル持ちの居場所を全て知らせよ。

その後無線を開放する。

良い報せを期待しているぞ」


 動画の再生が終わると、1人の将官が机を軽く叩きつける。


「世界一の軍事大国相手に何が良い報せだ。クソ! 我々に国民を売れと言うのか!」


「最早核でも使うしかないのか。しかし自国の領土に核など...」


「いや、核でも撃墜出来る保証はありませんよ。確かに総合的なエネルギー量で核に勝る兵器はありませんが、何せロケットブースター付きのバンカーバスターの直撃で掠り傷すら負わせられないのですから」


 1時間というタイムリミットがある中、有効な作戦を立案出来ず、徐々に焦りが見え始める。


「やはり新型ミサイルを使うべきです。アメリカから遠く離れたインド、それもあれだけピンポイントで着弾させられたのですから、外す事はまずあり得ません」


 2次被害を考慮し、却下された新型ミサイルによる攻撃案も、ここまで追い詰められれば致し方無いとの考えだった。


「だが効果があったとして、撃墜されるのがオチじゃないのか」


 今までこちらの攻撃が命中したのは、自分達に対する攻撃が如何に無意味かを示す為にわざとくらっただけであり、本当に危険な攻撃ならば即座に撃ち落とされると懸念した。


「お言葉を返すようですが、撃墜される可能性は今回の敵に限った事ではありません。そのようなお考えでは、ミサイルなど永遠に撃てませんよ」


「落ち着くんだ。今回の敵は今までとは訳が違う。我々の攻撃が一切通用しない装甲。地上部隊を凪払い、戦闘機を一瞬で撃ち落としたあの破壊力と精度の攻撃。そんな敵と戦闘を再開したらどうなる。もしまたレーダーでも目視でも捉えられない方法を使い、ホワイトハウスや原発の真上にでも来られたらおしまいだぞ」


 新型ミサイル案も行き詰まり、話は円盤からノアへと移った。


「ノアの弱みなどは無いのか。あまり大声では言えないが、家族や恋人を人質にとったりは」


「家族はいませんよ。調べによると彼はニッポン人らしいですが、1人イギリスの美術大学へ留学している際、ニッポンにあるダンジョンで起こったオーバーフローに家族が巻き込まれ全員亡くなっていると」


 その後は美術大学を中退し、日本へ帰国。

 遺産と死亡保険でしばらく1人暮らしをしていたところまでが調査で判明している事だと彼は説明した。


「それはまた気の毒な話だが、建国をしたり、他国へ不法侵入する動機になるかは怪しいところだな。いずれにせよ、弱みを握る事も難しいというわけか」


「それにあのテクノロジーは一体なんだ。とんでもないスキルを持っているのか。宇宙人からの技術提供でも受けているのか」


「私に1つ提案が」


 もしや自分達が相手にしているのは想像以上に巨大な勢力なのかと顔を曇らせる一同であったが、その中で挙手する者が1人いた。











(はぁ。最悪だ)


 アメリカがエデンによる攻撃を受けていた頃、公介は飛行機に乗りながら、そうため息をつく。

 羽田空港から、宗谷岬に近い稚内空港までの直行便が緊急整備で運休。


 価格割り増しな新千歳空港を乗り継ぐルートになってしまったが、ため息の理由は他にある。


(なんでよりにもよって、このダンジョンなんだよ)


 搭乗前、イチゴに言われたダンジョンを詳しく調べてみると、そこは自分が生涯訪れたくないダンジョンの中でも5本の指に入る場所だった。

 いや、公介以外でもここに入りたいと思う人間はまずいないだろう。


 ここのダンジョンは特殊で、階層は1階層のみ。

 モンスターの種類も現在確認されているのは1種のみ。


 ただ階層に関しては、階層間を繋ぐ特有の階段が無いという意味であり、地形自体は下へ下へと続いている。


 つまり、オーバーフローが起きない限りは安全とされている階段が存在せず、全ての場所が危険という事になる。


 しかもモンスターの危険度は最高のAAランク。

 正確にはモンスター達と言うべきか。


 と、最悪な条件が揃ってはいるが、飛翔出来るモンスターではない。

 つまりダンジョンから出るまで、飛翔し続けられる程、魔力量と技術に自信があり、モンスターの軍団のプレッシャーに耐えられる者ならば、生還する事が出来るだろうが、そんな人間は果たして存在するのか。


