第57話 飛翔と形成

 午後になり再開する前に、一国が青水晶を何個か渡してきた。


「こんな貴重なものいいんですか」


「お金は結構持ってるからね。魔力が枯渇したら、遠慮使ってくれ」


 自動で回復出来るスキルがあるのに勿体無いと思ったが、仕方がない。

 ありがたく受け取った公介。


 その後も一国から魔力の使い方をさらに学び...






「凄いな。もうここまで出来るとは」


 一国には及ばないが、1時間程の練習で、流す場所の限定、密度の高め方がある程度出来るようになっていた。


 魔力を節約する必要が無い公介にとって、流す場所の限定はいらない技術だが、密度を高めるのは使える。


「正直、今日中に出来るとは思っていなかったよ。これなら空の飛び方を教えても大丈夫そうだ」


「おぉ。ついに」


 固唾を飲む公介。

 高所恐怖症では無いが、仮に飛べたとして上空で急に飛べなくなったらどうしようという気持ちから、今まで対して踏み込んでいなかった分野。


 魔力の扱いが上手くなり、自信がついた今は、それもワクワクに変わっていた。


「方法は単純。まずは体に流している魔力を外側にコーティングするように流すんだ」


 言われた通り実践してみるが、なかなか上手くいかない。

 魔力が外側にある分、流そうとしても、外へ逃げてしまう。


「逃げるな...逃げるな...逃げるな...」


 逃げようとする魔力を捕まえ、でも流すのは外側。

 絶妙なコントロールを要求されるこのやり方に苦戦するも30分程でなんとなく形にはなった。

 それでも多少は外へ逃げてしまっているが。


「私も結構苦労したのだが、君の素質は想像以上らしい。羨ましい限りだ」


 公介の飲み込みの早さに驚かされた一国は次の段階へ入る前にあることを説明する。


「では次の段階へ行く前に、魔力の放出についてやってもらう必要がある」


「魔力の放出?」


 聞き慣れない単語にオウム返してしまう。


「魔力を体から離れたところで操作する技術だ。こんなふうにね」


 見えやすいよう手の平を上にし、前へ突き出す一国。

 すると薄紫色の玉が形成されていく。

 それを空中に投げると、小規模だが爆発を起こした。


「ダンジョン産でも飛び道具系の武器はあるが、こっちの方が手軽だ。その分難しいがね」


(これは...)


 融合体がやっていたものと同じだと思ったが、弱っていた姿を目撃しただけだと一国には話している為、口には出さない。


 飛び道具系の武器に限らず、ダンジョン産の武器は持つことで体の一部のように魔力を流せるが、武器無しで遠距離攻撃を行えるなら、便利なことこの上ない。


「慣れれば普通に出来るが、最初の内は形成させたい場所から一番近い部分に、流した魔力をせき止める感じだ。ダムのように溜めると言ってもいい」


「ダム...ダム...ダム...」


 手の平に魔力をせき止めることには成功するが、形成には至らない。


「体から離れた魔力を操作するのはかなり難しいんだ。因みにさっき空を飛ぶ時に教えたコーティングも、飛ぶと言うよりはコーティングした魔力を操作して浮かせると言うべきかな」


