第71話 最奥

 アイラから新型デバイスを受け取った翔は、6階層に来ている。

 あのモンスターと戦う前に、まずはビワコアラで性能を試そうと思ったからだ。


 エナジーコアを2つをデバイスへ差し込む翔。


「system setup」


「変身」


 弟達にリクエストされている掛け声をあげる。


 電子音声が流れ、体にサプライユニットが展開されると、自動的に武器が手に現れた。


「開発側が直々に届けに来るぐらいだ。どれ程の性能なのか」


 残りのエナジーコア2つを武器へ装填すると、装填完了を示す音と共に魔力が流れる。


 それを確認し、ビワの木にいるビワコアラへと狙いを定めた。


 オプティマルアローの弓を引くとことで魔力の矢が形成され、向きが自動的に微調整される。


 放たれた矢はビワコアラの頭部を撃ち抜き、地面へ吸収されるように消えた。


「一撃!? Cランクモンスターだぞ」


 武器の性能に驚きつつ、ドロップしたビワを回収する。


「これならあのモンスターとも戦える」


 その後も数体倒し、性能の確認を済ませると、前に奴と遭遇した10階層へと向かった。






「いたな......おい!」


 10階層の奥で奴を見つけた翔。

 ビワの木でビワを食べているようだったが、こちらの声に気付き、振り向く。


 翔は身構えたが、前のように一気に向かっては来ず、ゆっくりと向かってきた。


「ギザラバカホヂガアユロァデキハガァダ.ロクンクバハキ」


「相変わらず訳の分からん言葉を使いやがって。初戦は敗けを認めてやる。だが、次はそうはいかない」


 このまま奴を警戒しながらダンジョンで活動を続けるのは御免だと思い、オプティマルアローを放つ。


「ジヒダキホハアカキデユジデワウ!」


 奴も翔の殺気を感じ取ったのか、戦闘態勢に入り、矢を躱しながら向かってくる。


 奴の剣とオプティマルアローの

 弓幹がぶつかり、せめぎ合う。


 両者のパワーはほぼ互角。

 何度も武器を交え、斬り合うが、サプライユニットのお陰でダメージは無く、向こうは浅いが傷を負っているようだ。


「凄い性能だ。このデバイスなら...いける!」


 距離を取り、矢を放つ翔。

 奴は剣で斬り落としながら、魔力の玉を放ってくるが、こちらも弾き飛ばす。


 翔の攻撃に嫌気がさしたのか、奴はパワーよりスピードを重視しながら、距離を詰めてくる、


 だが新型サプライユニットの性能はパワーだけではない。

 背後から襲ってきた奴に気付かないフリをし、ギリギリまで距離を詰められたところで、振り向き様にオプティマルアローを一閃する。


「ハテゴホダヨギガヨネゴゴラネホヂガアユ」


 吹き飛ばされ、困惑している奴だが、翔は既にトリガーを引き、強力な一撃を放つ体勢に入っていた。


「くらえ!」


 放たれた矢は奴の頭部へと向かっていくが、寸前で気付き、咄嗟に手で守られる。


 倒すには至らなかったが、手を貫通した矢を見る限り、間違いなく重傷を与えたと確信した。


 このまま一気に畳み掛けようと思った矢先、奴の直ぐ横に何かの穴が出現した。


「なに!?」


 奴にはその穴がなんなのか、分かったようで、まるで覚えていろと言っているかのような顔を向けてくる。


 逃がすまいと矢を放つも寸前のところで穴の中へと消えてしまった。


「チッ! 逃がしたか。だがこのデバイスなら奴とも戦える」


 次こそは倒すと意気込んだ翔であった。











 福地と会ってから1週間後、群馬ダンジョン貸し切りの日がやってきた。


「凛子の予想通り、未踏の階層に何かあればいいけど」


 福地からは命の危険を感じたら直ぐにインスタントゲートを使えと言われたが、その機会が訪れることはないだろう。


 ダンジョンの前に行くと、スタッフが話しかけてくる。


「こちらのダンジョンは今日閉鎖となっております」


「福地副会長から話は通っていると思います」


 そう言いながら開拓士免許を見せると、態度を変え、中へと通してくれた。


