第56話 両立

「魔力の使い方?」


 使い方とはスキルを使う為に消費したり、体に流して身体強化スキルと似たようなことをするのか主な使い方だが。


「えっと...自慢したい訳じゃ無いですけど、結構魔力制御には自身ありますよ」


 自由設定で魔力制御の値も魔力量同様いじれる為、下手をすれば一国よりも高いかもしれない。


「はっはっはっ。ダンジョン出現以降、若者の間では数値だけで強さを判断するのが流行っているようだが、人間の強さとは数値だけで表せるものではないよ」


 公介の心を見透かしたように魔力制御の高さの話では無いと言う。


「確かに魔力量も魔力制御の値も高いに越したことは無いが、それをどう生かすかは結局ここ次第だ」


 自分の頭を指差しながら話す一国。


「えっと...つまりそれを生かすとどんな事が出来るんですか?」


 公介は少しだけ興味が湧いてきた。


「ただスキルの使用や身体機能を向上させる燃料に消費するだけじゃなく、インドのホテルでネルキス君が質問していたように空を飛ぶことだって出来るようになる。簡単では無いけどね」


 実際にそういった芸当が出来る者達をテレビで見たことはあるがやり方は知らない、いや放送されていたとしても番組を見終わった頃には忘れているタイプだ。

 公介にとっては覚える必要も無いだろう。


「それを俺に教えてもらえるんですか?」


「あぁそうだ。融合体がいた場所で君を見た時、君の体から魔力が漏れているのを感じたんだ。あの作戦で生き残る程の実力を持っていながら、勿体無いと思ってね」


 これは半分正解で半分は別の理由がある。

 同じ日本人として、素質のある若者を自分の手で指導したいという気持ちは本当だが、公介が融合体の討伐に関係しているのであれば、自分達を救ってくれた恩返しをしたいという気持ちもある。


 ただ一国がこれから教えようと思っている期間で、全てを覚えてくれるとは思っていない。

 あくまでもそういう使い方もあるという事を知ってもらいたいのだ。


(だがもし関係していたとして、真っ向から実力で倒したのか。それとも特殊なスキルを持っていたのかは分からない。どちらにせよ彼が将来道を外さないよう、今のうちに大人が導いてやらねば)


 政府が懸念していた通り、スキルを使った犯罪は起こっている。

 使えないスキルを持った者が多い世の中で、有用なスキル持ちは優遇されやすく、自分を過信して非行に走るケースがある。


 WMデバイスが鎮圧に一役買っているものの、スキルによっては手が付けられないこともあり、社会問題になりかけている。


 自分達でも敵わなかった融合体を無傷で倒せるのだとしたら、実力だろうがスキルだろうが敵に回してはいけない。


「勿体無い...ですか」


 魔力をほぼ一瞬で回復出来る影響か、今までそういったことは考えてこなかった。


「まあ詳しいことは向こうで話そう。実際に見た方が早いだろう」


 乗ってから15分程で到着した駐屯地。

 向かったのは3棟の大きな正方形の建物が並ぶ場所。


「なんか頑丈そうな建物ですね」


「魔力に耐えられるよう、厚さ1mのコンクリートにミスリルを配合しているからね」


 ダンジョン内に出現する鉱石は、[採掘]スキルを持った者だけが壊すことで採掘出来る。


 その中でもミスリルは出現率が低く、さらに[採掘]のスキルを持っている者でもかなり熟練度が高くなければ取れない金属だ。


 貴重だが、元々ミスリル自体にかなりの魔力が流れていることから、訓練場の建物に採用された。


「それはまた贅沢な訓練場ですね」


「普通の壁じゃ魔力に対しては脆いからね。通常は数百メートルの広い場所で行うが、皆が訓練するには場所が足りなくなる。だから魔力が少ない内は、ここで訓練するんだ」


 中へ案内されると、ほぼ何も無いと言ってもいいほど殺風景だった。


 機材を置いていても戦闘の余波で壊れてしまうからだろうか。


「公介君。先ずは君の力を見てみたい」


 そう言って一国は公介に指輪のようなものを渡す。


「え? いきなり大胆じゃ」


「プロポーズじゃないよ。これはアイテムだ」


 魔力量がどんなに高くても、その者の魔力量を100までにするアイテムだそう。


「へぇーそんなのがあるんですね」


「お互いの魔力量を同じにした方が言い訳が出来ないだろう。お互いにスキルの使用もなし。私もそうだが、防護服も着ていないようだね」


 自分の魔力量を言った覚えは無いが、まるで100以上は絶対にあるだろうと、言いたげな目をしていた。


「なるほど。これを使って戦ってみようということですか......ちょっとトイレ行ってきてもいいですか」


「勿論構わないよ。トイレは向こうだ」


 発声切替スキルで他のスキルをオフにしたいが、目の前で発声するわけにもいかず、トイレへ向かった公介。


 数分後、戻ってきた公介は、一国と一定の距離で向き合う。


「これはあくまで手合わせであって決闘罪には当たらないから安心してくれ。と言っても、君の方は全力でかかってきても構わないよ」


「分かりました」


 正直、スキル無しで同じ魔力量なら世界最強と言われている一国に勝てるなんて思ってはいない。


(魔力制御だけじゃ表せない強さ。見せてもらいますよ)


 いつでも来いと言わんばかりに両手を広げている一国に向かっていくが、


「うぉっ!?」


 足に何かが引っ掛かった。

 確認するもそこには何もない。

 慌てて起き上がり体勢を立て直すが一国は動かないままだ。


「つまずいて転んでいる隙を狙うのは卑怯だからね。さあ、気を取り直して」


(絶対なにか仕掛けてたな)


