第72話 武器

 下を確認しながらゆっくりと降下していくが、なかなか地面にたどり着く気配が無いので、魔力を内側に流し、強度を高めた上で、飛翔を止めた。


 重力で一気に落ちていく公介。

 しばらく落下した後、地面に着地したものの、目の前の光景は自分が出現させられるダンジョンの最下層に似ていると感じた。


 数百メートル程しか奥行きが無い空間。

 その最奥にはダンジョンコアらしきものがある。


 コアを破壊する必要は無いが、それよりも気になるのは途中にある宝箱。


 おそらくこの階層の中心であろう位置に置いてあるそれは、どう見ても罠が仕掛けられていそうだが、宝箱自体に罠は無さそうだ。


 理由は横で寝ている巨大な牛型モンスター。

 鑑定して分かった名前は[ディナ]。


 間違いなく宝箱を守っているモンスターが横にいるのに、さらにそのモンスターを倒しても宝箱に罠が仕掛けられているなんてことは無いと願いたい。


 魔力玉をぶつけると爆発で宝箱まで影響が及ぶ危険を考慮し、実質1000万の魔力を込めた指先からの魔力光線で倒す。


 膨大な魔力を感じ取ったのか、こちらに気付いたようだが、既に奴の体は魔力光線が貫通していた。


 通常のモンスターと同じく、地面に吸い込まれるように消えていくも、ドロップ品は無い。

 まるで宝箱があるのだから、モンスターからのドロップ品は無くてもいいだろ、とダンジョンが言っているような気がした。


 宝箱の目の前へ行き、開けてみると中に入っていたのは、赤色の剣。


「武器か」


 武器そのものがドロップするというのは、例は少ないが聞いたことはある。

 だが50階層からさらに降りた先の宝箱からのドロップとなると、前代未聞だろう。


 これは期待できると鑑定をしてみるが、分かった内容に少し落胆した。


 この剣は相手の魔力と体力を破壊することが出来るらしい。

 今までと違い、こちらに吸収出来る訳ではないが、その分破壊出来る量はかなり多い。


 だが、結局はこれまでのモンスターから製作出来る武器の延長線上でしかない。


 そう思いつつも、折角だから持って帰ろうと持ち手に触れる公介。

 すると、


「な、なんだ!?」


 触れた部分から鍔、そして剣身へと続くように金色の線が現れる。


 宝箱の中にあったその剣は空中へと場所を移し、公介の方へと向かってきた。


「うわ!? 危ね!」


 当然避けるが、剣は方向を変え、再びこちらへ向かってくる。


「守ってるモンスターを倒したんだぞ! 中身ぐらい素直に持って帰らせろ!」


 剣相手に愚痴を言う余裕はあるものの、魔力玉をぶつけても何故かすり抜けるように向かってくる相手にどう対処するべきか困惑していた。


「このままじゃ進展しないな。一度避難するか」


 剣を躱し、方向を変え、こちらに向かってくる一瞬の時間でダンジョンへの穴を出現させる。

 直ぐ様中へ入り、穴を閉じる。


「ふぅ。間に合った」


「どうしたのですか。そんなに慌てて」


 剣が追ってこないか警戒していると、イチゴが門からやって来た。

 事の経緯を伝える公介。


「避けなければいいのでは?」


「は? 貫かれるだろ」


 イチゴから返ってきた答えはとんでもないものだった。

 当然そんなことは出来ないと反論する。


「剣に金色の線が浮かび上がった。それは私やこのダンジョンにも同じことが言えます。となると、少なくとも貴方に敵意を持っての行動ではない筈」


 確かにこのダンジョンにコアをはめたときや、イチゴを含めたモンスター達には金色の線が入っている。

 同じ様な現象が起こったということは、あれが罠だとは考えにくい。


「......腹括るしかないのか」


 イチゴが自分の死を望んでいるとは思えない以上、避けなければいいという発言も戯れ言では無いのかもしれない。


 もし貫かれたとしても、即死でなければ九死に一生のスキルで回復出来る。

 突き刺さった剣を自力で抜けるのかは怪しいが。


「大丈夫ですよ。公介様なら。多分」


「イチゴに言われても説得力無いが、どの道他に解決法思い付かないし、今回は信じるか。もし貫かれたら真っ先にお前倒しに来るからな」


 覚悟を決めた公介はダンジョンの穴を開ける。


「あ」


 こういうのは見失ったら元の位置に戻るのだと、どこかで思い込んでしまっていたのだろう。


 目の前に剣が待機していたことで反応が遅れ、直線に向かってくる剣に対して後ずさるという無意味な行動を取ってしまう。


 いずれにせよ受けるつもりでいたのだから同じ事なのだが。


「あれ、痛くな......!?」


 間違いなく自分の胸の中に剣が入ったのだが、痛みはない。

 だがそれよりも重要なのは頭の中に流れ込んできた情報。


「よかったですね。貫かれなくて」


「ああ。とんでもないぞ。この剣」


 最初鑑定した時とは明らかに違う性能であることが、分かった。


「イチゴの意見を聞いて正解だった。これはお礼だ」


 道中で買った焼きまんじゅうを渡す。


 包み紙を取り、食べ始めるイチゴ。


 ビワを皮ごと食べていたとはいえ、流石に包み紙は取るのかと思った公介は、改めて自分のダンジョンから出て、貸し切りダンジョンの方も地上への門を目指す。


「結実へ一歩前進...ですか」


 剣が公介の体の中へ入った一瞬、また目が、そして全身からも金色の光が溢れたような気がしたと感じたイチゴは1人呟いた。






 本来武器は国への申請が必要で、ダンジョンでドロップした際も、仮の許可証を受付で発行してもらう必要があるが、自分の体の中という絶対にバレない場所にしまっておけるのだから、取り敢えずはいいと判断した。


 仮に言うにしても福地と2人きりになったときだけ。

 いや、それすら躊躇ってしまう程の性能だ。


 ダンジョンから出ると、受付に伝え、福地にも貸し切りダンジョンから帰還したことを伝える。


「そうか。インスタントゲートは使わずに済んだのか。それはよかった。で、何か収穫はあったのかい?」


「ええまあ。ぼちぼちです」


 折角だから成果を聞きたいと言われ、後日会う約束をした公介であった。











 エデンの中心にそびえ立つ城のような建造物ではノアともう1人の人型のなにかが会話をしていた。


「あれは見つかったのか」


「申し訳ございません。現在調査中であります」


「フンッ。まあいい。この世界で最強と言われている...エマSネルキスと言ったか。奴でさえあの力を手に入れてはいないようだからな。まだ焦る時ではない」


「そ、そんなに凄い力なのですか」


「あの力を言葉で表すことなど不可能だ。この世界の人間がが全てネルキス並の強さになろうと、到底及ばない程にな」


「その力をワイト様は持っておられると」


「あくまでも一部だけだ。だからこそ、他の者に見付けられる前に手に入れる必要がある。そしてその力を得た者にしか扱えない3色の力もだ」


「はっ。そちらの方も現在調査中でありま...」


「調査は分かった。成果を見せろ」


「か、畏まりました」

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