第68話 頬袋と門

 次の日、先ずは収納袋の素材の依頼を済ませることにした公介。

 ダンジョンの最寄りは北海道の木古内駅な為、今回は新幹線を利用した。


(なんでまた北海道なんだよ。まあグリーン車だったからいいけど)


 協会直々の依頼なだけあって、グリーン車の券を手配してくれていた。


 空を飛んでいった方が速いが、低空でそんなことをしたら、地上の窓ガラスが割れてしまうかもしれない。


(地上に影響がないところまで上昇したら怖いし)


 着いたのは昼頃で、昼食を取り、隠密スキルを使いながら飛翔し、ダンジョンへ向かった。

 駅からダンジョンへは車で行くような距離の為、時速5、60キロで飛んでいっても公共交通機関より早く着ける。


 場所はかなり都会から離れているが、日本で唯一収納袋の素材になるダンジョンな為、同業者が多く設備も整っている。


 収納袋の容量は1度にいくつシマウリスの頬袋を加工するかによって決まり、50階層まであるこのダンジョンは全てシマウリスが出現する。


 受付を済ませ中へと入ると、森の地形であり、周りに誰もいないことを確認し、再び隠密スキルを発動した。


 そのまま飛翔し、シマウリスの魔力を感じ取りながら、人差し指からの魔力の光線で次々と仕留めていく。


 シマウリスは体長が1メートル程あり、逃げ足が素早く、追い詰められた時もその足を生かした攻撃をしてくる。

 だが相手が隠密スキルで見えも聞こえもせず、まさか空まで飛んでくるとは思いもしないだろう。


 ドロップした透明と黒紫の水晶、頬袋の3つを回収し、また次のシマウリスを探す作業をひたすら繰り返すこと約5時間。


 600個の頬袋を入手した公介。

 透明水晶は自分で全部割ったが、黒紫水晶と頬袋は直接自分の元へ届けるよう福地から言われている。


 スキルが露見するリスクを極限まで減らしたいのだろう。

 公介にとってもありがたい措置だ。


 買い取り窓口へ行くと、協会から直々に依頼を受けていることを証明するカードを提示した。


「協会から依頼されてるんで、自分で持っていきます」


「畏まりました。ダンジョンでのご活動お疲れ様でございます」


 福地から渡されたものだが、協会から依頼を受けるのは、限られた優秀な開拓者であり、大切なビジネスパートナーな為、口調ももの凄く丁寧だ。


 その後、誰にも見られていないことを確認し、隠密スキルを発動した公介は予約していた協会のホテルまで飛翔し、向かった。


 場所は函館空港の近くで、地上に影響を与えない速度でも飛翔した方が早く着くと判断したからだ。


 近くのホテルでもよかったが、次の日、飛行機で熊本まで向かうつもりなので、空港の近くの方が都合がいい。


 インスタントゲートのダンジョンは熊本県阿蘇市にある阿蘇山の近くらしいのだ。


 ホテルに着いた公介は夜を過ごし、次の日。

 朝一の便で、羽田空港を経由しながら熊本空港へ向かった。


 着いたのは14時半頃で、また隠密スキルを発動しながら飛翔し、目的地には15時頃に着いた。


 指定された場所へ行くと、森の中に小屋が建っており、立ち入り禁止と書かれ、厳重に閉まっているのが確認できた。

 だが場所はここで合っている筈だ。


 おそらくまだ公にされていないことから、出入口の穴を誰にも発見されないようにする為の措置だろうが、こんな森の中で見つけられる者などいないと思った公介。


 よく見ると入り口には協会のスタッフであろう人が座っていた。

 近付くと開拓者免許の提示を要求される。


「主人公介様ご本人であることを確認いたしました。このままお進みください」


 そう言って厳重なドアを開錠したスタッフ。

 ここには自分以外の開拓者も来るのか尋ねると、まだ一部だが公介のように協会から秘密裏に依頼された開拓者が来るのだとか。


 中へ入るとシマウリスのダンジョン同様森の地形であり、階層は10階まであるらしい。

 魔力を感じた方向へ飛翔するが、今日は公介以外に依頼された開拓者はおらず、誰の目も気にする必要はない。


 魔力を感じた方へ来てみたが、モンスターは何処にもいない。

 その代わりと言うべきか、あったのは場にそぐわない不自然な門。


「もしかして...これか」


 魔力の反応は明らかにあの門から感じる。

 パッと見ただけでも20メートルはありそうなあれが、おそらくモンスターなのだろう。


「門のようなモンスターって聞いたけど、ようなっていうか、ただの門だな」


 福地にはモンスターが少しでも異変を見せたら、直ぐにその場を離れろと言われていたので、遠くから魔力の光線を放つ。