 凛子曰く50階層まであり、16階層からが未踏という話だったことを思い出し、まずは16階層目を目指す公介。






「福地様。あのまま行かせてよかってのでしょうか? インスタントゲートを持っているとしても、一瞬の油断が命取りになる可能性も」


 協会の副会長室では福地の秘書が福地と話をしている。


「確かに君の気持ちも分かるが、彼はインドダンジョンの爆発、式典のテロ事件でも生還したんだ。生還に見合う実力があるなら問題なし。ただの運だったとしても、それなら今回も運で乗り切るだろう」


 福地はさらに続ける。


「普通自分のクラス以上の階層へ入らせてくれと頼むなら、もっと良いアイテムがドロップするダンジョンを選ぶ筈だ。わざわざあんな大したドロップ品が出ないダンジョンを選ぶということは、彼なりに何か考えがある。と私は思っている」


「それだけの考えをお持ちなら、無計画で突っ込んで不幸な結果になることはないだろう、ということでしょうか」


 そういうことだと福地は返す。


「あのダンジョンから製作出来る武器は一癖も二癖もある。深い階層から取れる素材ではどんな武器になるのか。若さ故の好奇心なのか。それは本人にしか分からないが」


 面白いことが起きそうだと思う福地であった。











 公介は現在41階層まで来ていた。

 このダンジョンはウシ科の動物に酷似したモンスターが出現するが、攻撃に当たるとこちらの魔力を吸収される為、開拓者達からは非常に嫌われているダンジョンであり、人気が無い理由だ。


 40階層までにドロップした爪や角は、凛子が言っていた魔力を奪ったり、疲れさせたりする武器の素材になるモンスターで、15階層までにドロップする素材よりは使えそうだが、それでもダンジョンを貸し切ってまで手に入れたいものではなかった。


 だが41階層から出現したモンスター、鑑定したところ[ウルガ]という名前がドロップする牙から製作出来る武器は、吸収出来る魔力の量がかなり多い。

 こちらの魔力もかなり持っていかれる為、得はしないが、ほぼ一瞬で魔力が回復する公介にとっては有用と言えるだろう。


「少しここで狩っていくか」


 空を飛べないウルガを上空から魔力の玉をぶつけ、一方的に倒していく。

 このモンスターのランクがいくつなのかは知らないが、爆発の規模が大きすぎて、AAだったとしても関係ないように思えた。


 10体程倒したところで充分だと判断した公介は、次のモンスターが出現するまで階層を進んだ。


 すると46階層目でモンスターの見た目が変わった。

 鑑定し、分かった名前は[タウル]。

 タウルからドロップする爪から製作出来る武器は、相手の体力を吸収することが出来、15階層までに似たような武器はあるが、それよりも吸収出来る量が多いらしい。


 こちらが消費するのは体力ではなく魔力らしいので、これも公介にとってはメリットしかない武器だ。


「これもいいな」


 先程と同じく、上空から魔力の玉をぶつけ、10体程倒し、爪や水晶を回収したところで次の階層へと進む。


 だが50階層の最奥まで来たものの、出現するのはタウルのみで、どうやらこれ以上新しいモンスターは出現しないようだ。


「使えそうなのは魔力を吸収する武器と体力を吸収する武器のみか。折角貸し切った割にはちょっと物足りないな」


 何も収穫が無かった訳ではないにしろ、少し呆気なさを感じた。


 だが最奥の壁の目の前にかなり大きいマンホールのようなものがあるのに気付く。


「なんだこれ」


 穴には開く為の取っ手は無く、少し離れて魔力の玉をぶつけてみるも壊れることはない。


 ならばと魔力を極限まで込めた光線を放つ。

 すると当たった箇所から溶けるように壊れていき、人が通れるだけの穴を開けることに成功した。


「不気味だけど、ここまで来たら行かなきゃ勿体無いよな」


 穴を通り、飛翔しながらゆっくりと落ちていく公介であった。

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