第73話 報告とエマ
翌日、副会長室へやって来た公介。
ホントは来たくなかったが、福地がどうしてもダンジョンの成果を聞きたいと言うので仕方なくだ。
(わざわざ大したことないダンジョンを貸し切りにしたんだから、確かに理由は気になるか)
普通ならダンジョンの出入口のスタッフがドロップ品を確認するが、公には閉鎖されているダンジョンの前でそんなことをするわけにもいかず、結局剣以外は全部収納袋に入れたままだ。
「毎度毎度呼びつけてしまって申し訳無いね」
「それは構いませんが、やっぱり未踏の階層からのドロップしたアイテムは気になるってことですか?」
その言葉に頷く福地だが、理由は他にもあるようだ。
「こんなこと言うと現地の人に失礼だが、あのダンジョンからドロップするアイテムは正直そこまで役には立たない。そんなダンジョンの未踏の階層へ行きたいと言われれば、理由が気になるのも無理はないだろう?」
「確かに気持ちは分かります」
人を殺さずに無力化出来る武器が護身用に欲しくて、友達に相談したところ、今回のダンジョンならあるかもしれないと言われた。
特に隠す必要性も感じないので、そのままを伝えた公介。
「なるほど。納得は出来るが、大した行動力だ。それで、通話した時も聞いたかもしれないが、収穫の方はどうだったんだい?」
(通話した時、公介君は収穫に対してぼちぼちだと答えた。その場でどんな素材かを確かめるには鑑定スキルを使うしかない筈。ぼちぼちの意味によっては鑑定スキルも使えるということになるぞ)
ここも宝箱の剣以外は全て報告した。
「ほほう。これが未踏の階層の素材か。鑑定してみないと何とも言えないが、これはうちで買い取ってもいいのかい?」
「はい。お願いします」
(わざわざ貸し切りにしてまで手に入れたのに、こうもあっさり了承するとは。やはりこの素材がどういうものか予め知っていると見ていいのか)
考察している福地だが、深読みし過ぎても仕方がないと思い、話を続ける。
「分かった。金額を決定するには少し時間をもらう必要があるが、アイテムはこれで全部でいいのかな?」
「え、あ...はい全部です」
明らかに動揺した反応に福地は考える。
(ん? これはまだ何かアイテムを隠していると見るべきなのか。聞くべきか......いやここで問いただして悪い印象を持たれると今後の関係に響きかねる。だが気になる)
「そうか、これで全部か...因みに武器そのものがドロップしたとかは無かったのかい?」
「え」
一時停止のように固まる公介。
(適当に理由つけて探ってみたが、まさかビンゴか)
(どこでバレた!? この剣を知っているのは俺とイチゴだけだぞ)
ここは攻め時だと判断した福地は同情するように続ける。
「武器は国への申請が面倒だからね。確かに見せるのを躊躇ってしまう気持ちも分かるよ。もしかしたら本命はその武器なのかもしれないが、私なら武器を調べずに許可だけを出すことも可能だよ。ある条件を呑んでくれたら」
「条件?」
武器がドロップしたことを否定しなかったことで、自分の適当な予想が当たっていたとほぼ確信した。
「武器以外の、今回ドロップしたアイテムを全て譲ってもらえるなら、武器のことは詮索せず、所持の許可だけを出そう。どうだい?」
「......それでお願いします」
少し考えた後、了承した。
正直今回の収穫は剣以外対して必要のないものだったからだ。
それらと引き換えに剣の詮索をしないでもらえるのなら悪くない取引だと判断した。
素材や黒紫水晶を渡す公介。
武器の携帯は、基準を満たしたケース、シールとバッチが必要だが、許可シールとバッチは協会側から貰えるので、自分で用意する必要はない。
ケースは基準さえ満たしていれば何でもいいが、この協会の売店にもケースが売っているので、買いに行くことにした。
公介が去った後、副会長室で1人になった福地。
彼が公介との取引で得られたメリットは2つ。
1つは単純に素材や黒紫水晶をタダで得られること。
もう1つは公介が見せるのを躊躇った武器が、目の前にある素材全てを差し出しても隠したい程、貴重なものだということが証明されたこと。
そして取引したことで生じた事では無いが、まだメリットはあった。
公介も失念していたことだが、黒紫水晶の魔力を調べれば、その水晶がドロップしたモンスターが、どの程度の強さだったのかを大方知ることが出来る。
「結果が楽しみだ」
自分しかいない部屋でそう呟いた福地。
(お、これいいな)
売店でケースを見ていたところ、白に金色の線が入った柄を気に入った公介は購入。
協会を後にした。
次の日。
鑑識に回したドロップ品の鑑定が終わり、報告書に目を通す福地。
「急に仕事を増やしてしまったスタッフ達にはきちんと残業代を......」
普通なら1日で終わる調査ではないが、どうしても早く結果を知りたかった福地は、スタッフに無理を言ってしまった。
だがそんなスタッフに対する懺悔の気持ちより、報告書の内容に目を奪われた、と同時に笑みが溢れる。
「素晴らしい......」
黒紫水晶の魔力の量はAAランクモンスターに匹敵するとの記載を見て、そう呟いてしまった。
AAランクモンスター相当の黒紫水晶の数は20。
武器の申請履歴も無いということは、ドロップ率のスキルを使用していたとしても20体のAAランクモンスターを武器無しで倒したことになる。
「やはりドロップ率のスキルだけとは考えられないな」
魔力量に物を言わせて倒したのだとしても、何かしらのスキルが絡んでいると見た福地。
AAランクモンスターを倒せる者自体は日本にもいるが、1人で20体、しかも移動する時間を含めれば、かなり早いペースで倒したのだろう。
そんな芸当が出来る者は、余程自分とモンスターとの相性が良くない限り、現時点日本でもほぼいない。
一国のようなベテランに、丁子のような若い実力者がいても、世界相手に大きく出られるかと言われれば......というのが現状。
もし世界中のトップの実力者を同時に戦わせたら、1位は当然エマだが、上位も大国が独占するだろう。
だが既にこの年齢でAAランクモンスターを1人で倒せる域に達しているのなら、将来深い階層のモンスターの素材をいくらでも取って来れる存在に......
「いずれは日本を代表するような開拓者になるかもしれない。そうなれば世界をリードし、強き日本を取り戻せる。もうアメリカの犬などとは言わせんぞ」
今後の成長が楽しみになった福地であった。
アメリカ、エマ達の拠点兼住居。
ダンジョンから帰ってきた4人は1階の共有スペースで1日を振り返っていた。
「ふう。エミーちゃん、今日も一段と張り切ってたわね」
「前とは大違いだな」
「政府のお偉いさん達も喜んでるでしょうね」
「まだ足りない」
式典以降、エマ達はほぼ毎日ダンジョンへ出向いていた。
理由はもっと強くなるため。
インドダンジョンで遭遇した融合体には手も足も出ず、さらにそれを撃破したであろうニッポン人のコウスケ アルジ。
さらに式典ではノアと名乗る者がやったこと。
おそらくスキルによるものだろうが、危険なスキルである可能性が高い。
いつの間にか世界一の座が奪われている事に不満を感じたエマは、ダンジョンへ出向き、透明水晶をひたすら割り、あわよくばスキルの書も入手したいと考えていた。
「今のままじゃダメ。もっと強くならないと」
「その意気よエミーちゃん。折角やる気になったんだから、イケるとこまでイっちゃいましょう」
「そうだ。天才が努力したらどうなるか。世界中に思い知らせてやろう」
「これはとんでもないことになりそうね」
エマの気合いの入れように、嬉しくなった3人であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます