第69話 謎のモンスター再び
次の日。
凛子からの依頼を達成する為、杉並区のダンジョンへやって来た公介。
凛子が通っている学校の隣にあり、ランクもDなのだから自分で行けばいいのにと思っていた。
しかし出現するモンスターが虫型であることが、公介に任せた理由だ。
(あいつ強気だけど、虫は駄目だからな)
このダンジョンは30階層あり、全て同じモンスターが出現する。
受付を済ませ中へ入り、いつもと同じ様に隠密スキルを発動させ、感じ取った魔力の方へ飛翔する。
その先にいたのは、大きさ2メートル程のカブトムシ型モンスター、[兜虫]。
漢字はそのまんまだが、このモンスターからドロップする角を鍛冶スキルで製作すると、本当の兜が出来るのだ。
ダンジョン産の素材だから魔力を流せばモンスターの攻撃も軽減出来、格好良さと実用性を兼ね備えていると言える。
(あんまり気が進まないけど)
問題は格好いいカブトムシを倒さなければいけないことだ。
少年時代、大好きだったカブトムシをこの手で倒すのは、例え魔力で出来たモンスターであっても躊躇ってしまう。
それでも何とか生き物じゃないと自分に言い聞かせながら、魔力の光線で仕留めていく。
5本持ってきてくれたら充分と言われていたので、それ以上は狩らない。
凛子は福地と違い、ドロップ率のスキルは知らない。
つまりわざわざ多めに取る必要はないからだ。
透明水晶はその場で割るが、魔力量が1000にもなると、今まで割った全ての透明水晶を合わせてもほとんど数値が上がらない。
(どうせほぼ一瞬で回復するから1000だろうが1001だろうが誤差だけど)
買い取り窓口で角を鍛冶スキルの製作に使うことを伝え、持ち帰る。
黒紫水晶は買い取ってもらうが、Dランクモンスターの水晶3つなので600円だ。
(牛丼の大盛が食えるぐらいか...いやいや、こんな短時間で食事1回分稼げたんだからありがたい話だろ)
一瞬こんなもんかと馬鹿にしかけた自分に渇を入れるべく、今日の夕飯は牛丼に決めた。
凛子には放課後校門の前で渡すと約束している為、それより少し前にダンジョンへ来ていた公介は校門へと向かった。
到着すると、丁度下校時間だったようでゾロゾロと生徒が出てくる中、凛子の姿を見付けた。
「ホラ、頼まれてた素材だ」
角を5本渡す。
「ホントに5本も取ってきてくれるなんて、なかなかやるじゃない」
「ご満足頂けたようでなによりだ」
...
......
シャレはあまり受けなかったが、これで残すは6日後の群馬ダンジョンだけとなった。
滋賀県のとある田舎のダンジョン。
WMデバイスを使いながらモンスターと戦っている青年が1人。
グレイヴ型の武器でコアラ型モンスター、ビワコアラを倒すと、運良くアイテムがドロップした。
「よし」
彼はドロップしたビワのようなアイテムを回収すると、次のビワコアラを探しに行く。
このダンジョンは10階層まであり、果物のビワのようなアイテムが成っているダンジョンで5階層まではビギナーランクに指定されている。
だが6階層からはCランクモンスター、ビワコアラが出現する。
倒すと最低1つ、多ければ2桁にも届く量のビワをドロップし、Cクラス以上の実力を持った開拓者ならこちらの方が効率が良い。
彼はスキルに恵まれず、今までは5階層までを活動範囲としていたが、20歳を迎え、WMデバイスによってCクラス開拓士の免許を手に入れてからはビワコアラを狩り続けている。
田舎なので同業者の数も少なく、さらに人が少ない10階層で活動していたが、夕方になり、最早見渡す限り誰もいなくなっても、彼は狩りを止めない。
それは、彼の生活環境が関係している。
年の離れた妹1人と弟3人の養育費を貯める為だ。
交通事故で父を亡くし、母もそのストレスで持病が悪化し、最近他界した。
保険のお陰で直ぐに食いっぱぐれることは無いにしろ、自分の次に最年長の長女ですら、まだ13歳。
4人には経済的な事情で進路や夢を諦めて欲しくないという思いから、自分が稼がなければ、と心に決めている。
「今日はこの辺で切り上げるか」
20時になり、夕食は長女が担当してくれるとはいえ、そろそろ帰ろうかと思ったが、ビワの木にうっすら人影のようなものが見えた。
(こんな時間に俺以外にも同業者がいたのか)
別に声をかける必要も無いが、その人影が赤っぽい色をしているような気がした。
(人...なのか)
妙に気になり、少しずつ近付いて行くと、徐々にその輪郭が露になっていった。
そして、接近に気付いたのか、顔をこちらへ向け、目があった瞬間、
(!?)
