第70話 魔力量を増やす

 数日後、WMデバイスが謎の人型モンスターを捉えた滋賀県のダンジョンへと来たアイラ。


 朝方、ダンジョンの出入口で待機していると、お目当ての人物がやって来た。


五十川いとかわかけるだったかな」


「誰だお前は。何故俺の名前を」


 翔は会ったこともない人間に名前を知られていることに警戒心を抱いた。

 アイラはホンヤムクドリの翻訳機を使っている為、意思疎通も容易に出来る。


「君が持っているWMデバイスの開発に携わった者だ。我が社の製品を使うには国を通す必要があるんだろう。名前ぐらい調べられる」


「エイル社の人間ってことか。そんなエリートがこんな田舎に何の用だ」


 手に持っているスーツケースを見るに、何か目的があって来たことは間違いないと思った。


「君が最近遭遇したあるモンスターについて...と言えば分かるな」


「何故そのこと...」


 翔の言葉を遮るようにアイラは返す。


「WMデバイスには犯罪抑止と品質向上目的で使用時は録画すると契約にある。知っているのは当然だ。それに我が社にも調査の依頼がきたからな」


 翔は人型モンスターと遭遇した次の日、受付兼買い取りスタッフにその旨を話した。

 するとWMデバイスの録画機能に何か映っているかもしれないと言われ、協会の方からエイル社に映像の調査を依頼をした。


「映像を見た限り、随分手強そうなモンスターに見えたが、まだここのダンジョンにこだわっているようだな」


 あんな強いモンスターと対峙しては、しばらく他のダンジョンへ出向いていてもおかしくないだろうと思った。


「ここは家からも近い。下の奴等の世話する時間考えると、あまり遠出は出来ない」


「そうか。あのモンスターは怖いが、このダンジョンしか選択肢がないということか」


 鼻につく言い方に感じた翔は、少し睨み付けるような顔になる。


「そう怒るな。今日は君と契約の相談に来たんだからな」


 アイラはスーツケースを翔の前に出し、中を見せる。

 見えたのはエナジーコア4つと、凹みが2つあるWMデバイス。


「これは...」


「我が社で開発した新型のデバイス。君はデータを取る一般モニターに選ばれたというわけだ」


 新型という言葉に興味を引かれたが、そんなうまい話があるのかと疑う。


「開発側だけでなく、消費者側からのデータも取りたいと思うのは普通のことだ。だが勿論条件もある。君がそのモンスターを倒せたとして、何かドロップした場合は我が社に提供してもらう。その後も機密保持を条件に新型デバイスは使い続けて構わない」


 翔は少し考え、答える。


「要するに、新型デバイスを使わせてやる代わりにあのモンスターのドロップ品を提供し、その後もデータを取らせ続けろというわけか」


「ああ。悪くない話だろう」


 確かに悪くない話だと思った。

 どの道、今の翔にあのモンスターは倒すことは不可能。

 ならそのドロップ品の譲渡を条件に新型デバイスを使い続けられることはメリットしかない。


「これを使えばあのモンスターにも勝てるのか」


「まだ情報が少ないから分からん。だが、今より数段強くなれることは確実だ」


 それを聞いて翔は決断した。


「いいだろう。一般モニターになってやる。使い方を教えろ」


「偉そうだが、取り敢えず良い答えだ」


 アイラは新型デバイスとエナジーコア4つについて説明する。


 ・エナジーコア4つの内、2つは新型デバイスに装填し、もう2つは武器に装填出来ること。


 ・装着し、指紋認証を1度済ませれば、使用毎に認証を行う必要はないこと。


 ・武器はデバイス自体に収納してあり、デバイスを使用すれば自動的に手元に現れること。


 ・武器の名はオプティマルアローで、持ち手以外の弓幹の部分で剣のような戦い方が出来ること。


 ・弓を引けば魔力の矢が形成され、自動的に対象を捕捉出来ること。


 ・トリガーを引きながら弓を引くことで、通常の矢より多くの魔力を消費し、強力な矢を放てること。


 ・黒紫水晶でデバイスや武器の魔力を回復出来ること。


「斬れる弓か...俺が使っていたグレイヴ型の武器とかなり違うが」


「確かに馴染んだ武器の方が使いやすいのは理解出来るが、それでもこちらを使った方がいい。理由は使ってみれば分かる」


 余程自信があるのだろうと悟った翔は、最後に機密保持の契約書を書き、新型デバイスを受け取るのであった。











 同じ頃、公介は滋賀県東近江市杠葉尾町のダンジョンへ来ていた。

 後数日で群馬のダンジョンへ行くのに、何故こんなところまで来たのか。


 少し時間を遡り、凛子からの依頼を終えてから、公介は自身の魔力量について考えていた。

 あれだけ透明水晶を割っておきながら、魔力量は全くと言っていい程上昇しない。


 当初は、簡単には上昇しないということは、それ程の魔力量を持っているという証拠だと納得していた。


 事実、魔法効果上昇スキルも相まって、今まで実力で敵わなかった相手はいない。


 だが逆に言えば、純粋な魔力量だけでは、コアと融合したイチゴなどには勝てなかっただろう。


 あの時のイチゴの強さがモンスターの到達点なら良いが、そうだという根拠は無い。


 仮にそうだったとしても、ノアのように自分のスキルを公開していない強者が他にいる可能性もある。


 そこで、強くなる為の基礎である魔力量を更に上げるべく、スキルが載っていたサイトで新たにスキルを調べ、取得した。




[透明水晶効果上昇]




