第78話 次の目的

「さて、強くなる手段ですが、先ずは創造の剣を手に入れて頂きましょう」


「創造の剣? スキルをもっと手に入れるとかじゃないのか?」


 イチゴが話を切り出した事で、公介の思考がそちらへと向いた。


「あの男が言っていたではないですか。スキルの力はスキルにあらず、既存の知識で完結させるな。その考え方、正直間違ってはいません」


 確かに最後、そんな言葉を残していったと思い出す。


「スキルの力はスキルにあらずか......確かに魔力だけでも体を頑丈にしたり、飛んだり、弾のように飛ばしたり出来るけど、だからと言ってスキルはスキルで強力なものもあるし、そもそも俺がここまで強くなれたのも、自由設定というスキルのお陰であって......」


「そこまで。いずれ理解すればいいことですから、今は話を戻しましょう。あなたが強くなるには創造の剣を入手する事の方が先決です。破壊の剣を使いこなすのも重要ですが、それには対となる力が必要なのです。要するにバランスです」


 イチゴが話を区切った事で仕方無く思考を停止し、耳を傾けた。


「創造と破壊か。それはワイトが狙ってきた俺の力と関係があるのか?」


「勿論あります。創造・破壊・維持。この3つの力は剣であると共に、公介様の持つ力を引き出す鍵でもあります。発芽の条件と言ってもいいでしょう」


 それを聞いて公介が少し首を傾げた。

 あまり納得がいっていない様子だ。


「ん~......なんか少し胡散臭くないか? 力を引き出す為に3つの剣が必要なんて」


「......」


 公介の疑問にイチゴは無表情で黙りこくってしまう。

 これは何かあると思いつつも、嘘をついているようには思えず、一旦保留にしておこうと判断した。

 それにスキルが使えなくなった今、新たに力を得られる手段がある事は素直に喜ばしい。


「因みに力を最大限引き出した状態と今の俺とではどれくらい差があるんだ?」


「...それはりんごの種と果肉、どちらが美味しいのかと聞いているようなものですよ」


 返ってきた答えに戸惑うも、やけに重みを感じる言葉に聞こえた。


「そうか......そういえばワイトと戦った時、破壊の剣で変な裂け目が出来たんだ」


「裂け目...確かにそんな事がありましたね。私も見ていました」


 ワイトに攻撃を躱された時、空を切った破壊の剣が裂け目を開いた。

 あの時はワイトの黄金の輝きを放つ手によって塞がれたが、裂け目の奥に何か空間のようなものが広がっているように見えた気がした公介。


「イチゴ、お前ダンジョンの中からでも外の世界が見えるのか。いや今は一旦置いといて、ワイトがいない今、あの裂け目を明日の朝もう一度開けないか試して見ようと思うんだ」


「気になる気持ちは理解しますが、その裂け目がワイト達の世界に繋がっていたとして、一先ず傷が癒えてからでもよいのでは?」


「繋がっているかまでは分からないけど、ワイトがその穴を塞いだってことは少なくとも都合の悪い情報ってことになるだろ。それに傷の心配はありがたいけど、向こうがまたなにか仕掛けてくるかもしれないし、人質を取られたりしたら最悪。ホントは今すぐ試したいくらいだ」