 よって魔力量が1万あり、節約の仕方も学んだ公介がクリアしなければならないのは後者だ。

 福地からもらったインスタントゲートもまだ持っている。


 だが地形は洞窟タイプであり、地を這うモンスターである事から壁を伝って上から降ってくる可能性もある故、もしかしたら何かしらのスキルを再取得する可能性も考えた。


 さらに、これだけ危険なダンジョンともなると、当然警備も厳しい。


 死者を出さないためという理由もあるが、モンスター単体ではそれ程の脅威ではない事から、モンスターを倒した事で万が一にもオーバーフローが起きないようにとの対策である。


 もしこのダンジョンで爆発はおろか、オーバーフローでさえも起きてしまえば、北海道そのものの存在が危ぶまれる。

 そう唱える者がいる程、危険視されているダンジョンだ。


 それだけのダンジョンならば、自分がついでに最深部のコアを破壊してしまおうかとも思ったが、ただでさえ不法侵入なのだからそれ以上に目立つ事はしたくなかった。


(勝手にダンジョン入られて勝手にコアも破壊されたけど、危険なダンジョンだからまあいっか...とはならないよな。流石に)


 そうなった場合当然犯人探しが始まる。


 公介自身、この力をなにがなんでも隠し通したいという思いは無いが、自分にあまりメリットが無い行動をとってまで、露呈する可能性を高める事はしない。


 ましてや違法行為に更なる違法行為を重ねる事になってしまう。






 と、そんな事を考えている内に気付けば飛行機は新千歳空港へと到着。

 空港内では周りが慌ただしくなっており、不思議がっていると、スマホの通知欄にニュースが記載されていた。

 機内モードにしていた為、少し前のニュースだが、そこには、

 



軍事国家エデン、アメリカへ軍事侵攻。壊滅的な被害か。目的は有用なスキル持ち?




(アメリカへ侵攻!?)


 予想外の記事に思わず声が出そうになってしまう。


 有用なスキル持ちを欲しているだけで、ここまでの行動力に繋がるものなのか


 式典でのテロ事件だけでなく、今回もアメリカが狙われた理由は、アメリカが世界の警察と呼ばれる程、世界屈指の大国であり、この国を叩くのが一番力を誇示しやすいとの考えだろうか。


 それともパクス・アメリカーナを崩す事で、世界に混乱を起こそうとしているのか。


 はたまたその両方か。


(エデンか......ノア、こんな兵器どこで調達したんだ)


 写真に写っているのは従来の航空機など比較にならない程の大きさを誇る飛行物体。

 素人目でも流石にこの大きさの物体が空を飛べる筈がないと思ってしまう。


 そもそもレーダーに引っ掛からずにミサイルを落とす術があるのだから、こんな大胆な事を行う理由も分からない。


 もし自分が式典の時、ノアを止めていれば、こんなことにはなっていなかったかもしれない。

 そんな考えも一瞬頭をよぎってしまうが、流石にそれは自分を過大評価していると思い直す。


 ノアの実力がどの程度にしろ、あの場で一式典の参加者でしかない自分にテロリストのリーダーを無力化する義務などない。


 イチゴの言っていた通り、大勢の人を治療スキルで助けただけでも大功労者だろう。


 だが同時にあの男に言われた事も思い出す。

 力はあるのに何がしたいかを明確にしていなかった。


 だからこそ、いざ人間と対峙した時に力を使う覚悟が出来ず、例え殺めてしまっても止めるべきだという結論に至れなかった。


 核兵器程、恐ろしさが認知されている場合でない限り、力は持つだけでは何もなし得ない。


(もしまた遭遇して、目の前で同じ様な事をしてたら...次こそは...)


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