 このスキルは、透明水晶を割った時の魔力量の上昇率を上げてくれるスキルで、自由設定のスキルで、上昇率を1000倍にした。


 そして杠葉尾町にあるダンジョンへ来た理由は出現するモンスターにある。


 このダンジョンは20階層まであり、中は河川敷のような地形だ。

 1~10階層には蚊のようなモンスター、[ユズリカ]が出現する。


 蚊と言っても吸血されることはなく、攻撃もしてこない為、ビギナーランクに指定されているが、数があまりにも大群で、気持ち悪いことから人気は最悪。


 それでもドロップ率が高ければ行く人はいるだろうが、サイズが小さ過ぎるせいか、透明水晶以外のアイテムはドロップせず、しかも肝心の透明水晶のドロップ率すら低い。


 つまり普通なら価値のないダンジョンだが、公介にとっては人の目をほとんど気にせず、透明水晶だけが大量に手に入る最高のダンジョンである。


 早速隠密スキルを発動しながら飛行し、ユズリカの魔力を感じ取る。

 単体の魔力は小さ過ぎて感じにくいが大群でいる為、分かる。


 最初に遭遇したユズリカ。

 おそらく100匹はいるであろう群れを一網打尽にすべく、魔力で底の抜けた箱を形成し、上から閉じ込め、中で魔力を爆発させる。


 こうすることで狭い範囲に透明水晶がドロップするようにした。


 さらに魔力で巨大な手を形成し、ドロップした透明水晶を上から押し潰すことで1個ずつ割る手間を省く。

 直接手で割らなくても、自分の魔力で割れば、自分が割ったと見なされるのだ。


 魔力量を確認すると、今ので100程上がっていた。


「流石1000倍だな。多分上がれば上がる程、上昇率は下がるだろうけど、それでも凄い」


 効果に感動しつつ、次の群れに狙いを定めた公介は、夕方まで狩りを続けていた。






「もう充分か」


 魔力量が[10000]まで上がったことを確認し、引き上げることにした。

 最初の群れを倒した時の上昇率のままだったら、数万は上がっていても不思議ではないが、やはり上がれば上がる程上昇率は下がるようで、この結果となった。


「1万ってことは実質1000万か」


 魔法効果上昇スキルで効果を1000倍にすれば実質1000万の魔力を扱えることになる。


「あれ、待てよ。俺魔力制御足りてないぞ」


 魔力量と同じぐらい数値を上げないと、上手く魔力を扱えない魔力制御の方を忘れていた。


 今までは魔法効果上昇スキルのお陰で100万まで魔力を扱えた、というだけで、実際の魔力量は魔力制御とほぼ同じだった為、大丈夫だった。


 いや、寧ろ一国との訓練の成果で魔力制御の値はかなり上昇していたが、1万には程遠い。


 魔力制御の値を上昇させるアイテムは現在確認されておらず、魔力を使い続けることで自然と上がっていくものだが、これはどうしたものかと悩む公介。


 本当に魔力を扱いずらくなるのか検証する為、100の魔力で爆発を起こしてみることにした。


「......今まで通りだな」


 特に魔力が暴発するようなことは無く、普通に100の魔力の爆発が起こっただけだ。


「もしかして魔力制御の値を越えた魔力を使うと、扱いずらくなるのか」


 と思いつつも、ここでそんな規模の爆発を起こす訳にはいかない。

 群馬のダンジョンで貸し切りにしてもらうのだから、誰もいないその時に試せばいいだろう。


「いや、誰もいないダンジョンならあるか」


 自分だけのダンジョンをいつでも出現させられることを忘れていた。


 ダンジョンの穴を出現させ、中へ入る。


「よし。試すか」


 子象のモンスターは出現させていない。

 魔力1万の玉を形成し、遠くへと投げつける。


「うぉ!? 流石に1万は余波も凄いな」


 地面に着弾し、凄まじい爆発を起こしたが、


「でも魔力が扱いにくい感じはしなかったな」


 明らかに魔力制御の値より多い魔力を使ったが、やりにくさは感じなかった。


 ある一定の値に達すれば、魔力量の値と並んでいなくとも問題ないということだろうか。


 それともイチゴの言っていた公介の力が関係しているのか。


「随分派手なことをしてますね」


 門からイチゴが出てきた。


「イチゴか。検証してたんだよ」


「なんの検証を?」


 公介はイチゴに説明した。






「なるほど。でも良かったではないですか。魔力制御関係無く魔力が使えて」


「そりゃそうだけど......やっぱり理由は気になるだろ。ていうかお前何か知らないのか」


「どうでしょうか。そういえば、今日は何かお土産はないのですか」


 イチゴなら何か知っているのではと思い説明したのだが、ひょっとしてサバの時のようにエサで釣れば教えてくれるかもしれない。


「お土産? あー駅近の屋台で買ったビワがあったな」


 ビワは別に滋賀県の特産品では無いが、ビワが取れるダンジョンがあるらしいとイチゴに説明しながら渡した。


(あ、皮ごと食ってる)


 受け取ったビワを皮ごと食べているイチゴ。


「やはりモンスターにダンジョン産の食べ物はベストマッチです。まあ、魔力制御関係無く膨大な魔力を扱えているのは、貴方だからこそ、なのかもしれませんね」


 そう言い残し、また門へと戻っていくイチゴ。


「俺だからこそ、か」


 完全に納得した訳ではないが、取り敢えず、自分の力が関係しているのは間違いないと分かっただけでも、ビワをあげた甲斐はあったと思う公介は、自分のダンジョン、ユズリカのダンジョンから出て、帰路に着くのであった。

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