第65話 各国の意向
ノアの声明後、世界中でトップがそれぞれ議論を行っていた。
日本でもそれは行われており、
「新国家......今ある土地からの独立ではなく、新たに土地を創っての要求とは。何かのスキルなのでしょうが...」
崖田総理が悩んでいると、林産副総理が割って入る
「そんな承認、認めるわけにはいかない。が、否定すれば攻撃すると宣言している以上、高らかに認めないと発言するわけにもいくまい」
式典での報告や実際に土地を出現させるだけのスキルを持っている以上、戦略級の兵器というのも単なるホラ吹きだと一蹴するのは危険だと言った。
「専守防衛の日本では、こちらから何か仕掛けることは出来ませんからな。アメリカの動向を見てからでいいのでは」
「そうだ。こういう時こそ、普段核で優位に立っている国が率先して行動すべきだ」
幹部達は様子見すべきだと提案する。
「うむ...野党からは他国の顔色を伺うなと言われそうですが、アメリカが認めるなら我が国も前向きに検討。認めないなら、本当に戦略級の兵器で攻撃されるのか様子見。というのがやはりよろしいのでしょうか」
総理が発言すると会議室の扉がノックされる。
入るよう促し、用件を聞いた。
「この後、先進国や大国のトップでオンライン会議を開くとの通達がありましたので、ご報告いたしました」
「なるほど、各国の反応を待つのではなく皆で話し合って決めましょう、ということですか。分かりました、直ぐに準備します。翻訳機を用意してください」
まとまりかけた会議を一旦中断し、オンライン会議の準備に入る総理。
そして、開始時刻になり、モニターにそれぞれの首相が映し出される。
「今回、この会議を提案したアメリカのビディエンです。急な話で慌ただしくなってしまったことは申し訳ありません。ですが、この問題は一刻を争います。皆さんもご存じの通り、新国家エデンの承認についてであります」
議題は当然皆も周知しており、発言を待っている。
「私から提案させていただくと...アメリカは、新国家の承認に前向きな姿勢です」
その発言に、一瞬時が止まったように皆感じた。
自分の国で行われた式典でテロを起こされたのだから、絶対に否定派だと思われていた。
「ちょっと待ちなさい。テロリスト相手に屈するとは、アメリカ様は随分と弱気ですな。自国民も犠牲になったというのに」
「公海を占拠しておいて、何故新国家など認めてやらねばならんのだ」
中国の最高指導者とロシアの大統領は認めない方針のようだ。
大国同士の意見が割れていることで、他の国々は様子を伺っている。
「式典で起こったテロ事件。モンスターを呼び寄せ、ただの紙にしかみえないものを爆発物に変え、一夜で広大な土地と軍事施設を造り上げる。スキルによるものなのか、そうでないのか。どちらにせよ、技術力の正体が不明な以上、戦争を起こしては国民の安全を守りきれないとの判断です」
仮に核ミサイルやインドダンジョンで運用した新型ミサイルを使っても、直径1000キロの土地を一度に破壊することは不可能。
勝利したとしても、向こうからの反撃でこちらにも大きな被害が出る可能性があると、危惧していた。
だがそれでも中国やロシアは納得しない。
「危険が伴っても戦うべきだ。式典会場では争いが目的ではないと言っていたらしいが、それが本音だという証拠は何もない。1日で広大な土地と軍事施設を造り上げる技術力が危険だというのは確かに同感だ。しかし、だからこそ明日明後日と日数が経過すれば、この先我々では対処出来ない程の力を持つ可能性も充分に考えられる」
「その通りだ。将来危険な存在になり得る芽を野放しには出来ない。国民を大事に思う気持ちは同じだが、将来我々に矛先を向けてきた時、手がつけられなくなっていたら、どう責任を取るつもりなのかね」
にらみ合いが続く中、崖田総理が手を上げた。
「日本はアメリカの意見に賛成であります」
「フンッ。結局日本はアメリカ様の仰せのままにということか」
話に割って入ってきた上にアメリカの味方をした日本に皮肉を言うロシア。
