第60話 手紙
次の日、夕方頃自宅のマンションへ着いた公介は、福地に一報を入れる。
会いに行く必要は無いだろうが、一国の件は福地から伝えられたのだから、連絡ぐらいはしておきべきだと思ったからだ。
「公介君。丁度良かった、君に手紙が届いているんだよ」
「え、手紙?」
自分への手紙が何故協会に届くのか。
通話だけで済まそうと思っていたが、画面から手紙は受け取れない為、協会へ向かった。
「戻ってきてたんだね。どうだった? 北海道は」
副会長室に入ると、福地が出迎える。
手紙の前に北海道での件を聞きたいとのこと。
決闘や自衛隊への勧誘では無く、自分に素質があると言われ、特訓していたことを伝える。
「ほほう。マンツーマンで直々に指導を受けていたのか。それなら、かなり戦闘の方にも自信がついたということだね」
「はい。凄く勉強になりました」
節約は必要無いにしろ、高密度化や、飛翔、形成などは本当に使える技術だ。
「それは良かった。協会の人間の成長は協会の成長にも繋がるからね」
「でもCクラス免許は20歳迎えないと取れませんから」
いくら自分が強くなろうと年齢制限はどうにもならない。
「そうだね、流石の私でも18歳の子をCクラスにするのは難しい。だが君は既にDからC、Bクラスへの昇格条件の1つであるドロップ品の買い取り金額は既に満たしているからね。身体検査に合格する為に鍛えておくのは大事だ」
要するに、20歳になるまではどうしようもないが、CクラスやBクラスへの昇格条件の1つであるドロップ品の買い取り金額。
それぞれ1000万円と3000万円のドロップ品を得るという条件は既にディジカの時に満たしているのだから、後は身体検査の合格だけを意識していればいい。
「言われてみればそうですね。Aクラスも目指したいですし」
Bクラスまでは昇格に明確な基準があるが、AとAAクラスはそういったものがない。
開拓者の間では買い取り額が5000万と1億、身体検査の結果がBクラスの基準よりずば抜けている、などが条件として囁かれているが、あくまで噂。
経験や、倒したモンスターの種類や数など、協会が実績を加味して判断される。
「AやAAには明確な基準が無い。ということは君の身体検査の結果次第では、私のさじ加減で判断することも可能だ」
どんなに公介が不釣り合いに見えても、協会が判断したと言われれば基準が無い以上、文句は言えない。
「大丈夫なんですか。そんなことして」
「お、自分より私の心配をしてくるとは。君の検査結果次第と言ったのだが、まるでそちらの方は余裕でクリア出来る、とでも言いたげだね」
やはり公介にはドロップ率のスキル以外にも何かあると睨んでいるのか、詮索するような言い回しだ。
「インドダンジョンでも生き残って、一国さんの指導も受けたんですから。多少の自信は付きますよ」
動揺すればますます怪しまれるのだから、ここはそれっぽいことを言って堂々とする。
「それもそうか。これからも活躍に期待しているよ、スーパールーキー」
話が終わると、やっと手紙を渡してくる福地。
「勿体振ってすまないね。アメリカからの手紙なんだが、差出人が差出人なだけに、私も内容が気になってしまって」
「そんなに凄い人なんですか......」
アメリカからと言われた通り、差出人の名前は英語で書かれている。
Emma・S・Nelkis
「......え」
何かの間違いかと思い何度見ても、差出人はエマ・S・ネルキスと書いてある。
「なんであの人が」
融合体のイチゴを倒した後、一国達と合流した時には、苦しんでいる姿を目撃しただけと話していたが、やはり世界最強の開拓者の目は誤魔化せなかったのか。
(落ち着け。まだそうと決まったわけじゃ)
彼女の用件を確認する方法は簡単だ。
手紙の内容を読めばいい。
恐る恐る折り畳まれた紙を開くと、書いてあった内容は日本語だった。
式典来て
「4文字!?」
なんとも分かりやすい手紙だが、写真が送付されていることに気付く。
イタズラだと思われない為か、[式典来て]と書かれた紙を持ちながらの自撮り写真だ。
福地にも手紙を見せた。
「これは...確かに淡泊な性格だとは聞いているが、ここまでとは」
何故エマがそんなことを公介に言ってくるのかは不明だが、問題はそれよりも、
「俺が式典行かないって思ってんの、知ってるんですかね」
「いや、彼女に何らかのコネがあったとしても、日本から誰が何人参加するかの表明を出してから、彼女に伝わり手紙が届くには早すぎるな」
なら公介の心境云々抜きで、何か目的があって式典に来てほしいのだろう。
つい先日行かない旨を話した一国が直ぐエマに情報をバラし、もう手紙が届いたとも考えられない。
「日本最強の次は世界最強とは、君もさぞ大変だろう。どうする? 今なら1人追加で参加すると追って伝えても間に合うが」
「行くしかないですよ。断ったら何をされるか分かったもんじゃない」
ここで断れば、私の誘いを断るなんて、と因縁をつけられるかもしれない。
「分かった、そう伝えておこう。だが、少し気を付けた方がいいかもしれない」
「え、何にですか」
流石に自分の命を狙う為に来させる訳ではないと思ったが、福地が心配しているのはエマに関してではなかった。
「最近、ある勢力が少し幅を利かせていてね。エデンというコミュニティを形成しているのだが、有用なスキル持ちだけで構成されていて、今もそういった連中を勧誘しているんだ」
「エデン...ですか。確か...なんかで事件起こしてましたよね」
何となくテレビのニュースでそんなグループ名を聞いたことがあるような気がした。
もしかしたらSNSなどで見かけた可能性もあるが、どっちでもいい。
「そう。最初はクラブ活動のようなものだと思って、皆対して意識はしていなかったが、勧誘を断った人をリンチする事案が発生してから、一気に知名度が上がったんだ」
そんなことをすれば組織のイメージが悪くなるだけだが、それだけ強気に出れる程、密かに勢力を拡大させていたのだろうか。
福地によると、既に世界中でエデンに加入した者がいるらしい。
「式典と言ってもお祭りみたいなものだからね。作戦に参加した人達以外にも、有名な開拓者が来ることもある。何かしらのアプローチを仕掛けてきてもおかしくはない」
流石にエマや一国などのエリート中のエリートがいる中、勧誘に断った連中をリンチすることは出来ないだろうが、そんなビッグイベントで何もしてこないとも思えない。
「分かりました。気を付けます」
「ああそうしてくれ。あまり1人きりにはならないように」
福地からの忠告も終わり、その日は自宅へと戻った。
「面倒なことにならなければいいけど」
自分なら襲われても大丈夫だが、厄介な連中に目をつけられるのは御免だと思う公介であった。
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