 今度こそ一国へ向かっていき、右ストレートを繰り出すが、魔力量に気を配らなければいけない為、威力はいつもとまるで違う。


 体を少し横にするだけで躱されるが、1度目の攻撃が当たるなどとは思っていない。

 出した拳をそのまま横に一閃してラリアットのようにするが、それも後ろに少しジャンプするだけで躱された。


「魔力制御に自信を持っているだけあって、体に流すのは上手いじゃないか」


「一国さんこそ余裕たっぷりですね」


 その後も手や足で何度も攻撃を繰り返すが、一向に当たる気配がない。

 魔力がかなり少なくなってきた公介だが、一国の表情は全然変わっていない。


「当たりさえすれば...って思ってくる頃合いかな」


「よく分かりましたね」


 公介が答えると、一国はなんと次の攻撃は避けないと言い出した。


「え、いいんですか」


「勿論だ。手でガードすらしないであげよう。全力で来なさい」


 その挑発に乗った公介は残ってる魔力を全て使い、渾身の一撃を腹に叩き込むが、


「か、かってぇー」


 鉄を殴ったかのような錯覚を覚えた。


「さて、公介君の魔力も無くなってしまったようだし、1回ぐらい反撃しておくべきかな」


 その言葉を聞いて、直ぐ様後ろに下がろうとするが、何故か体が動かない。


 動揺している公介に一国は人差し指と親指でオデコにデコピンを喰らわせた。


 たったそれだけで軽く10メートルは飛ばされてしまう。


「いぃてててて!」


 暫く転げ回る公介に一国は手を差し伸べながら話し掛ける。


「因みに今の攻撃、使った魔力は1にも満たないよ」


 魔力が枯渇していたのだから、生身に喰らって痛いのは当然だが、一国も今の攻撃にはほとんど魔力を込めていなかった。


「一国さんは今どのくらい魔力残ってるんですか?」


 魔力を込めた自分の攻撃を回避するには、当然向こうも魔力を体に流して速さを増さないといけない筈だが、


「そうだね、9割ぐらいは残っているかな」


「きゅ!? 9割!?」


 あまりの違いに驚愕する。

 自分だって特段魔力を無駄に使ったという意識は無い。


 仮に避ける方が攻撃側より魔力を消費しなかったのだとしても、そんなに差が出るものなのか。


「魔力制御が高いお陰で、体に魔力を流すプロセスは完璧と言ってもいい。ただ無駄なところにまで流してしまうのはよくないね」


「無駄なところ?」


 一国は説明を続ける。


「魔力を水に例えると、魔力量は貯水タンク、魔力制御は水道管の詰りや蛇口の錆だ。君の水道管はどこも詰りが無く、蛇口も錆びていないから水の勢いも自在に操れる。問題は流す場所だ。右手でパンチを繰り出している時に左手にまで流す必要は無い。さらに此方へ向かって来ている時はそもそも手に流す必要すらない」


 公介はどんな時も常にエンジンを吹かしている状態らしい。

 そんなことをすれば魔力など直ぐに枯渇してしまうと。


「魔力量は透明水晶を割って増やすが、魔力制御は何度も体に流すことで自然と上達し、数値が上がっていくものだ。だがその上がり方には個人差があるからね。成長が遅いと、自然と覚えていく者も多いが、逆に早い者はそういったことを覚えないままになってしまうことがある。君もおそらくその類いだろう」


 確かに当たっている。

 成長が早いどころか、一瞬で成長してしまったのだから。


「だが、心配することはない。成長が早いのは、それだけ才能があるということだ。若い内に気付けたのは寧ろ幸運と言えるだろう」


 一国の言葉に理解はしたが、それだけでは納得できない部分がある。


「でも一国さん。俺にデコピンした時、魔力は1も使ってないって言ってましたよね。流す場所を限定するだけで、あんなに威力が出るのはどうしてですか?」


 魔力を節約したからといって威力が高まる理由にはならないのではないかと指摘するが、一国はその質問も予想していたようだ。


「魔力の密度を高めているんだよ。あのデコピンは人差し指の爪先に普段流すより多くの魔力を集めたんだ。魔力の乗車率を高めたと言えば分かりやすいかな」


 手に魔力を1流すのと爪先に1流すのとでは同じ量でも魔力の濃さが違う。


 当たる部分にだけ流れていればいいだろうという考え方で、融合体と戦った時にも、一国はこれを実践していた。


「だがあまり限定し過ぎると少しズレただけで、流れていない場所で当たる可能性があるからね。そこは注意すべきだ」


 腹へ攻撃した時に鉄のように固かったのも、当たる部分にだけ魔力の密度を高めたからだが、少しズレたら生身に喰らってしまうリスクがある。

 融合体程の敵なら、一撃喰らっただけで終わりだ。


「節約しながら威力も高めるのか...凄く勉強になります」


「それは良かった。まだまだ魔力には使い方があるが、もうお昼だからね。その授業は午後にしよう」


 この駐屯地の食堂で自分達の分も用意してくれているそうだ。

 午後はどんなことを教えてくれるのか、楽しみな公介であった。






 その後、一国は公介のことで少し考えていた。


(あの魔力の使い方で融合体を真っ向から倒すには、やはり何か特殊なスキルを持っているのか。協会の福地副会長には詮索はするなと言われているから、聞くわけにはいかないが、少なくとも純粋な子のようで良かった)


 公介は最初、一国の顔に向けてパンチをしていたが、自分が避けないと宣言した時の攻撃は腹へのものだった。

 絶対に当たると分かっている攻撃を人間の顔目掛けて放つことは出来ないということだろう。


(あの様子ならもっと魔力の使い方を教えても大丈夫そうだな。有給取った上に、無理言ってここを貸し出してもらった甲斐がありそうだ)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る