 流石に今日は疲れている事もあり、明日に回したが、やはり早急に検証する必要があると判断した。


「そこまで言うのなら止めはしませんが、十分警戒するべきです。敵の本拠地である可能性もありますから」


「分かってる。ヤバイと思ったら直ぐに引き返す。それにもし万が一、人...みたいな生き物がいても近付かないようにするよ」


 今日のイチゴはやけに気前よく答えてくれるなと思いながら、そう返した公介であった。











 公介が明日に備え、眠りにつく準備をし始めている中、時間は公介達がダンジョンから出た頃まで遡る。


「ここは...私は...戻されたのか」


 ワイトは周囲の景色から、ここは自分が暮らしていた場所、住みかとしていた場所だと理解した。


「あの男、この世界では見たことがない。何故あの世界に2つも...」


「王よ。お戻りになられたのですか」


 自分の身に起きた事を整理していると、ある人物から声をかけられた。


 手足は2本ずつあり、シルエットは人だが、ワイトと同じく明らかに人ではない見た目。


「リグか。戻ったというよりは戻されたと言うべきか」


 緑を基調とした体と服が印象的なその存在に、ワイトは今までの経緯を説明した。


「そうでしたか。では強奪には至らなかったと。しかし妙ですね。何故邪魔をしてきた者にもワイト様や標的と同じ力が...」


 顔色や表情は不明だが、声色だけでも分かる紳士的、理性的な雰囲気を纏ったリグは、ワイトの説明を冷静に分析する。


「分からん。だが今の私では絶対に勝てない。もし今後も同じ様に邪魔をしてくるのであれば厄介だ」


 その言葉を聞き、少し考え込んだリグはワイトへある提案をした。


「私もあちらの世界へ出向きましょう。微力ではありますが、お力になれると確信しております」


「ならん。お前にはこの世界で与えた役割がある。それに向こうの世界でも私に味方する存在がいたのでな。上手く利用すれば、作戦の成功に貢献させられるだろう」


 ワイトは情報の共有をするべく、話を続ける。


「向こうの世界もにしろ、それなりの文明を築いているようだ。薄々気付いてはいたが、この目で見て確信した。今の段階でなら空を飛ぶモンスター相手にも飛行型高速移動兵器、戦闘機で倒す事が可能。実際、公介という名の標的が人員輸送を目的とした飛行型の乗り物に乗っていた際、付近のダンジョンからモンスターを仕向けたが、駆け付けたその兵器によって倒された」


 リグは黙ってその話に耳を傾けている。


「その戦闘機よりも更に高速で移動し、対象物とその周囲を爆発の衝撃で破壊する兵器、ミサイルでな。後にそれよりも大きなミサイルをエデン...先程の協力者が建国しようとしている土地に放たれたが、私が対処した」


「なるほど......こちらでは負傷したレドが回復し、かなり気が立っている状態です。ワイト様がこのタイミングでご帰還されたのはある意味好都合でした...と噂をすれば」


 足音に気づいたリグとワイトは、その方向へと意識を向ける。


「レド。無事なのはなによりだが、元々私が1人で行くところを無理矢理着いてきたのだ。これに懲りたらこちらでの役割を全うしろ。探していた存在も既に発見済だ」


「ならん! 奴に復讐するまで、この怒りは収まらない! 俺に傷を負わせた奴に!」


「だが私があの場で退却用の空間を生成していなければ、お前は殺されていたのだぞ」


 赤く染まった鎧のような皮膚を全身に纏うレドはワイトの忠告に反論する。

 ワイトがため息をついていると、リグから、提案があると進言してきた。


「先程レドの話を聞いていたのですが、どうやらレドの戦った相手も兵器を用いて戦闘を行っていたようです」


 どんな兵器だと言うワイトの質問にリグは続ける。


「レド曰く、大きさは我々と差程違いは無いが、全身に装甲を纏った姿だったとの事です。敵の戦力を分析するべく、レドにはその敵との戦闘を許可するべきだと進言いたします」


「......確かにWMデバイスという全身に装甲を纏う機械が開発されていたが、レドが重傷を負う程の代物では無いと判断した筈。全くの別物か、戦闘力が数段増す程の進化を遂げているのかは不明だが、調査は必要だな......仕方無い」


 ワイトは、次は必ず勝つというレドの言葉を信じて、再び向こうの世界へ行くことを許可した。


「向こうの世界にはスキルという魔力の力を自動的に引き出す能力がある。我らも変異しているからといって絶対に油断するな。それとこれも覚えておけ」


 ワイトはリグとレドにある物を渡した。


「我々の言語と標的が使っている言語を比較した資料を作っておいた」


 その言葉にリグは少し首を傾げた。


「標的が使っている言語? 向こうの世界には言語が複数存在するのですか?」


 ワイトは頷く。


「そうだ。標的が使っている言語はニホンゴと言い、100人に1人か2人の割合でしか使用されていない。最も使われているエイゴという言語でさえ5人に1人というレベルだ」