 光線が門を貫通すると、門が光りだし、ひとりでに爆発を起こした。


「刺激を与えると自爆するってことか。なんか罰当たりなことしてる気分だ」


 門があった場所へ向かうと、いつものように水晶はドロップせず、福地が見せてきたのと同じ形をした門がドロップしていた。


「加工スキルを使わなくても使えるアイテムなのはいいけど、水晶のドロップはなしか」


 ドロップ率のスキルを使ってもドロップしないということは、そういうことになる。


 次の門を見つけると、今度は光線ではなく魔力玉をぶつけてみた。


 一瞬で跡形もなく破壊すれば爆発は起きないのではないかという推測を検証する為だったが、門に当たった魔力玉は大爆発を起こし、それに門の自爆も含まれているのかは分からなかった。


「これじゃ結局同じだ」


 寧ろ門の自爆が可愛く思える程の爆発だった。


 結局最初の光線の方が手っ取り早いと判断し、門を壊し続けること約1時間。


 100個のインスタントゲートをドロップしたところで、引き上げた公介。

 最低5個と言われていたが、その20倍の数になってしまった。


「あの人も言葉の選び方がうまいよな」


 たった1個を公介に譲るだけで、10個も20個も取ってこいと言われたら理不尽と思うかもしれないが、5個と言われると、5個だけしか持ってこなかった時に、何だか申し訳無い気持ちになってしまう。


 時刻は16時過ぎで、この時間なら飛翔して熊本空港に戻れば、今日中に羽田空港へ着くので、出入口のスタッフへ声をかけ、急いで向かった。


 たった1時間で出てきたことに不思議がっていたが、協会が依頼した開拓者相手に、本当に依頼を達成したのかなど疑うわけにもいかないのだろう。

 営業スマイルで見送られた。


 予定通り夜には羽田空港に着き、隠密スキルを使いながら飛翔して自宅へと帰ってきた公介。


「そろそろ本当に引っ越すか」


 前々からもう少しいいところに引っ越そうかと考えていたが、後回しにしていた。

 今持っているお金でも充分一軒家を建てられるが、どうせならもっと貯めてとんでもない家を建てるのもいいと思っていたからだ。


 福地へは既に、明日シマウリスの頬袋とインスタントゲートを届けに行くと連絡済。


「取り敢えず後は凛子に依頼されたドロップ品と、群馬のダンジョンだな」


 次の住居を決める前に、今やるべきことを終わらせてしまおうと思った公介。






 次の日。

 福地の元へやって来た公介は、2つのダンジョンで得たドロップ品を渡したが、依頼達成が早いことに驚かれた。


「これは凄い。頬袋と黒紫水晶もそうだが、インスタントゲートを100個も取ってきてくれるとは。あんな無人ダンジョンを貸し切りにするだけで...おっと失礼」


 予想していた数より多かったことに思わず本音が出る福地。


「今のは聞かなかったことにしますから、ちゃんと許可出して下さいよ」


「勿論約束は守るさ。それにこれは臨時報酬も出さなければいけないな」


 元々シマウリスの報酬を受け取らない代わりに群馬ダンジョンへの入場の許可を求めたが、それはインスタントゲートの件で取引したので、予定通り頬袋と黒紫水晶の報酬は貰える。


 つまり福地の言った臨時報酬とはインスタントゲートの方。

 最低5個と言ったのに100個も持ってこられては、ダンジョンへの入場許可と貸し切りだけでは、天秤が釣り合わないと判断したのだ。


「臨時報酬なんていいんですか。貰っても」


「協会だけ得をするのは申し訳無いからね。それに前にも言ったが、金持ちの連中は優先的に融通してやると言えば定価より高値でも買ってくれるんだ。金持ちだけでなく、庶民にも防災袋ならぬ防災収納袋が流行ってきているからね。1人1人の購入数は少ないが、絶対数が多い分、日本中で収納袋が不足すると言われている。だから臨時というより報酬の上乗せの意味も入っている」


 金持ちが収納袋で貯蓄しているという情報がどこから知れ渡ったのかは不明だが、不足すればさらに手に入れたくなるのが心理だ。


「分かりました。ありがたく頂戴します。では貸し切りはいつからなら大丈夫なんですか」


「そうだね。最短でも1週間はもらいたい」


 そう言われ1週間後に決定してもらった公介。


 群馬のダンジョンを除けば、残すは凛子の依頼だけ。

 1週間後迄にそっちの方も済ませてしまおうと思う公介であった。

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