 そう言って公介の前で自由に飛翔する一国。

 空を飛ぶより、魔力の玉を形成する方が体から魔力がより離れている分、難しいらしい。


「難しい技術だが、習得すれば戦いの幅が広がることは間違いない」


「ダム...浮かせる...ダム...浮かせる...」


 耳に入っているのか心配になったが、集中出来ることは良いことだと思い、見守っていた。






 そして夕方、玉の形成にはまだ至っていないが、空を飛ぶことには成功していた。


「本当に凄いな。まだ自由に飛翔とは言えないが、驚異的な成長速度だ。何か特別な力でもあるのかい」


「まさか。そんなのありませんよ」


 遠回しに探りを入れてくる一国にそう返したものの、自由設定のスキルやーーーの正体など、特別な力は確かに思い当たる。

 それのお陰かは分からないが。


「今日はもう終わりにするが、このまま飛行機で帰るかい? この施設は明日まで使わせてもらえるが」


「勿論明日もやります」


 家に帰っても誰もいない上に、協会からの依頼もたまにしか来ない。

 元々何処かに泊まってゆっくりして帰るつもりだったので、宿泊の用意もしてきた。


 断る理由など無い。


「良い返事だ。やる気のある若者は大歓迎だよ」


 駐屯地内の寮に空いてる部屋があり、一国はそこへ泊まるらしいが、公介は協会のホテルに泊まることにした。


 北海道最大の空港の近くだからと言うべきか、大都市では無いにしろ、遠方から来た開拓者の為に建てられている。


 ダンジョンは人によっては活動する時間が夜まで延びることを考慮して、空いている部屋があれば24時間チェックイン出来る。


 料理も会場にいつでも用意してあり、プラン次第では好きな時間に好きなだけ取っていい仕組みだ。


 と言ってもシェフが作った料理を食べられるのは朝昼晩など、皆が食べるであろう時間帯のみで、それ以外はパンやおにぎりなど決まったものだけだが。






 時刻は約18時。

 協会のホテルまで送っていこうと言われたが、そこまでしてもらわなくても大丈夫だと断り、タクシーで向かった。


 口座の残高は1億7000万円以上あり、タクシー代も全然気にならない。


(あまりこういう考え方は良くないのかもしれないけど)


 ホテルへ入るとスタッフは最低限の人数しかおらず、チェックインもチェックアウトもタッチパネルで行い、滞在時間も好きなように決められる。


(まるで大規模なネカフェだな。国の本気を感じるわ)


 設備が整っている分、値は張るが、ネットカフェや漫画喫茶の手軽さとホテル特有の特別感のある雰囲気が上手いこと共存している。


 ダイナミックプライシング方式を採用していて、決まった価格は存在しないが、今の公介にとって価格の違いなど誤差だ。


(だからそういう考え方は良くないんだよ)


 タッチパネルのお陰で対面での面倒臭い手続きは不要だが、開拓者免許をかざすとさらに個人情報の入力も必要なく、支払いもチイチョウの時に作った協会のカードで一瞬で終わる。


(便利なシステムだ)


 部屋の質は皆同じだが、一部グレードが高い部屋がいくつかあり、空いていたのでそこに決めた。


 人が作る料理が食べられる時間は夜は18時から21時まであり、まだ余裕がある為、大浴場でゆっくりしてから行っても時間はあるだろう。


 ダンジョンへの穴を開き、中で練習することも考えたが、部屋の中で練習すると魔力が暴発した時に危ないと言われていたので、やめておいた。


(急に上手くなってたら部屋の中で練習してたって思われるもんな)






 次の日、またタクシーで駐屯地へ向かうと入り口で一国が待機していた。

 昨日と同じ訓練場へ向かい、練習を再開する。


 午前が終わる頃には、空もかなり自在に飛べるようになり、魔力玉も形成にまで至っていた。


「こりゃあ参ったな。私がいなくても練習が出来るように、色々と自分なりに練習方法をメモしていたんだが、渡す必要は無さそうだ」


「日本最強の男に教わってるんですから、成長速度が高いのも当然ですよ」


 お世辞が上手いと言われたが、そんなつもりはない。


「玉を形成出来るようになれば、それ以外の形にも変化させられるようになるぞ。例えば、相手の進路上に障害物のように形成して転ばせたり、デコピンをする前に拘束させたりね」


「あ、やっぱりあれ一国さんの仕業だったんじゃないですか!?」


 やはりそうかと指摘したが、笑って誤魔化される。

 公介を拘束したのはエマが丁子にやったことと同じものだ。


「さて、午後は精度を高める練習だ。流す場所の限定、密度を高める、飛翔、形成、それぞれおさらいしていくぞ」


「はい。お願いします」


 限られた時間の中でみっちり教え込まれた公介であった。

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