「フン! 面倒な世界だ」


 興味深そうに資料に目を通すリグ。

 不満を漏らすも自分が覚えようと思った単語を見つけるレド。


 少しの間を置き、ワイトは自身の手から黄金の光を放ち、何も無い空間に裂け目を生み出す。


「標的との戦闘時、標的にこちらの世界を勘づかれた可能性がある。もし、この国に侵入してきた場合は直ぐに知らせろ。よいな」


 承知の返事を言われ、レドと共に裂け目へ入るワイト。


(この国はもう限界だ。なんとしても奴の力を手に入れねば)











 さらにそれより前、エイル社、マベルの研究室では、翔に渡した新型デバイスでの戦闘データを分析するマベルとアイラの姿があった。


 いや正確にはこの場にいるのはマベルのみ。

 アイラは翔があのモンスターを倒し、何かアイテムを入手出来た場合や不足の事態に備えて、エイル社日本支部に待機しながら、リモートで会話している。


「新型デバイスと互角に戦っているあのモンスターが凄いのか。はたまたあのモンスター相手に渡り合えている新型デバイスが凄いのか...」


「両方だよ。デバイス使用者は旧型も新型も同一人物。旧型では逃げるのがやっとだった相手に真っ向から挑んで退散させているんだ。ただ着目すべきは...」


「戦い方か」


 マベルの言いたい事が分かっていたのか。

 彼が言い終える前に、アイラは口を開き、マベルもそれに頷く。


「そうだ。我々が認識してきたモンスターの中にも、多少利口なモンスターは居たが、それとは一線を画している。カラスやイルカがいかに利口でもそれは人間以外の生き物全ての中で比べればの話だ。人間には程遠い。だがあのモンスターは...まるで人間だ」


「そもそもあれはモンスターなのか。未発見のダンジョンならまだしも、既に開拓されているダンジョン、しかもそこにいるモンスターとは全く姿の違うモンスターが1体だけ現れるなんて事がありえるのか」


「そうだね。モンスターじゃないとするなら、地底人か異星人か異世界人か」


 アイラの疑問にマベルは少し笑いながら冗談交じりに答えた。


「正直、あらゆる選択肢を排除出来ない状況だ」


「そ...そうか」


 だが真面目な答えで返され、動揺したマベルだが、アイラの新たな発言によって直ぐに冷静さを取り戻す。


「そういえばこの前、インドのダンジョン爆発を阻止する作戦では、最下層に人型モンスターが現れたそうだが、あれとの関係性はどう考える?」


「絶対とは言わないが、私は無いと考えている。インドダンジョンの人型モンスターは、資料によると、文字通り人のような姿をしているとのこと。だがこのモンスターは...形は人だが、見た目はどう見たって人じゃない。怪物だ。同じジャンルや種族とは思えない」


 そうか、という返事を最後に下を向いて考え込んでしまう2人。


 沈黙が続いた末、マベルは仕方無さそうに口を開く。


「やはりアイラ。君にも現地に行ってもらおうかな。彼でも撃退出来た相手だ。君と2人がかりなら問題なく倒せるだろう」


 自分の同僚兼親友を異国の危険な調査に行かせたくない思いと、新型デバイスのデータ収集要員を増やしたいという考えから、現地の人間に任せていたが、このモンスターと言うべきかも怪しくなった存在に興味が増したマベルは、アイラにも加勢を依頼した。


「だから最初から俺が行けば良かったんだ。まあ過ぎた事はいい。それで、いつ行けばいいんだ? 俺は明日でも構わないが」


「そうかい? 同僚を振り回すのは気が引けるが...ならお言葉に甘えようじゃないか。」


 気が引けると言う割りには対して申し訳なさそうな顔をしていなかったように見えたが、準備を進めるアイラであった。






――――――――――






※ワイトやリグ、レド等、彼らの言語同士での会話は、日本語で表現します。

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