距離があっても分かる。
明らかに敵意を持って、こちらへ向かってきている。
逃げるか応戦するか迷っている一瞬のうちに距離を詰められ、大剣をこちらに振ってくる。
「グッ...なんて力だ」
辛うじてグレイヴでガードするも、そのまま吹き飛ばされてしまう。
その一撃だけで、戦ってはいけないと判断するには充分だった。
「モンスターなのか。何か喋っているようにも聞こえたが」
鎧のような、はたまた怪獣のような皮膚の見た目からモンスターなのだろうと思ったが、何か話しているようにも聞こえた。
しかし、あまりに一瞬の出来事に考えている余裕は無く、聞き間違いだと判断し、帰還の門へと急いだ。
門に到達し、後ろを振り返ったが、追ってきてはいなかった。
元々追う意思が無かったのか、途中で諦めたのかは分からなかったが、戻って確かめる気など絶対に起きない。
(どう考えてもモンスターだが、このダンジョンにあんなモンスターは出現しない筈だ。明日受付で聞いてみるか)
田舎で人も少ないことから、今の時間、スタッフは帰ってしまっている。
代わりに設置してある機械に開拓士免許をかざし、ドロップしたアイテムを入力するシステムだ。
明日、受付兼買い取りスタッフにアイテムを買い取ってもらうついでに、あのモンスターについて聞いてみようと思った。
その夜、WMデバイスの生みの親、マベルは自身の研究室で、ある映像を見ていた。
そこへアイラがやって来る。
「どうしたマベル。こんな時間に呼び出して」
「ああ。AIがちょっと面白いデータを見つけたんだ」
WMデバイスには犯罪抑止と製品の品質向上目的で、使用中は録画機能がオンになり、マベルの研究室へ映像が送信される。
ダンジョンの中に居た場合は、外に出た時に送信されるが、世界中のデバイスが記録した映像を見る時間はない為、AIが使用者やモンスターの行動パターンを分析し、今後に生かせると判断した映像のみを別のフォルダに分けている。
マベルが見ていたのはその中の映像だ。
「どこのダンジョンの映像なんだ?」
「ニッポンの滋賀県という場所のダンジョンなんだが、このモンスターを見てくれ」
マベルが示した映像には、人型の赤っぽい色をした怪獣のようなモンスターが映っている。
「このモンスターがそんなに重要なのか」
ダンジョンなのだからモンスターが映るのは当然だと思うアイラだが、
「そうだね。このダンジョンはおろか、世界中でも見つかっていない上に、言語を話しているかのような鳴き声を出していることを除けば、普通のモンスターだ」
「なに...それは確かか」
話に食い付いてきたアイラに、さらに説明する。
「ああ。全てのWMデバイスが記録した映像をAIに調べさせたが、このモンスターと一致するモンスターはいなかった。世界中が公開しているあらゆるデータベースにも載っていないモンスターだ。さらに言語のような鳴き声も解析したが、おそらくこの世界のどの言語でもない」
それを聞いて驚くアイラだが、マベルはこれから何をするか決めていたようだ。
「サプライユニットもたった一撃だけでほとんど魔力を消費している。このモンスターの情報がもっとほしい。だからこのデバイス使用者に託してみないかい?」
マベルが持っているのは新型デバイスだ。
「新型デバイスをか。わざわざそのデバイス使用者に託さなくても、俺が直接出向けばいいだろう」
「データが少な過ぎるモンスター相手に友人を派遣するのはいささか気が引けるのだよ。それに君1人では新型デバイスのデータ収集量にも限界があるだろう。そろそろもう1人ぐらいデータ取りがほしいと思っていたんだ」
渋々納得するアイラ。
「分かった。俺が届けに行くから、詳細な場所を教えろ」
そう言って、新型デバイスを渡し、ダンジョンの詳細な場所を教えるマベルであった。
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