「友好的な国の意見を尊重したいのはお互い様では?」
その言葉で両者の空気が重くなるが、
「良いではないですか。我々だけの会議ではありませんから」
中国の言葉で冷静になったところで、話始める。
「争いが目的ではないとの発言の信憑性が不明なのは私も同じ意見ですが、もし本当に全面戦争を望んでいるのなら、昨日の式典で参加した人達を皆殺しにするような兵器を用いてもよかった筈。それをしなかったということは、軍事力をアピールするための行動だったと解釈するべきです」
その発言にフランスの大統領が声をあげる。
「向こうが争いを望んでいるかがそんなに大事なのか。式典で人を殺し、公海を占拠して軍事施設で我々に脅迫。戦う理由は充分にあると思うが」
ここで中国がもう一度声をあげた。
「一先ず、この会議に参加した全員の意見を聞きたい。戦うのかは別として、新国家の承認に反対な国は手をあげてほしい」
約8割の各国の代表が手をあげる。
2割の賛成はアメリカの賛成に便乗してだろうか。
「では手をあげた中で、武力的行使も辞さない考えの国は手をあげ続けてくれ」
武力の行使という言葉で、過半数以上が手を下げた。
そういったことは他の国に任せるという気持ちだろう。
大多数の国が認めない意向を示し、ほんの一部ではあるが、武力行使も辞さない考えを示していることが判明した時、各国代表が映っているモニターに新たな人影が追加された。
「武力の行使なんて、物騒なことを言うではないか」
全員が驚愕した。
そこに映っていたのは、新国家の承認を要求してきた張本人。
ノアだったからだ。
「貴様!? どうやって!?」
ビディエン大統領が問いかけるも、
「どうでもよいではないか。それより、この場所がどこか分かるかね」
どんな手を使って会議に参加してきたかは不明だが、ノアがある場所の地図を見せると中国の最高指導者が口をあける。
「中国...だな」
「ご名答」
見えたのは中国北西部の砂漠。
「承認に反対するだけでなく、武力行使も辞さないとは。結局戦争を決めるのは戦場に行かなくてもいい者というわけだ。ならば戦略級の兵器をどこにでも攻撃出来ることが嘘ではないと証明してみせよう」
「どうするつもりだ。ミサイルでも撃つのか」
中国の発言にノアは首を振る。
「少し違う。撃つ必要はない。私が直接落とすのでな。だが安心しろ。写真で見せたように、今回だけは人がいない場所で証明しよう」
要するに、今から中国北西部の砂漠に戦略級のミサイルを落としてやろうと言われているのだ。
自分が話し終わった後、ノアは映像を切断した。
「今すぐミサイルに備え、迎撃体制に入れ。人工衛星でミサイルを確認し次第、こちらからも発射用意だ」
中国の最高指導者が画面外の人間に向けて指示を出している。
ノアの言っていたことは本当なのか。
固唾を飲んで見守っていると、
「バカな!? もう落ちただと!?」
事態は悪い方向へと進んでいった。
衛星はミサイルを確認出来なかったが北西部の爆発は捉えていたのだ。
「よくも堂々と......報復だ。こちらからも発射するぞ」
そういい残し、通信を切った中国。
「始まったか......このまま中国の攻撃で沈んでくれればいいのだが」
ビディエン大統領はそう呟いた。
新国家の承認に前向きだと言っていた者とは思えない発言。
最初から他国に解決してもらう算段だったのだろうか。
しばらく後、
「やはり撃ってきたか」
飛んでくるミサイルに、エデンの地でそう呟くノア...ではなく、ノアの隣にいる人の形をした何か。
「因果応報というべきか。だがあの兵器には帰ってもらう」
その者が手を掲げると、ミサイルは反転し、来た方向へと戻っていってしまった。
「素晴らしい...なんという力だ」
横で感激するように口を開けているノア。
「後は任せたぞ」
「はっ! 新国家エデンは必ず建国させてみせましょう」
穴を開き、去っていく姿にそう言い残したノアであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます